アフターデジタル(藤井保文、尾原和啓)

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アフターデジタルなビジネスのあり方

本書は、台頭する中国の新興企業の取り組みに注目して、デジタル化黎明期から時間が経ち、変化してきた新たなビジネスのあり方を紹介する。

デジタル黎明期の新興企業は1990年代ごろからインターネットを活用して新たな顧客体験を生み出してきたが、本書で紹介されるような企業は、リアルの世界とデジタルの世界を密接につなぐあり方をビジネスに持ち込んできた。本書ではこの概念のことを、Online Merges with Offline(OMO)と紹介している。OMOで特徴的なのは、以前は企業がリーチが難しかった詳細な顧客の情報をアプリなどのプラットフォームから得て、それを綿密に生かしていくことにある。

健康に関する情報を積極的に取りに行く平安保険や、顧客のリアル体験を向上するコーヒーチェーンの話、などなど、前世紀ではまだまだ貧しい国だった中国が近年になりテクノロジーを発展させ、急速に近代化していることがよく分かる。

こうした新しく精確なターゲッティングが行われたビジネスは、旧体制的なビジネスを駆逐していき、サービスや小売、ものづくりの分野に渡って商売のありかたを変えていくだろう、といった内容だ。

規制に対する考えの違い

本書で紹介される新しいビジネスの例の他に目につくことは、欧米と比べたときの中国の体制の違いだろうか。EUでは個人のデータの利用に関してGDPRという規則としてすでに実施されているが、対照的に、中国ではデータはインフラであり積極的に生かしていく方向に舵がとられている。また、その舵取りをするのが中国共産党であり、意思決定から実行までがトップダウン式に行われるため動きが早い。

動きが早いことは中国にとっては良いことかもしれない。しかし、先日も国内の企業のデータが中国に流出したことが問題になったように、どんどんと世界からデータを吸い上げられると他の国にしてみればたまったものではない。ボーダーレスになっているオンラインの世界でのルールは国際的な基準を守ってもらわないと困る。

中国の見せる理想郷をどこまで信じていいのか?

ところで、本書でもてはやされていた企業の一つにLuckin coffeeがある。OMOでシェアを急速に伸ばし、赤字企業ながらも店舗を急拡大して、今後中国でのスタバを脅かす存在になるのではないかとされた企業だ。

しかし、少し時間がたった今、Luckin coffeeといえば、1兆円以上にものぼる巨大粉飾決算で、上場していたNASDAQからも上場廃止になった企業としてのほうが有名かもしれない。破産は免れ、幹部を入れ替えて再起を図っているようだが、上場企業であっても、中国の統計や中国企業のアナウンスの数字をどこまで信じていいのかはわからない。また、素晴らしい技術を持っていても国の方針と合わなければ理不尽な制裁を受ける国でもある。AI!!DX!!ESG!!と横文字を並べて語られる夢も現実にはどこまで効果があるものなのかもわからないのが実情だろう。

成長株の罠にも共通する話だが、夢を語らなければ資金は集まらないが、語る企業の話は何割引かで解釈しないとLuckin coffeeの株主のように大損してしまうかもしれない。本書も、あと何年か経てば「こんな風に言われてる時もあったね」、と振り返られるかもしれない。もちろん、OMOというのはスマートフォン全盛の現代では中国企業だけではなく、個人データの取り扱いに慎重な米国企業だって同様の取り組みをしているため、国際的なビジネスの主流になる確率のほうが高いようには思うが。

初版が2019年で比較的新しい本ではあるが、あまりにも目まぐるしく変わるこのビジネス環境(もちろん新型コロナウイルスによる環境の変化も大きい要因だが)では本書で語られる内容も少し古く感じてしまうかもしれない。アフターデジタル2という本もあるので、本書が好きな人は読んでみるといいかもしれない。

スマホが登場する前にインターネットがもたらした世界の変化
本書と似たような感じで、インターネットの次に台頭する技術が比較的網羅的に紹介される。
急速に経済を発展させる中国のビジョン
 

 

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