驚くほど低いリスクしかとらないのに、素晴らしいリターンを上げるような投資手法はあるのでしょうか?Ray Dalioのオールウェザーポートフォリオを軸に考えてみたいと思います。
Ray DalioのPRINCIPLES
先日レイ・ダリオのPRINCIPLESの人生と仕事の原則を読みました。レイ・ダリオは世界的に有名なヘッジファンドのBridgewater Associatesの会長であり、世界屈指の投資家です。PRINCIPLESは主に自己のマネジメント、組織や部下のマネジメントについて書かれていました。
PRINCIPLESというタイトルで、投資について書かれた書籍も今後発売するようですが、本書はあまり投資については触れられてはいません。
しかし、レイ・ダリオが自身の半生を振り返る中で、ピュア・アルファというファンドについての言及がありました。ピュア・アルファは市場の変動(ベータ)にほとんど依存せず収益を上げる事を主眼にしたファンドです。
そして、ピュア・アルファを実現するために、非常に複雑なコンピュータのシステムやテクニカル、マクロの考察を利用したということです。本の中に、「リスクを最小限にして素晴らしいリターンを得る」といった記載があったので、それについて考えてみようと思います。
オールウェザーポートフォリオの構成
また、レイ・ダリオが勧めるポートフォリオとして、オールウェザーポートフォリオが有名です。株式、債券、オルタナティブの資産にポートフォリオをバランスよく割り振ることで、リスクを非常に抑えて安定したリターンを上げるポートフォリオです。構成としては、以下のようになります。
- 30% Total Stock Market
- 40% Long Term Bonds
- 15% Intermediate Bonds
- 7.5% Commodities
- 7.5% Gold
成績はこちらのサイトを参考ください。
ところで、リスクを抑えてリターンを上げる、というと、単純にシャープレシオを上げるポートフォリオの事を思い浮かべますが、シャープレシオが高いポートフォリオはどのような構成になるのでしょうか?
シャープレシオの最適化
オールウェザーポートフォリオの主要な構成銘柄である、株式(SPY)、債券(TLT)、オルタナティブ(金:GLD、コモディティ:GSG)のデータを使用します。ある時点から一定期間遡った期間におけるリターン(配当込)とボラティリティを求めて、そこからシャープレシオが最大になるポートフォリオの構成を求めてみました。(※厳密には年率換算した幾何リターンと標準偏差の比を見ています。分析期間が短く値が発散しがちなのでリターン/リスク比と呼ぶことにします。LIBORの変化などがありますが、Risk Free Rateは設定せず(0として)に計算しています。)
上の図はある時点でのポートフォリオ構成を示します。例えば、2010年1月4日の時点から1ヶ月遡った期間の値動きから求められる、リターンリスク比が最大になる構成はSPY 86.6%, GSG 13.3%でした。1週間ごとに過去1ヶ月分の値動きをみて理想的なポートフォリオを算出してプロットしています。
下の図はそのポートフォリオが、1ヶ月の振り返り期間でどのようなリターン(Return)、ボラティリティ(StdDev)、リターンリスク比(SharpeRatioのところ)を示しています。(過去のデータってことです。)先程の例であれば、2009年12月4日にそのポートフォリオを組んでいれば良いポートフォリオになっていたはずです。
しかし、図を見て気づく方もいるかと思いますが、銘柄の構成が頻繁に切り替わっています。2009年12月3日の時点で推奨されたポートフォリオはなんとGLD(金) 100%でした。実際にはその後の金のリターンは芳しく無く、ポートフォリオとしては良いリターンは得られなかったはずです。
過去のデータから求めたシャープレシオ最適化ポートフォリオはリーマンショックの暴落は乗り切れたものの、結果的にこの4年ほどはほとんどリターンを上げられなかったようです。
こちらの図はPortfoliovisualizer(https://www.portfoliovisualizer.com/)のMarket Timing ModelsのAdaptive Allocationで作成しました。
