日本の15歳はなぜ学力が高いのか? 5つの教育大国に学ぶ成功の秘密(Lucy Crehan)

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国際的な学力テスト高得点の国々の調査

本書の著者はイギリス人の教師。世界各国で行われているPISAという教育のレベルを測定するテストの平均点でハイスコアを叩き出している5カ国を選び訪問して、どのような教育環境なのかを調査した本である。Twitterでも交流があるたぬきち先生から勧められて読んでみた。

教育系の話は個人的には興味ある話である。というのも、我が家の家系は教育系の職についていた人が多かったせいか馴染みのある話でもあるし、学生時代は塾の講師とか家庭教師やらで私も僅かなお金を稼いでいつつも色々な生徒の指導に悩みながら過ごしていた経験からだろうか。自分の印象としては、学力の到達度としては、努力の効果は影響するが、才能の影響も大きい、といったものだ。

各国の教育

本書で調査対象になっていた5ヵ国は、フィンランド、日本、シンガポール、上海、カナダ、である。

フィンランドはお国柄らしく、教育格差を無くすことに重点を置いた教育制度がベースになっている。平等な教育環境が特徴的。教師になるハードルはやや高めで、教師は研究にも熱心な人が多い。

シンガポールは、建国以来設定された、成績によって進学可能な進路が決定してしまうシステムがある。このため、子供は競争的な環境に晒され、小さい頃から統一テストで高い点数を取るために猛勉強する。

上海も古代中国からの伝統を受け継ぎ毎日何時間も勉強に勤しむ。良い公立学校に進学して、統一テストで良い点を取ることが一流の大学に行く王道だからだ。ただし、都市で公共サービスを受けられる戸籍に制限があるため、上海では効率に通えない子供が私立の学校に通っており、PISAにはそのスコアは反映されていなかったりと問題があるようだ。

カナダはイギリス人の教師である筆者にとっては最も近い環境なためか、参考になるのでは、と書いてある。カナダでも15歳までは学力別のクラス分けは行わずに平等な環境を重視する。目標が多様で部活なども達成目標の一部になっていたり、リーダーシップなどの評価軸もある。また、成績優秀な子への配慮も忘れない。

日本の話の前に、本書の欠点としては、実地調査が著者の印象に強く影響しているので、どこで何を見たのかに非常に影響されているように思う。もちろん教育制度の調査もしているようだが、少し局所的な教育の感想が多いように感じた。それを踏まえた上で、日本の教育の特徴をかいつまんで紹介する。まず、中学校で重視されているのがグループ行動や規律だという事だ。そして忍耐力を学ぶことも学校教育の一つに組み込まれている。学習面については、教師が頻繁に異動することで学校間の教育の格差を減らしている。また、数学などでは概念の応用が学べるように例題のような具体例が重視されることで問題解決力を育てている。

子供の可能性を信じることが大事?

本書で繰り返し述べられていた中で、本質的に今回の調査対象となっている国々と一般的な西洋諸国との違いは、先天的な能力についての考え方だろう。イギリスなどでは、能力は先天的に決まっている部分が大きく、早くから教育内容でクラス別の内容を教えるべきだ、という見解が強いようだ。対照的に、PISAで高得点をとっている国々では、能力は伸ばすことができるため、教育のクラス分けを早い段階では行わない、という傾向が強く、これは東アジアで特徴的な考え方だとのことだ。おそらく筆者の中での結論の一つが平等な教育の提供こそがPISA高得点のカギだ、ということなのだろう。

PISA重視にどれほど意味があるのか?

ところで、本書で重要視されているPISAのスコアにはどれほど意味があるのだろうか?日本はPISAで高得点とはいえ、科学論文の数は他国に比べて別に増えてもいないし、GDPは伸びてもいない。また、世界的に評価が高い大学といえば、PISAスコアとしては上位ではないアメリカやイギリスに多い。東アジアは中等教育までは良いけれど、高等教育や大学院レベルの教育はアメリカやイギリスが優れている、というのが一般的な見解なのではないだろうか。もちろん、落ちこぼれをなるべく作らない、というのも大事なのだけれど、伸びる芽を最大限伸ばしていくのを両立させるのは難しそうに思ってしまう。

本書を読みながら、自分も高校1年生の時にPISAに使われただろう学力調査テストを受けたのを思い出していた。当時、先生が言っていたのは、うちの県ではいつもトップが高校受験の公立トップ校、中高一貫の自分の高校は万年2位とのことだった。大学受験ではこの差は逆転するのだが、結局はこの学力調査の結果に一番影響しているのは受験のために集中的に勉強する機会があるかどうかなのでは??と当時思ったのは覚えている。また、日本の教育の中では都市圏を始めとして中学受験も盛んであり、学校単位でクラス別の教育が行われているという実情は本書ではほとんど触れられていない。もちろん、地方ではそういうわけでもないので一部の状況ではあるのだが、日本の上位の大学への進学者がこのような12歳頃からの選抜を受けていることを思うと、どうも本書は大事なところを見落としているのではないかな、とも思ってしまう。

本書はイギリス人教師からの視点なので、調査対象から学びたい点が中心に述べられているが、逆に日本のような国々も他の国々から学ぶところはあるように思う。

制度が中心の本書ではあったが、教育は学び手が主役であることを忘れてはいけないということで、アメリカの教育学者のJohn Deweyの引用を最後に紹介しておく。”Education is not an affair of ‘telling’ and being told, but an active and constructive process.”

PISAでも重要な評価項目である、読解力がいかに大事か。
効果的な教育というのも近年では介入試験が行われたりして検証されるようになっている。

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