ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃 (講談社現代新書)
- 作者: 小林雅一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/08/18
- メディア: 新書
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ゲノム編集の衝撃はCRISPER-CAS9という2010年代になり世の中に出てきた最新のゲノム編集技術を解説した本である。
CRISPERという遺伝子自体は日本人が見つけたものだった。1990年前後の頃であったが、その遺伝子が脚光をあびるまでには約20年もの年月が必要だった。2010年代になり、ダウドナ、シャルパンティエ、チャン氏ら、アメリカの研究者により相次いで報告された。この技術はそれまで不可能だったほぼ100%に近い精度で特定の遺伝子の特定の配列の場所を組み替えることができる。
初期の遺伝子改変の技術は精度が非常に悪く、ノックアウトマウスという特定の遺伝子の働きを止めたマウスを作り出すのに半年から一年はかかっていた。2つある相同染色体のうちの片方の遺伝子に遺伝子改変を起こすのだけでも大変なのに加えて、2つともの遺伝子で遺伝子改変を行うためにはマウスの交配という手順まで踏まなくてはならないためだ。
しかし、CRISPER-CAS9による遺伝子編集は精度・正確性が高く、現在ではほぼ100%遺伝子を作り変えることができ、ノックアウトマウス作成にかかる時間はマウスを育てる時間にほぼ等しいたった2週間程度となる。おまけに技術としては習得は容易い。
非常に高精度で遺伝子編集が行われることができるようになり、その応用には夢が広がっている。医療の世界では遺伝子変異から発症する病気の治療や、そもそも子供の遺伝子編集を行うことで生まれる前に遺伝子編集を行うことも可能になるかもしれない。作物の遺伝子編集をおこなったりもできるし、応用は限りない。そうした研究への倫理的な枠組みの作成が急務として求められている。また、この新しい技術は非常に将来性を期待されており、開発者達(とその所属機関)はその特許を巡って争いを続けている。そして開発者達が携わるスタートアップは巨額の資金が大企業から流れており、産業へ流用しようとする動きも顕著。
科学者コミュニティの中では有名な技術で、今、AI、ブロックチェーンと並んで注目を浴びている分野だ。
・生物は進化の中で様々な能力を身につけています。こうした特徴を産業に簡単に活かすことができるようになるかもしれません。
・DNAは20世紀にようやくその構造の謎が解き明かされた物質。当時の研究のことが楽しく学べる。
・最近の免疫学を一流の研究者がわかりやすくレビューした本
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