アンゲラ・メルケル 東ドイツの物理学者がヨーロッパの母になるまで(マリオンヴァン・ランテルゲム)

Book

「アンゲラ・メルケルがいなくなったら寂しい」というような叙情的な宣言から本書は始まる。

ドイツの首相として4期16年間努めて、ヨーロッパのリーダーの中ではシンボル的な存在になっているアンゲラ・メルケル首相は次期のドイツ首相には立候補しないことを表明して、12月2日に対人した。

アンゲラ・メルケルの退任後は、今までのように表舞台に出てくることはなくなる。この状況になった今、メルケルについてフランスのジャーナリストが書いたのが本書である。

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変化したメルケルの印象

あまり国際政治に詳しくなかった私のメルケルの最初の印象は、サッチャー的な強い女性というイメージである。2000年代に経済危機で世界がザワザワしていたときに同じユーロ圏の経済危機を助けない選択をしたことが印象深く、それが最初の印象だった。

しかし、中東の治安が悪くなり大量に難民がヨーロッパに流入してきた時はその印象とは異なり、メルケルは大量の難民を受け入れることを国際社会に表明した。難民がドイツで犯罪を働いている、とか、難民ばかりが優遇されるドイツ社会、といった批判もネット上ではみたが、この選択をしたことにより、また、次期的にBrexitも重なったことにより、ドイツはEUの中でも堂々とリーダーシップを取れる存在になったような印象がある。そしてトランプ政権が誕生したときにはメルケルは国際社会の中の民主主義リーダーの良心になった。

メルケルが首相になるまで

メルケルが昔物理学者だったというのは聞いたことがあったが、そこから転身してドイツの首相になったというのは驚きのストーリーだ。正直内政におけるメルケルの政治力などは本書をみてもあまり良くわからなかった。ドイツ銀行なんかは破綻寸前まで追い込まれたりしているし、EUの中ではマシとはいえ、ドイツの経済がずっと順風満帆なわけでもない。本書はあくまでフランス人が外国人として興味をそそられるメルケルの一面を取り上げたものだ。

メルケルの生い立ちは、東西ドイツが別れていた時代にさかのぼる。幼い頃に西ドイツ側から東ドイツに渡ったメルケル一家は東ドイツでメルケルを育てた。そして優秀な成績で物理学者になったメルケルは、東西ドイツの併合に伴って政治家に転身を遂げた。

少なくともドイツでは博識で外国語にも堪能だったメルケルはその能力を生かして政界でもどんどんと成り上がっていった。学歴が必ずしも政治的成功を約束しない日本とは大違いだ。そして政敵を蹴落とし、党首の座、そしてドイツ首相の座すらも射止めてしまう。女性リーダーが珍しかったあの時代において卓越した策士なのだと思う。

本書のメルケル像

本書を読んで少し物足りなかったのは、メルケルの周辺にいた人や環境のストーリーが語られる一方で、肝心のメルケルが話の語り部になっていないことだ。ほとんどのストーリーは著者がインタビューなどで得た情報を元に組み立てられている。なので、メルケルが何を考えてどう行動したのかはわからない。

むしろメルケルという存在自体が謎めいたもののように語られる。唯一本書のクライマックスで著者とメルケルが会話したシーンが出てくるが、それを除けばほとんどメルケル本人が登場してこない。むしろ最終章近くではフランスのエマニュエル・マクロンのインタビューがメルケルとの会話よりも長いのが滑稽に思える。

あくまで、本書はフランス人がフランス人の視点から書いたメルケルの話なのだろう。なんとなく全体を通してシニカルなのもフランス人っぽい。

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