前回の記事で超長期の債券インデックスをシミュレーションしてみました。完璧というレベルではないですが、チャートの形状やリターンは良く近似できることがわかりました。シミュレーションには十分そうです。
株式インデックスの再現
再現、とは言ってもS&P500のインデックス自体はYahoo Financeから1920年ごろから簡単に取得できます。ただ、このインデックスには配当が含まれておらず、実際の運用上では配当によるリターンは大きいため、配当込みリターンを計算する必要があります。
幸い、quandlという超強力なサイトで長期のS&P500のリターンが掲載(コード:MULTPL/SP500_DIV_YIELD_MONTH)されていたのでそちらを取得してインデックスに追加してみました。
S&P500のETFであるSPYの配当込みリターンとシミュレーションしたS&P500ファンドのリターンはほぼ完全に一致しており、相関係数は0.998でした。株式のリターンは高精度で再現できました。比較しているグラフが重なって見えなくなるくらいです。
レバレッジファンドのシミュレーション
ここまで解析で導いてきた近似式、
(レバレッジファンドの1日の価格変動) = (インデックス(配当込み)の価格変動) × 3 −(支払う金利)×2
を元にレバレッジを書けた株式や債券ファンドのリターンをシミュレーションしてみました。金利はFREDから取得した1年債の金利を使用しています。
ただし、インデックス×3や金利×2については既存のファンドとの関係をより良く近似するために3.3や2.3など少し変更しており、また誤差を補正するための項を付け加えています。なので、実際の式としては
インデックス(配当込み)の価格変動×a(≈3) – 金利×b(≈2) + E(誤差項)
としてより実際のETFに近似するようにフィットさせています。
S&P500から作った3倍レバレッジ株式ファンド(疑似SPXL)は、実際のSPXLと相関係数0.997とかなりそっくりなリターンを示しました。また、シミュレーションから求めたレバレッジ長期債権ファンドもTMFと相関係数0.99でした。
ただし、レバレッジをかけていないファンドに比べると少し誤差は大きくなります。レバレッジを書けたときの金利やトラッキングエラーなどなど様々な誤差が発生している事などが影響しているのでしょうか。何れにせよ、数%程度はリターンに誤差が発生することは覚悟したほうが良さそうです。シミュレーションと実際のETFのリターンの誤差から±2SD程度の予測の幅も示しました。
2009/1/1〜2020/1/1 | SPXL | シミュレーション |
Annualized Return | 34.97 | 36.68 |
Annualized Standard Deviation | 40.65 | 41.45 |
Worst Drawdown | 49.16 | 49.62 |
Annualized Sharpe Ratio (Rf=0%) | 0.844 | 0.902 |
2009/5/1〜 | TMF | シミュレーション |
Annualized Return | 7.66 | 6.81 |
Annualized Standard Deviation | 39.15 | 39.2 |
Worst Drawdown | 49.74 | 54.56 |
Annualized Sharpe Ratio (Rf=0%) | 0.196 | 0.173 |
予測の幅は、シミュレーションのズレを正規分布で最適化した上でブートストラップ法で95%信頼区間を求めています。
レバレッジファンドシミュレーションのリターン
各ファンドの累積リターンはこんな感じになりました。
レバレッジ株式ファンドのリターン
黄線がSPXLのシミュレーションです。赤線のS&P500のリターンに比べても最終的なリターンは10倍になっていますが、リーマンショックでのドローダウンではS&P500を下回ったりしています。金利が高い時代もあり、70-80年の頃はほとんど増加していないのが特徴的です。また、各不況の時のドローダウンは凄まじいです。限りなくゼロに近くなるようなダメージを食らっています。実際のファンドならそのまま償還されているかもしれません。
しかし、度重なる不況の後でも米国の経済の回復とともに一気に巻き返して多大なリターンをもたらしています。レバレッジファンドはこの70年間で14.1%/年のリターンが期待できて、10000倍になることが予測されます。ただ、S&P500のリターンが11.1%/年なのでリスクを取った割に多いと取るか少ないと取るかは個人の感覚におまかせします。実際、バフェットのほうが良いリターンですね。
S&P500 | TLTシミュレーション | SPXLシミュレーション | TMFシミュレーション | |
年率幾何リターン | 0.109 | 0.062 | 0.134 | 0.019 |
---|---|---|---|---|
年率標準偏差 | 0.144 | 0.100 | 0.433 | 0.336 |
最大ドローダウン | 0.511 | 0.218 | 0.961 | 0.983 |
シャープレシオ(Rf=0) | 0.755 | 0.623 | 0.309 | 0.057 |
レバレッジ債券ファンドのリターン
一方で、シミュレーションTMF(緑線)のほうは微妙な評価です。70年-80年にかけて米国の債券利率は上昇を続けていました。債券価格の変動を考えた時、利率の上昇が債券価格に与える影響は大きく、この期間、TMFを持っているとひたすら含み損に耐える必要があったはずです。実際、10年債(紫線)をただホールドしていればプラスになったのに、TMFのようなファンドに投資をしていたら焼け死にそうなダメージを食らっていたに違いありません。
利上げが終わり、債券のリターンがめざましくなった80年代以降はTMFは素晴らしいリターンを上げてくれています。利上げ時に長期債を持つと、目に見えて含み損を抱えるだけだ。シミュレーションは恐ろしい警告を発しています。
参照するインデックス自体に数%の誤差、金利分を引く際にも数%の誤差が生じうるので正確なデータとは言えませんが、全体の傾向が同様のものになるというのは確信を持っています。
次の記事ではいよいよ長期のデータをつかってROKOHOUSE式レバレッジPFのリターンを見ていきます。
コメント
とても貴重なデータで大変参考になります。
公開していただき、ありがとうございます。
続編楽しみにしています!
ありがとうございます。
あと数記事くらい続きますので楽しみにしていてくださいね。