バックテストを基にシャープレシオを最適化しようとしてもポートフォリオがコロコロ変わってしまい、売買が増えて疲れるだけになりそうです。ルックバック期間を3ヶ月に変えても同じような結果でした。全期間を平均すると、SPY 37.7%, TLT 30.5%, GLD 17.1%, GSG 14.6%の保有になっていました。
リスク(標準偏差)の最小化
ターゲットをボラティリティに変えてみたらどうでしょうか。ポートフォリオのボラティリティ(リターンの標準偏差)を最小にするようなポートフォリオを見てみます。
先ほどと同様に上の図は各時点でのポートフォリオ構成。ある時点から1ヶ月遡った値動きからボラティリティを最も抑えるポートフォリオを作成し、毎週の時点でそれを求めています。下の図は同じように年率換算した幾何リターン、ボラティリティとリターンリスク比です。
こちらも構成割合の変化が周期的に見られますが、リターンリスク比の最適化のときよりはまだマシに見えますね。平均して、ポートフォリオの構成はSPY 40%, TLT 42.8%, GLD 13.6% GSG 3.3%になっていました。
この比率はオールウェザーポートフォリオの比率(株式 30%, 長期債40%, 金+コモディティ 15%)に結構近いと思いませんか?
結局2006年から現在までのバックテストでは株式100%のポートフォリオに負けてしまうのには代わりありませんが、分散の最小化はテスト期間を通じて比較的機能しやすいような印象を受けました。
Portfolio Visualizerによれば、この期間、テスト VS 株式100%ではCAGR 7.08% vs 8.15%, Stdev 9.44% vs 14.82%, Drawdown 16.23% vs 50.97%, Sharpe Ratio 0.68 vs 0.55でした。もしこの期間にこのポートフォリオでレバレッジ運用をしていたら・・・などと悪魔のささやきが聞こえてきそうです。
もっとも、こんな短い期間のバックテストで自信をつけてフルレバレッジかけたら多分破産しますけれど。ボラティリティは実現しうる可能性の中では低くなっていますが、相場環境が悪いときはそれにつられてポートフォリオ自体のボラティリティも年率10-15%くらいにまでは上がってしまっています。
中短期債券の立ち位置について
上の例で期間の短い債券を採用しなかったのには理由があります。AGGなどの債券はボラティリティが低すぎて、同じような分析をかけるとほぼ債券だけのポートフォリオになります。これではボラティリティは低いけどリターンも望めませんね。
だからこそレイ・ダリオは、ボラティリティのそこそこあるアセットクラスをうまく組み合わせて、そこにさらにリスクを抑えるショックアブソーバーとしての中短期債を加えたのではないでしょうか。絶妙なバランスです。
しかし、さらに未来がどうなるかを精度高く予測するには、ブリッジウォーターのような才能が集まった組織が全力を上げて分析を行いポートフォリオの見直しを常に行う必要があるはずです。そこまでの精度を個人投資家が目指すのは難しいでしょう。
分散の最小化で投資家も安心?
オールウェザーポートフォリオのような発想で組んだポートフォリオはとても安全域が高いものでした。安定したポートフォリオを保有することでついついチェックしてしまいがちな市場の変動も気にせずに快適な睡眠も取れるようになりそうですね。
- 株式、債券、金を混ぜたオールウェザーポートフォリオは「リスクを極力抑える」ためには良い構成になっている。
- 短期間の過去の成績を参照してもリターンリスク比を高めるのは難しい。
- レバレッジをかけるときは全体の相場環境を意識したリスクの調整が必要
安全域が確保できれば少しくらいレバレッジをかけてみたくもなりそうですが、、、金利の動向や、各アセット間の相関関係などは注意深く見る必要がありそうです。レバレッジをかければ必然的にリスクは増して経費が多くかかります。
twitterで知り合った方でこうした最小分散ポートフォリオに取り組まれている神谷正敏さん(https://kamiyamasatoshi.com/launch/)という方もいらっしゃいます。今後もこうした戦略が安全に資産を増やせる方法になるか、気になりますね。
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