レバレッジETFの減価を極力避ける方法

Finance
今回はレバレッジETFの批判意見の中で特に気になる長期的な減価問題について考えてみたいと思います。
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レバレッジETFの値動き

 
Direxionなどが販売しているレバレッジドETFは手数料や経費を除いた上で、原資産の3倍の値動きをするETFです。SPXLというレバレッジドETFであれば、原資産となるIVV(S&P500)が1%上昇したら約3%上昇し、1%低下したら約3%低下します。手数料や経費がかかるので実際の変動幅は押し下げられます。
 
この手数料や経費の影響については当ブログで分析を行っているので過去の記事をご参照ください。
 

長期的な減価とは?

実は私自身は減価と呼ぶのが嫌なんですが、レバレッジドETFでは長期的に保有すると原資産の3倍の値動きから離れた動きをする、ということがよく知られています。
 
っていうか日時変動が3倍になるだけなんだから長期で保有した時に3倍ではない、というのは複利を理解している人には当たり前だと思っているのですが、なるべく簡単に解説します。
 
例えば年率リターン10%のETF Aと年率リターン15%のETF Bがあるとします。1年あたりETF BはETF Aの1.5倍のリターンを叩き出す、ということで表現ができますね。どちらも1万円で購入すると、1年後のそれぞれの価格はETF A 11,000円、ETF B 11,500円になります。たしかに1年後のリターンは1000円と1500円で、ETF Bは1.5倍のリターンになります。
 
10年後はどうでしょうか?ETF Aは25,937円、ETF Bは40,455円となり、10年後のリターンはETF A 15,937円、ETF B 30,455円となるため、リターンとしては1.5倍どころか2倍になっています。
 
1年後のリターンは1.5倍でも、時間のスケールが変わると1.5倍から離れた倍率になる、というのが実感できますね。
 
1日あたり3倍の変動を示すETFだったとしても、上記の「年」を「日」に置き換えれば実感できるはずです。1日で3倍の値動きをしたとしても長いスパンで考えると値動きは3倍から乖離していきます。
 

1ヶ月の値動きを例に考えてみる

株式市場が空いているのが1ヶ月に約20日なので、20日分の変動を考えてみます。ETF Cと、ETF D(毎日ETF Cの3倍の値動きをする)を考えてみます。ETF Cが1%上がるとETF Dは3%上がる。ETF Cが1%下がるとETF Dは3%下がります。どちらも最初は100ドルの値段だとします。
 
例えば、1ヶ月(営業日は20日)ETF Cが毎日1%ずつ上昇した場合 ETF Cは122ドル、ETF Dは毎日3%ずつ上昇しますから、180ドルになります。リターンでいうと22ドルと80ドルなので3倍どころか約4倍のリターンが得られていますね。より大きいリターンを積み重ねていくと長い時間が経過するとさらに大きなリターンが得られる、ということです。
 
逆に1ヶ月(営業日は20日)ETF Cが毎日1%ずつ値下がりした場合、ETF Cは82ドル、ETF Dは54ドルになります。損失は18ドルと46ドルです。値下がりを続けたと思いきや、ETF Dの下げ幅はETF Cの3倍には及びません。下がり続けた場合、大きく下がる資産は損失は大きいですが、そもそも下がりすぎて1日あたりの値下がりのインパクトは3倍よりは小さくなります
 
次に、ETF Cが1ヶ月後も100ドルのままになるような例、例えば10回1%の上昇と、10回0.99%値下がりをした場合を考えます。この時、ETF Cは100→101→100→…と変動して1ヶ月後は100ドルのままですが、ETF Dは100→103→99.9→102.9→99.8→…と変動して1ヶ月後は99.4ドルに下がってしまいます。値動きを示したグラフは青がETF C、緑がETF Dを示しています。
 
 
このように相場が膠着している時にはレバレッジドETFは減価します。これは、レバレッジドETFの性質上、値段が高くなった時にレバレッジを維持するために買いましが必要な一方で値段が下がるとレバレッジを低くするために売る性質があるためです。つまり、高い時に買い、低い時に売る、という性質が問題なわけです。
 
ちなみに、掛け算には交換法則がありますから、先に10回値上がりしてそのあとに10回値下がりしても結果は同じです。
 
 
このような相場が続くと、ETF Cは100ドルのままですが、ETF Dは93.1ドルにまで下がってしまいます。持っているだけで損をする、ということがあるわけです。
 

