前回までの記事で1950年以降のS&P500ファンド、債券ファンド、そしてそれらを使ったレバレッジファンドのデータを揃えることができました。これらを使ってROKOHOUSE式可変レバレッジドPFの超長期成績を見ていきます。
当初このブログでシミュレーションをしたときは私自身も債券価格の理論的な求め方もよく知らなかったし、レバレッジドファンドにどれくらい金利が影響を与えるか、配当金などはどのように作用するのかも理解していませんでした。また当時のRで金融データの解析もちゃんとやったことがなかったので手前味噌でやったところ多くの方に読んでいただけたのが驚きでした。
今回は以前よりももう少しリアルに近づいたシミュレーションができたかと思います。
使い材料は前回までの検討で作った株式、債券インデックスとそのレバレッジファンドのデータです。債券のレバレッジドファンドはどん底まで落ちているので始める前から嫌な予感がしますが、Pythonを使ってシミュレーションをします。
ROKOHOUSE式可変レバレッジドポートフォリオ
元々はhiroさんが執筆されているこちらの記事で紹介されていたものですが、株式単独のポートフォリオよりもリターンリスク比に優れる株:債券を組み合わせたポートフォリオを利用しつつ、レバレッジをかける事で株式100%のポートフォリオよりも良い成績を目指す戦略、と理解しています。
先日紹介したオルタナティブ投資入門でも紹介したようなワードを使うと、「アルファ」を狙える可能性があるものです。
ブログ記事内のシミュレーションでは2009年から2017年のシミュレーションで年率20%を超えるリターンを生む夢のようなポートフォリオとして紹介されていました。記事を読んで私も長期リターンが導き出せないかと四苦八苦して大雑把な検討をして見たところ良さそうだったので一部に取り入れるようにしました。
ただ、その後にレバレッジドファンドがデリバティブを数多く利用して構成されていることなどから、レバレッジファンドのリターンは金利にも大きく左右されるんじゃないか、という事が懸念されるようになりました。そもそも2009年から2017年は歴史的にも珍しいくらい低金利だった時代です。金利の影響がマスクされてわからなくなっていても不思議ではありません。先日レバレッジ投資家のオフ会に呼んでいただいてその時の話題にも上がって以降少しずつ検討を重ねていましたが、材料がついに揃ったので改めて超長期のレバレッジドポートフォリオの成績について紹介してみようと思います。
なお、レバレッジファンドについては取引コストなどもリターンの理論値からの乖離に影響する、と指摘がありましたが、そちらについては含まずにシミュレーションしています。
シミュレーション結果
レバレッジETFの価格シミュレーションは以下の記事で紹介しています。
ベンチマークとしてはS&P500に100%投資した場合と、S&P500と10年程度の債券に6:4に投資したポートフォリオを用意しました。いずれも3ヶ月に1度はリバランスするものとします。
レバレッジポートフォリオはROKOHOUSE式に習って、3種類のポートフォリオを組みました。
・リスク小(SPXL 30%, TMF 20%, 中期債 50%)
・リスク中(SPXL 35%, TMF 25%, 中期債 40%)
・リスク大(SPXL 40%, TMF 30%, 中期債 30%)長期のチャート作り、S&P500リターン(実データ、配当込み)と、長期債券ETF(20-30年債券を保有するTLTのシミュレーション)と比較してみました。ポートフォリオのリバランスは3ヶ月おきに行う設定としています。
※ SPXLはS&P500の3倍の値動きをするETFのシミュレーション、TMFはTLTの3倍の値動きをするETFのシミュレーションを使用しています。中期債の部分はIEFをイメージして7-10年の債券ETFをシミュレーションしました。
見にくいですが、長期のチャートを俯瞰することで全体の傾向を掴みます。y軸は対数スケールとなっています。横軸は1953年から2020年までの期間を表しています。
ベンチマークの株式100%(赤)と株債券(青)はどちらもそれなりの上下を繰り返しながらもまずまず順調に増加を続けています。株債券の方が確かにドローダウンが小さいですが、リターンとしては株式100%の方が良い事がわかります。
レバレッジドポートフォリオ(以下LPF)のリスク小、中、大はいずれも最終的にはS&P500に勝利を収めています。しかし、1970年ごろに最大値をつけたあと度重なる下落に見舞われ1975年までで約50-60%のドローダウンが発生してしまいます。ポートフォリオのリターンがレンジを抜けて再び上昇に向き始めたのは1985年ごろでした。この間実に18年LPFは不遇の時代を迎えたことになります。
この頃の年代というのが1960年代の好景気が終わり、1970年代ごろの株価の低迷、そして長く続く利上げにより金利が10%を超えるまでに上がった時代です。確かに、前回の記事で紹介したようにこの時期にレバレッジあり長期債券は消滅しかけるくらい減価していました。
1985年以降の成績はめざましく、以降は株式100%のポートフォリオを圧倒して最終的には1953年の頃から資産は約1400-3300倍にもなっています。この頃は金利としては最大で5-6%程度はあったもののLPFはリターンが高いばかりでなく、ドローダウンも株式100%に比べれば少なく済んでいます。
トータルの成績はこんな感じでした。
SP500 | 6:4 portfolio | LPF 低リスク | LPF 中リスク | LPF 高リスク | |
年率幾何リターン(%) | 10.9 | 9.4 | 10.8 | 11.4 | 11.8 |
年率標準偏差(%) | 14.4 | 9.6 | 16.4 | 18.8 | 21.2 |
最大ドローダウン(%) | 51.1 | 31.4 | 52.0 | 58.9 | 64.9 |
年率シャープレシオ(リスクフリーレートを0として計算) | 0.757 | 0.987 | 0.658 | 0.604 | 0.559 |
70年という長期のフォローで見えにくくなってはいますが、トータルではLPFは株式100%のポートフォリオよりも数%リターンが優れていました。
一方で標準偏差(リスク)やドローダウンは高く、ポートフォリオの効率性を示すシャープレシオは株債券はおろか株式100%よりも悪くなりました。
ドローダウンについては最大だったのは1970年代の株・債券が同時に下落したときでした。2000-2010年代に関しては32-43%の下落幅だったため、おそらくS&P500に100%投資するよりは少ないドローダウンで済んでいます。
レバレッジPFの夢は幻に終わるのか?
