- 序 章 希望的観測
- 第1章 中国の夢
- 第2章 争う国々
- 第3章 アプローチしたのは中国
- 第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
- 第5章 アメリカという巨大な悪魔
- 第6章 中国のメッセージポリス
- 第7章 シャショウジィエン
- 第8章 資本主義者の欺瞞
- 第9章 2049年の中国の世界秩序
- 第10章 威嚇射撃
- 第11章 戦国としてのアメリカ
著者はCIAに長年つとめ、親中派としてアメリカの対中戦略のなかで中国の調査に長く関わってきた人物。ニクソン政権以来アメリカは中国との繋がりを深め、中国を支援する戦略をとってきた。しかし近年になり、中国のGDPは世界2位となり、アメリカに徐々に迫ろうとしている。中国はアメリカに従属しているわけではない。毛沢東が共産党政権を立ち上げた1949年以来、それまでの数百年間欧米に握られていた主導権(覇権)を中国の手に取り戻すべく血汗にじむような策略を張り巡らしてきたその成果がそろそろ実現しようとしている。
中国の中にもタカ派とハト派がいるが、歴代の中国の共産党総書記はいずれもタカ派的な性格があり、自らの国を弱者として主張しながら強国より支援を呼びながら自国の経済を強化してきた。昔はソ連に、そしれ70年代以降はアメリカに肩入れをするようになった。だからといって中国が民主化されていったわけではない。覇権国の陰で力を蓄える方便にすぎない。中国の共産党は国の実権を握ってから100年に渡る長期的な計画を一貫して続け、覇権国の力を取り戻す計画を進めていった。中国の姿勢が一貫していることは、反体制派、民主主義を信奉する人々が虐殺された事件に対する強固な検閲の体制などからも伺える。この計画は中国古代の戦国時代の各国の戦略から学んだ様々な策を用いた総力戦によって進められた。春秋戦国時代の戦略は中国の指導者が常に用いてきた。欧米各国はそのことについ最近まで全く気づいていなかった。直接的な武力の衝突では勝てないアメリカに対して政治的な力を使ったり、経済力を増すことや、他国に間接的にアメリカの国力を削ぐ努力をさせた。そして2010年代になり総書記となった習近平はその演説の中で「中国の夢」という言葉を多用しついに中国はその野心を世界中にさらけだすようになったのだ。
標的の国へ送るスパイ、自国のインターネットに対する強力な検閲、敵の敵を支援するような武器の売買などは総力戦の中で戦略として用いられている。相手の国力を削ぎながら、自らは世界のルールを守らずに世界の組織(WHOや世界銀行)を最大限利用することで最大限の急成長を遂げてきた。日本のGDPを抜き、世界第1位のGDPを持つアメリカを射程圏内にまで追い込んでいるのが2010年代の中国である。まだ軍事力はアメリカには及ばず、軍事への投資は遥かに少ないものの、経済力がアメリカを凌ぐようになった時、軍備拡張を行い世界の派遣をとることを視野にいれている。
中国が巧妙に立てた作戦で世界を牛耳ろうとするのを防ぐためにアメリカが(民主主義国陣営が)とるべき戦略についても明確に述べられている。総力戦には総力戦を、ということで中国のことをよく分析した上で対処を行っていくことが強調されている。
筆者はアメリカの対中国戦略の中心近くにいた人物であり、そんなに濃厚に中国との付き合いが何十年にも渡ってあるような人物がいまや明らかな中国の戦略に気づかないのは少し信じられないような気もするが、昔のはるかに貧しい中国を見てきたからそうなのだろう。非常に頭が良い方で、しかも綱渡りのような国と国の駆け引きのようなことまで考え、西洋から登用の戦略まで研究してきたからなのか、文章は非常に分析的で説得力がある。また、亡命者たちの証言などもより生々しさを増す。我々の世界で実際に起こりつつある大きな変動を感じさせる重要な本だろう。20世紀をよく知る我々にとってはアメリカこそがナンバーワンという意識が強いがすぐそこまで対抗する勢力は迫ってきている。
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