値動き幅が大きいほど減価しやすい

もう一つ極端な例を考えてみます。暴落と暴騰の相場です。ETF Cがある日20%値下がりをして、翌日に25%値上がりをしたとします、この時のETF CとETF Dの値動きは
 
ETF C(青): 100 → 80 → 100
ETF D(緑): 100 → 40 → 70
 
になります。
 
掛け算の交換法則から、値上がりしたあとに値下がりしても結果は同じです。極端な値動きの結果、ETF Dはわずか2日にして30%も損をするということが起こり得るわけです。
 
このことから推察されることは、レバレッジドETFの性質上、上下の値動きがあれば内部での売買が発生し、高く買い安く売る結果として価値の低下が起こる、ということです。さらに、その程度を支配するのは値動きの激しさなのではないかと考えられます。値動きの激しさはすなわちリスク(ボラティリティ)の高さに直結します。
 
ボラティリティの高さ、といってもスケールによって様々な解釈があるため、もう一つ簡単な思考実験をしてみます。レバレッジドETFが例えば100ドルから10ドルまで価値が下がってしまった場合に元に戻るにはどれくらい大変なのか?ということです。
 
例えば先ほどの例でETF Cが4ヶ月毎日1%ずつ下がると価値は100ドルから44ドルまでさがります。リーマンショック級の大損害です。一方でETF Dは100ドルから8.7ドルまで下がります。価値が10分の1以下にまで下がる大事態です。
 
しかし、その後ETF Cが1%の上昇を4ヶ月+1日続けるとETF Cは再び100ドルに戻ります。同じ期間でETF Dは95.8ドルまで戻ります。差は4.2ドルですね。
 
仮にETF Cが連日5%ずつ上昇した場合、17日でETF Cは102.5ドルまで戻りますがその時点ではETF Dは94.0.ドルまでしか戻っていません。差は8.5ドルです。
 
値下がりと値上がりの順番が逆になっても結論は理論的には変わらないため、減価の影響は値動きの激しさに大きく影響されるのではないか、という仮説を立てました。
 

実際のレバレッジETFでの乖離の比較

 
そこで、実際のETFで検証をしてみました。対象はDirexionが出している3倍レバレッジETFです。年次リターンに換算した時、レバレッジETFのリターンの3分の1は原資産のリターンからどれほど劣後しているのかをみてみました。
 
以前の検討では金利による減価も問題にしていたため、なるべく同じ期間で、ETF間の差を比べるのが良いはずです。
 
まずはDirexionのサイトからレバレッジETFを35種類ピックアップしてみました。また、各ETFの保有資産から原資産となるインデックスに連動するETFを比較対象として選びます。ただし、比較対象に選んだ組み合わせのNAIL-ITB, GASL-FCG,DRN-VNQ, FAS-VFH, RETL-XRT,SOXL-SOXX,DFEN-ITAはレバレッジETFが直接保有していたわけではないため、同じインデックスに連動するETFとして私が主観的に選びました。
 

レバレッジETFと比較対象ETFの指標の計算

 
ETFと比較対象をリストにしたら、比較のためのデータを取得します。2013年以降の直近5年間のデータを対象にして比較対象のETFそれぞれの年率換算のリターン、リスク、シャープレシオを計算しています。ただ、2013年以降に始まったETFなどでは、レバETF、比較対象のETFうち後から始まった日付を起点としてデータを整理しています。
 
比較する指標はDiffに示した、
乖離幅 = レバレッジETFの年率リターン ÷ 3 – 比較対象ETFの年率リターン
です。
 
プロットするデータでは、それぞれのレバレッジETFについて、比較対象のETF、開始日、年あたりの乖離幅、年率リターン、年率リスク、年率シャープレシオをテーブルにしました。
 
