アセットアロケーションの最適化(ロバート・カーバー)

Finance

 

本書はヘッジファンドに勤務していた著者がポートフォリオ構築について解説した書籍である。おそらく本書を書く際に大量のシミュレーションをしていたと思われるが、文書中には数式はほとんどなく、結果がまとめられて書いてあるので数字が苦手な人にも読みやすい本だろう。

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リスク別のアセットアロケーション

本書のアセットアロケーションの要点としては3点挙げられ、それは、投資家の許容リスクに応じたポートフォリオはどのようなものか、ポートフォリオのアセット保有割合はどの程度にするか、モデルを利用するならばどのようなものを利用するか?といった点になる。

 

本書ではリスク別の許容度を5段階程度に分けて説明していたが、イメージ的にはロボットアドバイザーのように、リスク別にポートフォリオを構成するサービスを思い浮かべたら良いと思う。各々が取れる最適なリスクを選んでポートフォリオの基本構成を選べば良い。ところで、リスクフリーレートを取り除いた際の最大シャープレシオのポートフォリオとしてはレイ・ダリオのオールウェザーに近い株式と債券の構成のものが紹介されていた。

 

リスク許容度が高い人は「シャープレシオが最大のポートフォリオにレバレッジを掛けよ」とのことだったが本書はレバレッジはフォーカス外だったため本書内には解説はなかった。残念。

アロケーションの基本の考え方

アロケーションは分散をとにかく行え、というのが印象的だった。本書の前提としてタイミングを狙ったり分析を行ったりというのはあまり効果がないということなのか、基本的にはしっかり分散してポートフォリオ組んでリスクを下げましょう、というのが一貫したスタンス。

 

アロケーションは先程の大まかなリスク別の基本ポートフォリオに従って株式・債券・オルタナティブを分けて、更にそれをどんどんと分割していく、ということになる。地域別、セクター別、債券の国別、残債期間、オルタナティブの様々なクラス別、、、ととにかく分散しましょう、ということらしい。買付の手数料さえ低くて数百ドルずつのみの保有でもしっかり元が取れるようなら細かく分けてもよいようだ。

 

著者がイギリス在住で、イギリスは株式の買い付けの際に結構高い手数料が取られるらしく、こうした手数料に負けないようなリターンが期待される際の買付額も紹介されていた。日本の証券会社の手数料もかなり高いが最近では最低手数料が撤廃されるなど、少しずつ手数料が安くなっているため、少額の投資家にもこうした分散投資はしやすい環境になっていると思う。

 

本書で特徴的なのが、保有の割合の考え方で、ハンドクラフト法という、それぞれのアセットのリスクが均等になるような重み付けを推奨している。このようなアロケーションは割合が比較的単純になりやすく、ポートフォリオは組みやすい。効率的フロンティアを追い求めるポートフォリオを頑張って作っても、そこまで劇的に有利になるわけではないらしい。これは、リターンの予測が非常に難しい一方で、リスクの予測は比較的確実性が高い、という性質に基づいているようだ、この性質については以前シャープレシオ最大化とリスク最小化について検証した際にまさに見られたもので納得感が強い。(以下記事参照)

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アロケーションの例に関してはかなり詳細に本書内で説明が加えられており、様々なポートフォリオとETFが紹介されている。アメリカやイギリスで買えるものが紹介されているだけなので日本の投資家がそのままでは真似できないものもあるが、こんなETFがあるんだ、と発見にはなった。

 

予測モデル

先にリターンの予測は難しいと述べたが、本書では2つの予測モデルを推奨している。推奨図書として以下の2つが挙げられているため、興味があれば読んでほしい。(私は読んでいないが。)

 

ラッセ・ペダーセンの『エフィシェントリー・イネフィシェント[Efficiently Inefficient : How Smart MoneyInvests and Market Prices Are Determined]』

ロバート・カーバーの『システマティックトレード』[パンローリング]

 

推奨されたモデルは1つはモメンタム、2つめは利回りを参考にしたモデルになる。どのように利用するかは本書を参照していただきたいが、「モメンタムウォーカー」や「魔法の公式」で推奨しているようにこれらのファクターはリターンを押し上げてくれるらしい。

 

 

感想

本書は他にも簡単な統計学的金融理論や、コストについて、様々なアセットクラスのリターンと相関、ポートフォリオのリバランス法などなど、多岐にわたる内容が紹介されている。これまでに私も何冊も投資の本は読んできたが初めて知るような内容もいくつかあり、参考にはなった。

 

本書を特におすすめしたいのは、ポートフォリオ理論が好きな人や、特に効率的市場を信じているものの、バランス型ファンドを買うだけじゃなくて自分でポートフォリオを組みたいと考えている人だろう。一方で、自分で個別株中心に投資したい人や、バランス型のファンドだけ買うと決めている人、何らかの特別な投資方法を見つけて大儲けしたい人は読む必要はないだろう。

 

本書はそもそもの値段がかなり高い。おまけに分量も700ページと超長い。アロケーションに関しての本を読んでいなければ手に取る価値はあると思うが、少し覚悟が必要なくらいの負担にはなる。ただ、自分でシミュレーションするのが難しい人にとっては数字付きでのデータが提供される分その価値はあるかもしれない。

 

長大な本書の内容を全ては紹介できないのでアロケーションを見直してみようと思った方はぜひ手にとって見てほしい。(重いのでKindleの方が良いと思うけれど。)

 

自身が比較的アロケーションは深く考えており、分散をしているので、本書を読んで新しく投資法を変えるということはないが、自分のファンドを暖かく見守ってやろうという気にはなった。年の変わり目も近くなっているので国別・セクター別のエクスポージャーの調整には本書の内容を応用してみようかとも思っている。

 

惜しむらくは、これだけボリュームある本で、シミュレーション結果もたくさんあるのだからもう少し理論的な解説もあっても良いような気はした。

 

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