エドワードソープは、ヘッジファンド業界などで主流になっているクオンツトレーダーの先駆けの人物である。辛辣なニコラスタレブもエドワードソープのこととなると最大限の賛辞を惜しまずにおくるというから、唯一無二の存在なのだろう。
あらすじ
本書ではエドワードソープの幼少期の話から始まる。学校を飛び級した話からとんでもなく高いスコアをたたき出したIQテストの話、科学のコンテストで優勝した話まで、天才とも言うべき優秀さを発揮していた。アメリカの天才にはよくありがちな話だが、子供の頃から、様々な(爆薬を作ってみたり)実験を繰り返したりして楽しんでいたようだ。
大学では物理学から途中で数学の道へと転向している。学位取得後すぐにMITのポジションについているあたりも、相当に凄い。アカデミックな道を歩んだ人間のような滑り出しだが、大学で研究する純粋数学の分野以外にも、カジノでのゲームの必勝法のような応用数学の場面でのソープの業績はめざましいものである。
かの有名なノーベル物理学賞受賞者のファインマンにも無理だろうと言われた、ルーレットで勝率をあげる方法を開発したり、カードカウンティングという技術と、カジノでの掛け金に関するケリー基準を組み合わせることで、ブラックジャックで安定してカジノのディーラーを負かす理論を作り上げた。多くのカジノ渡り歩きながら自分の理論を実証しつつ大儲けしたために、カジノからは目をつけられてしまったようだ。
本ブログにアクセスする方の多くの興味は、おそらくお金のことや投資のことが多いと思う。エドワードソープは、投資の分野でも目覚ましい活躍をしている。まだ発表される前のブラック・ショールズ方程式を自ら見つけ、抜け駆けしてオプション取引では自身のヘッジファンドで相当な利益を上げていたようだ。また、統計学的裁定取引という現代のヘッジファンドでも用いる手法で何十年にもわたり安定した業績をおさめた。30年近くの全ての四半期で勝ち続けたというのだから尋常ではない。
天才は効率的な市場の中にでも歪みを見つけられるのか
普通の人間はソープほどの頭脳は持ち合わせていない。数学的な思考能力をギャンブルから投資にまで様々な場面で活かして活躍するソープは超人に思えてくる。
数学や物理学の分野ほどまでは行かないが、経済学でもやはり数学的な思考能力はかなり重宝されるため、現代の運用業界でクオンツ部門に属する人には、数学や物理学の天才が多いと聞く。ソープが自身のファンドで公開せずに行っていた手法も、時が経つにつれて他のクオンツが見つけ、エッジがなくなったものも数多く有る。オプション価格などはその最たる例だろう。徐々に同じような戦略で勝つのは難しくなっていったと言われている。
しかし、この人、いったん引退したあとにリーマンショックの前後でカムバックして再び素晴らしいリターンを上げるなど、非常に効率的な市場でもどこかに歪みを見つけることができる能力があるらしい。彼にとってすれば、市場には常に歪みがあるものであり効率的市場仮説など嘘っぱちらしい。一体どれほどの知能があれば市場の歪みを見つけることが容易にできるのだろうか。。。
本書に出てくる登場人物では、リチャード・ファインマン以外にも、情報学で有名なクロードシャノンや、1番有名な投資家であるウォーレン・バフェットなど、各分野のトッププレイヤーばかりが出てくる。やはり、特別な人は特別な人たちで集まり、そういう人ばかりが成功していくのだろうか??
統計学的思考が必要とされる運用業界
よくブログの中では私もシミレーションを行っているが、私の本職は金融などではないし、統計学的な勉強ついでに甘いシュミレーションを行うことが多く、基本的には相当な誤差があることを前提に解析などをしている。シミレーションに対しては、お褒めの言葉もいただけることもあれば、間違いもたびたび指摘される。ただ、このプロセス自体にはかなり学ぶことが多く、たまにしかしない解析からも少しずつ自分が成長できていることを感じる。
しかし、本書を見ても、レイ・ダリオの本を見ても顧客のお金を預かりそれを運用するヘッジファンドが使うような戦略およびシミュレーションは、より正確に現実に即した確率分布も含むようなモデルになっていて、私のシミュレーションとは比べ物にならないほど厳密だ。しかも、確率分布の中に歪みを見つけて市場に勝つ統計学的裁定取引を行うようなヘッジファンドは基本的には大量の取引を行っているため、正直、個人の力ではどうあがいても及ばないような気がする。
別に自分にヘッジファンドがやりたいわけではないが、もう少しファイナンス統計に関してしっかり勉強したいような気がしてきた。あわよくば自分の投資のリターンにも生かせればと思う。
下巻の後半には複利や、インデックスファンドのメリットなど、凡人投資家にも馴染み深い話題も書いてあり、少し勇気づけられる。
天才は世の中をこのように切り抜けていくんだな、と痛快な一冊。
コメント