ギリシア人の物語Iでは古代ギリシャの民主制の発展が主なテーマであったが、ギリシア人の物語IIでは民主制の最盛期とペロポネソス戦争による民主制の衰退を描いている。アテネ民主制を代表するペリクレスの時代から、戦争へ突入していき没落していく様子が描かれるアテネを見ていると気分が苦しくなる。
前半の主人公はペリクレス。アテネの民主制の代表であるストラテゴスに32年間も連続で当選してその間事実上のアテネの代表であった政治家だ。弁舌にとても優れていた政治家らしく、数々の演説が伝えられる。
「貧しいことは恥ずべきことではない。しかし、その貧しさから脱しようと努めず、安住することこそ恥ずべきことであるとアテナイ人は考える」
など、現代の日本人にも聞かせたくなるような言葉だ。
ペリクレスの時代は今から2500年も前なのに、ペリクレス時代に強まったデロス同盟はギリシャ北部から現代のトルコにいたるまでの広域なポリスによる同盟。日本が縄文か弥生だった時代にこの地域ではここまでの広域な交易が行われていたのは驚きでしかない。しかもアテネでは商品を輸出して稼いで、食料は黒海方面から輸入するという自給自足でない生活をしていたという。古代は交易によって栄え、交易が衰えた中世よりもむしろ豊かだったというのは「繁栄」での記載だったか、専門化と連携というのがいかなる時代でも重要なのだと考えさせられる。ともあれ、ペリクレス時代にアテネは支配力を広げ、豊かな生活、文化を育んだ。
状況が変わってくるのがペロポネソス戦争。アテネとスパルタの二大ポリスによる戦争だが、この戦争の初期段階でペリクレスは病死してしまう。
ペリクレス時代が終わった後、アテネはデマゴーグ時代に突入する。そこで頭角を現したのがアルキビアデス。弁舌も戦闘もできるというスーパーマンだったというが、アルキビアデスはその能力を発揮することなく幾度も途中で頓挫させられる。衆愚政治とはちょっとしたことで足の引っ張り合いを繰り返すのだ。ペロポネソス戦争の後半でアテネはシチリアへ遠征にいくが数万人規模で兵を失う無残な結果に終わる。そこから一度は盛り返すが最後にはスパルタに敗れて覇権を失う。アルキビアデスは、シチリア遠征の時にアテネから罪を着せられアテネから抜けてスパルタへ、そしてその後ペルシアに行った末にアテネに戻る。しかし十分な活躍ができないまま暗殺されてしまう。
第I巻で見た希望あふれる民主政治から、時折現れるカリスマによりリードされる国家から一転、カリスマ不在となった国は迷走していく様が良く描かれている。一旦衆愚が世論を席巻してしまえば冷静な判断は誰にもできなくなるのかもしれない。本巻では描かれていないがこの後アテネはソクラテスという偉大な思想家をしに追いやっていくことになる。
・ 本シリーズの1巻目。アテネの民主政の成熟までを描く
・イギリスの偉大なリーダーだったチャーチルの伝記を現代の政治家ボリス・ジョンソンが描く。
・権力をめぐる現代社会の変化を書いたベストセラー。Facebookのマーク・ザッカーバーグも勧める
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