まとまった資金の一括投資 vs 積立投資

Finance

投資界隈で度々話題に上がるこの議論。twitterを眺めていたら素朴な疑問が上がっていたので、具体的に検証してみました。

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問題の発端

質問というか確認なんですが、仮に現時点で相続等で5000万円の現金があるとして、普段の収入は生活ぎりぎりで追加投資する余力はない、 そういうときに毎年250万円ずつ投資して20年かけて投資額を5000万円にする(A:積立投資(Dollar Cost))のと、 半分の2500万を一括投資して運用(B:一括投資(Bulk))

20年後の運用の成果がどちらが安定する(期待値を実現する可能性が高い、再現性が高い)投資法なのか?

twitter @termot

単純な、株価がランダムウォークするという仮定のもとでは期待値が高くなるのはおそらく一括投資だろう、というのはなんとなく想像されたのですが、その実現確率というとあまり考えたことがありませんでした。

真実を探求するため、twitter有志はアマゾンの奥地へと向かった。

一括投資と積立投資

2つの投資法を比較する際に気づくのが、投資元本×期間が等しいということでしょう。元本が増えれば増えるほど、期間が伸びれば伸びるほど、市場に晒すメリットとリスクが増える事を考えるとこの2つの手法が市場に晒すリスクやチャンスは同じようにも思えてきます。

下の図はイメージを簡略化したものですが、三角形の面積(積立投資)と長方形の面積(一括投資)が等しくなることはみなさんならよくおわかりでしょう。

アーリーリタイアを夢見る多くの投資家にとって、具体的な目標になるのは、例えば、20年後までに1億円を作ってリタイアしたい!というようなものになるでしょう。再現性のある投資を行うことは、将来のアーリーリタイアの可能性をより高めることになるはずです。

この疑問を解決することは、まとまったお金があったときに、どれくらいのリターンが期待されるポートフォリオをどの程度のリスクを取って組むか、そしてどのような方法で投資するか、といった問題の一つの参考になりえます。

シミュレーションの条件

シミュレーションを行うにあたって、今回は次のような仮定をおいて計算していきます。
t年目の年率リターンx_t%は期待値μ 、分散σ^2 の正規分布に従うi.i.d系列である。(要するにランダムウォークする。)リスクフリーレートは0とする。(リスクフリーレートを設定して、超過リターンを比較しても結果は変わらないはずです。)

積立投資では、20年の期間で年初に同額を積み立てていき、20年目の年初に全額を積み立て終える。一括投資では、1年めの年初に半分を投資して、期間の終了時まで追加投資はしない。

このシミュレーションを様々な年率リターンの期待値(4%〜16%)、標準偏差(分散の平方根、5%〜50%)で行う。一つの組み合わせ辺り10万回ずつシミュレーションします。

途中で投資金額が0以下になるケースがでますが、先物などを使わなければ借金することは考えにくいため、その際は投資金額が0になったと考えます。そして、積立投資では翌年に改めて積立を行いますが、一括投資では再度の投資は行えないものとします。

最初の手持ちを5000万円として、20年間の投資が終わった最終的に手元に残る金額を比較する。ただし、資産額は複利で増えるので、10を底として対数変換した値(資産が1億円=10^8 なら、8です)を図示して比較する。

シミュレーションの結果

プログラムの出力はhtml形式でアップロードしました。
http://drkernel.net/data/onetime_vs_dollarcost_20year.html

トータルリターンの比較

まず、一定のリスクを取り、様々な期待リターンごとに、20年後の資産額とその分布を箱ひげ図で示してみます。なお、sigmaは年率の標準偏差(リスク, %)で、muは年率の期待リターン(%)です。

代表的なアセットの年率期待リターン(算術平均)、標準偏差をportfolio visualizerで調べたところ、それぞれ、米国株はリターン11.95%、標準偏差15.59%、新興国株は8.22%、22.76%、米国10年債は7.60%、8.06%、金が9.85%、20.03%でした。

sigma=0.1(リスク10%)のポートフォリオの比較

実線で示されるBulkが一括投資、点線のDollar Costが積立投資です。横軸はポートフォリオの期待リターン(3%, 6%, 9%, 12%, 15%を示しています。縦軸は実現された最終リターンを示しています。箱ひげ図は中央値(上位50%の値)と下位25%〜上位25%を示します。上下の線は1.5*IQRを示しています。平均値(mean)でないことに注意してください。

リスク10%は全力株式投資よりはリスクを抑えたポートフォリオになります。検討したいずれのリターンにおいても、一括投資のほうが、積立投資よりもリターンの中央値が高く、範囲もやや上振れしているようです。

区間の幅についてはどちらもあまり変わりがなさそうです。対数変換後なので数値だけで言えば、一括投資のほうが高くなります。ただし、ある一定額以上を目指す、という目的に対しては一括投資のほうが良さそうです。

sigma=0.4 (リスク40%)

リスク40%の場合を見てみましょう。これはかなりハイリスクな投資です。現物というよりはレバレッジETFなどを使って投資した場合を思い浮かべたほうが良いと思います。このケースでは、積立投資の中央値のほうが、一括投資よりもわずかにトータルリターンが良い結果になりました。ただし、後述しますが、平均値は実は若干一括投資のほうが高い結果になりました。

ただ、注目すべきはその値でしょう。一括投資の区間下限を見ると期待年率リターンに関わらず一定になっています。これは2500万円、つまり投資しなかったキャッシュに相当します。積立投資の下限も最後あたりで投資した金額に対するリターンに相当します。投資から得られた収益はこれらのケースではほぼ0です。