超長期の成績を見るといくつかのパターンが見えてきます。
1950〜1960年代の好景気の時代、この時期は割と期待通りに動いていました。
同じように1980年代後半から現代まで、幾度となく暴落を経験しながらもLPFはアウトパフォームを続けました。この殆どの期間で金利は3%は割っていません。そこそこの金利があってもLPFは機能する可能性があります。
1960年代後半から1980年代前半はLPFにとって最悪の時期でした。この時代は金利が高かっただけでなく、株式がレンジ相場だったなどと最悪の環境が続きました。
ここから考えられるLPFの負けパターンとしては、
・利上げによる長期債の長期の低迷によるリターン低下
・超高金利によるレバレッジドファンド自体のリターンの低下
この2つの要素が非常に大きいようです。
超長期チャートを見るだけで「やっぱりLPFは大したことない」、と結論付けるには早いように思います。
細かく分析していくために、次回の記事では年代別に区切ってリターンを見ていきます。
コメント
貴重な記事をありがとうございます。
drkernel さんの説明をもとに自分でも再現を行ってみました。大まかにはできたのですが分からない点がありまして、お忙しいとは思いますがもし良ければお教えいただけますでしょうか?
1. SPXL の累積はずれますでしょうか? 2013/09/16 ~ 2017/12/29 で 3倍トータルリターン、2倍金利、年率1%の経費率を考慮して計算したところ相関係数 0.999579 となりましたが累積リターンで見るとシミュレーションの方が 10% 程度上振れしました。
これは ETF 運用の際の買い付けコストによるものかなと思うのですが、drkernel さんのデータでもこの様なズレが発生しましたでしょうか?
2. 2つ前のポストで月次の利回りから TLT-like な価格変動を再現されているようですが、これから TMF を再現する際に必要な TLT の日次変動はどのように計算されていますでしょうか? ある月から次の月までの増減率を 30 などで幾何平均して日次換算している、ということでしょうか?
また、レバレッジが悪いのではなく TMF が効率の悪い商品なのではと考え (TMF はお金借りてきて米国政府に貸し付けるという気持ち悪い構造)、
SPXL:TLT=35:65 のポートフォリオについて検討してみました。
この比率ですと、株債券6040の大体の比率を維持しつつ、全体に2倍程度のレバレッジをかけられるはずですので
株式100%の場合よりもシャープレシオを改善するのではないかと考え、1950年から2017年 でバックテストしてみたところ
年率リターン ~16%, 標準偏差 ~19% 程度になりました。シャープレシオは 0.5程度になるようです(フリーリスクレートは 6% としました)。
こちらのポスト内でも紹介されている、株債券のリターンリスクを2倍程度にした値なので、大きく間違えてはいないと思うのですが、、
Excel で手作業でポチポチとやったので間違っていそうで、もしよければ drkernel さんの方でも確認いただけないでしょうか?
すいません、昨日コメントしましたSPXL:TLT=35:65ですが計算に間違いがありまして年率リターン12.5%, 標準偏差15.1%になるようです。お詫びして修正します。よろしくお願いします。
私のシミュレーションでは、2008年12月1日から2018年9月7日までのデータを使用してシミュレーションとSPXLを比較したところSPXL リターン40.1%/年(幾何リターン)、SD 41.4%/年、シミュレーション リターン42.6%/年、SD 39.2%/年でした。細かい金利変動を織り込まない計算のせいか、金利計算を取り込んでも実際の価格変動と数%/年のズレがあったので、経費率は計算には含めていません。累積の解釈は難しいですが、シミュレーションに完璧さは求めていないので年率数%程度ずれるのは誤差範囲内として特に深い考察はしていません。
日次変動についても再現せずに、月次の変動から直接TMFのリターンを計算しています。日次リターンのシミュレーションは正確性が上がる保証もないのでしていません。
私の方で計算したらSPXL:TLT = 35:65だとリターン 13%、SD 16%程度でした(4半期に1回リバランス)。maxドローダウンは50%、シャープレシオ0.25、ソルティノレシオ0.5でした。
この結果はシミュレーションの前提である金利を織り込んだ価格形成に依存するので私のデータを使用するとこのような結果になるのが必然だと思います。あくまで金利がコストとしてかかるという前提のシミュレーションだとこのような結果になるんだ、という程度に思っていただければと思います。
ご確認ありがとうございました。参考にします。