  Original Inception
Diff
Return SharpeRatio StdDev
SPXL
IVV
2013/1/2
-1.84
13.48
1.09
12.42
EDC
EEM
2013/1/2
-4.33
0.17
0.01
18.81
BRZU
EWZ
2013/4/10
-9.59
-3.07
-0.09
33.06
YINN
FXI
2013/1/2
-2.13
2.34
0.10
22.79
DZK
EFA
2013/1/2
-3.24
4.36
0.31
14.14
EURL
VGK
2014/1/22
-3.79
0.71
0.04
15.83
INDL
INDA
2013/1/2
-5.87
3.96
0.19
20.90
JPNL
EWJ
2013/6/26
-3.48
5.37
0.34
15.73
LBJ
ILF
2013/1/2
-6.17
-3.25
-0.13
25.62
RUSL
RSX
2013/1/2
-8.02
-3.56
-0.12
30.30
KORU
EWY
2013/4/10
-5.39
3.11
0.16
19.29
MEXX
EWW
2017/5/3
-1.37
-13.78
-0.63
21.83
EUXL
FEZ
2017/7/5
-4.03
-3.70
-0.26
13.96
NUGT
GDX
2013/1/2
-7.25
-13.73
-0.34
39.82
JNUG
GDXJ
2013/10/3
-13.83
-6.19
-0.13
46.89
CURE
XLV
2013/1/2
-1.55
16.44
1.14
14.40
NAIL
ITB
2015/8/19
-5.22
1.13
0.05
20.70
ERX
XLE
2013/1/2
-4.83
0.90
0.05
19.79
GASL
FCG
2013/1/2
-2.02
-20.79
-0.57
36.20
GUSH
XOP
2015/5/29
-10.56
-8.55
-0.25
34.60
DRN
VNQ
2013/1/2
-2.99
7.51
0.52
14.45
FAS
VFH
2013/1/2
-2.16
13.67
0.90
15.13
RETL
XRT
2013/1/2
0.90
8.60
0.50
17.29
DPST
KRE
2015/8/20
-5.18
9.80
0.44
22.26
SOXL
SOXX
2013/1/2
-3.27
22.70
1.08
20.95
TECL
XLK
2013/1/2
-2.05
17.11
1.14
15.04
LABU
XBI
2015/5/28
-9.86
-0.17
-0.01
32.44
DFEN
ITA
2017/5/3
-2.04
17.98
1.17
15.41
DUSL
XLI
2017/5/3
-4.12
7.21
0.50
14.42
TPOR
IYT
2017/5/3
-3.95
11.13
0.66
16.85
UTSL
XLU
2017/5/3
-3.33
6.66
0.53
12.54
PILL
IHE
2015/10/26
-3.16
1.72
0.09
18.92
UBOT
BOTZ
2018/4/19
6.25
-30.63
-1.52
20.20
TYD
IEF
2013/1/2
-0.92
0.88
0.16
5.33
TMF
TLT
2013/1/2
-2.14
1.86
0.15
12.13

プロットして成績を比較

得られたデータをプロットに起こします。乖離幅を横軸に、リスクを縦軸にとったところ、明確な相関関係が見られました。乖離幅が少ないものはリスクが小さいものが多いようです。グラフでは、プロットが左上から右下へと並んでいるようにも見えます。
 
ただ、リスクが小さいだけでリターンも少ないものにレバレッジをかけても結局大きいリターンは得られないため、リターンやシャープレシオも視覚化できるようにしてやる必要があります。ここで、プロットしているリスクやリターン、シャープレシオは比較対象のETFのものであることに注意が必要です
 
年率リターンや年率シャープレシオを色で表してプロットに色をつけたグラフを下に示します。
 
統計学的な検定はしていないですが、どうも、リスクが少ない資産は乖離幅が少ないだけでなく、リターンも大きかったような印象があります。
 
逆の見方をすると、リターンが大きい緑色のプロットは右下のエリアに集まっています。とても乖離幅が大きかったNUGTやBRZUやRUSL、GUSH、LABUの原資産はいずれもリスクが高く、リターンも大きくないものでした。
 
シャープレシオについても、黄色のよりシャープレシオが高いETFは右下に集まり、左上のETFはあまりシャープレシオも高くないものが多いようです。
 
・乖離幅とリスクを比較(リターンで色付け)
 
・乖離幅とリスクを比較(シャープレシオで色付け)
 
※以下のコードには上記に含まれないプロットも含まれます。

結論

レバレッジETFのいわゆる減価問題は、日時リターンの変動幅が大きいことが大きく影響します。
 
これを避けるためには分散が極力低いものを選ぶ必要があります。同様に、リターンを求めるのであればリターンは高いに越したことはありません。
 
同じ期待リターンの原資産のレバレッジETFを購入するのに迷っているのであれば、リスクが低そうなものを選ぶ、というのが理にかなった選択になります。
 
これは単純にシャープレシオでは比較できない問題なのですが、リスクを低くして、リターンを高めるのが合理的というのはここでも重要なようです。

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