リスク40%、リターン15%の人の半数が20年後に実現する1億ちょっとの資産は、リスク10%、リターン6%の人の半数も実現しうる値であることに注意です。

現実的なポートフォリオ(リスク控えめ)でいうならば、一括投資の方が一定額を達成するという目標により近づきやすいと言えそうです。様々な条件を比較して分かったもう一つの点は、アーリーリタイアを目標に掲げる場合に過度なリスクを取ることは不確実性が高すぎて、そもそもアーリーリタイアの可能性を狭める可能性があるかもしれません。

他のリスク・リターンでの組み合わせについては前述したプログラムの出力を参照ください。

リスクの相対的な大きさの比較

今回の疑問は期待するトータルリターンに対するばらつきの大きさを比較したい、というのが主旨でしたので、最終資産額辺りの資産額の標準偏差を比較してみます。

これは、対数をとった資産額について、(資産額の標準偏差)/(資産額)をそれぞれで計算して比較したものです。縦軸がその値を示しますが、1以上の時は、一括投資(B)のトータルリターン辺り標準偏差が大きい(狙ったトータルリターンからのブレが大きい)、1以下の場合は積立投資(A)の方がブレが大きい、という事になります。
横軸は年率のリスクで、年率期待リターンごとにラインを引きました。

こうしてみると、以下のことが推察されます。
1. 期待年率リターンが高いほうが積立投資の方がブレが少ない。
2. 年率のリスクが高いポートフォリオの方が一括投資の方がブレが少ない。

この値が比較するのに妥当かどうかも検討が必要かもしれませんが、「どちらの投資法の方がより再現性が高いか?」という質問に対しては、「組むポートフォリオによる」といった回答が妥当なようにも思えてきます。期待リターンのことは別にしても。しかし、上ブレする分にこまる人は居ないはずなので、先程の解析と合わせるとどちらが望ましいかというと基本的に一括にしたいところです。

期待リターンの比較

20年後の資産額について対数をとった上で一括投資と積立投資の差を比較してみました。(ややこしいですが、数値は一括投資が積立投資の何倍の資産額か、に相当します。)こちらでも一括投資は一貫して積立投資よりも期待トータルリターンが高いことがわかります。

最後に、それぞれの手法の期待トータルリターン(最終資産額)と資産額の標準偏差を示します。

最終資産額

最終資産額の標準偏差

これは、最終的な資産額のばらつきの大きさを示します。先程の期待リターンと合わせて見ていきます。先程見たとおり、最終資産額については一括投資が一貫して有利そうです。

最終資産額に対する標準偏差(不安定性)については、直接比較はしにくいですが、リスクの高い投資のときには一括投資の方がより最終資産額の不安定性が増していくようです。ただしこれは、そもそもリスクが高い投資ではあまり元本が増える期待が持てないことも影響しているので、比較すること自体がナンセンスかもしれません。

結果のまとめ

一括投資と積立投資をした比較の結果をまとめます。

今回は、まとまった資金が得られたときに一括投資を行うか、分割して投資を行うかを比較しました。投資元本と年数をかけた値、つまり元本を市場に晒すリスクは同等、という条件での比較です。

  • 最終リターンについては一括投資を行ったほうが一貫して良い結果が得られる可能性が高い。
  • 投資期間終了時に一定額以上のトータルリターンを目指す場合も、一括投資を行った場合のほうが、実現可能性が高い。
  • 期待される最終リターンに対してどこまで近い最終リターンが実際に実現されるかについては、条件によって異なる可能性がある。もともとのポートフォリオの期待リターンが高いならば積立投資、ポートフォリオのリスクが高いならば、一括投資の方が良いかもしれない。ただし比較した指標は解釈が難しい。

今回のようにまとまった資金が入ってきたときで、十分な投資期間がとれるのであれば、自分なら一括投資を選ぶかな、と感じました。

現実の投資での注意点

ここまでシミュレーションをしてきて、一括投資派の方が増えたかと思います。実際はもっと複雑なので今回の議論だけでは足りないかもしれません。

ランダムウォークモデルでのシミュレーションを現実に落とし込むのは考察不足であることは否めません。実際には景気の波の影響などもあり、年率のリターンも自己相関が無い訳ではありません。また、正規分布では考えられないようなブラックスワンがいつ訪れるかわからないため、シミュレーションの結果が現実世界を忠実にあらわすわけではありません。

投資の方針を何らかの事情で途中で変更する可能性も出るかもしれません。そのため、早いうちに目標資産額を達成した投資家は、ブラックスワンによる毀損リスクを減らすために途中でポートフォリオのリスクを変更することも十分考えられます。また、現実にはリバランスを行い、一括投資派では一度破産しても残ったキャッシュを投資に回すことができるため、最終結果が変わる可能性があります。

アーリーリタイアを目指す多くの投資家は給与所得を投資に回すことで投資を行っていると思います。この場合には一概に一括投資が進められるわけではありません。というのもこのシナリオを実現しようと思えば、投資の初期ではレバレッジをかける必要が出てきます。すると金利コストなどで一括投資の期待リターンが目減りするため、今回のような比較は妥当ではなくなります。

シミュレーションは限定された条件の中での話なので、今回のような条件をおいてシミュレーションを行うと、こんな結果になるんだなあ、という程度にとらえていただければと思います。実際に投資に応用する場合は自分のリスク範囲内で自己判断でお願いいたします。

最後に、今回検討にあたったクエスチョンを提案してくださったてるるさん(@termot)シミュレーションのQCを行った上、解析についてのいくつかの提案と、疑義を提案してくださったてんさん(@tendy10tendy)にこの場を借りてお礼申し上げさせていただきます。

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