最終更新:2019年8月10日
モメンタム戦略
twitterで話題になっていた投資戦略に興味が湧いたのが本記事のきっかけになりました。モメンタム戦略というもので、「ウォール街のモメンタムウォーカー」で取り上げられている戦略です。リターンが良い割に損失が少ない戦略として注目していました。海外のWebサイトでも取り上げられています。
要するに、上がっているアセットクラスを買って、下がっているものは保有しないことで上昇を捉えて下落を避ける戦略です。モメンタム戦略を取り上げたザイボックスさんのツイートからはかなり良いパフォーマンスが期待されます
前に個別株編を読んだ際は正直よく分からなかったが、多少は知識がついてきたせいか、こちらの本編はとても良かった。こいつはパネェの一言に尽きる。
税金の問題もあり、採用するかは悩ましいが。
しかしVT買っときゃいいのに、また一つ余計なこと知ってしまったな・・・ pic.twitter.com/T4o9jSGEQX— ザイボックス (@470bird) 2018年5月5日
オールウェザーポートフォリオに応用してみよう
下がるのを予見して売れればディフェンシブに運用ができます。レイ・ダリオのオールウェザーポートフォリオに応用して、さらに下落を防ぐことが出来るかどうかを検証してみます。今回もRを使用します。データはQuandlとquantmodで読み込みます。Quandlは様々な金融指標を取り出すことができるパッケージです。API keyが必要なのでこちらのサイト(https://www.quandl.com )で登録(無料でできます)してみてください。
→Rが使える方はシミュレーションするためのコードをまとめた記事を参照してみてください。
読み込むデータはS&P500, 米国長期債(VUSTXで代用)、米国総合債券(VBMFX)、金(WGCからデータを取得)、コモディティ(FREDからデータを取得)、米国短期債(VSGBXで代用)です。長期債の長期データが無く、データの取得は1987年3月31日〜2018年3月31日にしました。コモディティのデータも2018年3月分までしか無く、月々の価格のデータなので、一度月々のリターンを計算して、それを元にリターンを求めます。
データを取得したらリターンを計算します。他のバックテストのサイトを見るとだいたい指標に一致していますが、S&PはETFを再投資するよりはなぜかリターンが劣ります。オールウェザーポートフォリオを再現すると1987年に投資して2018年まで年1回リバランスすると800%〜900%くらいのリターンが得られました。リーマンショックでのドローダウンがやや本来よりも大きいのが気になりますが、トータルのリターンは大体同じなので良しとします。
(2019年8月10日追記)
レバレッジETFを後にシミュレーションに使用していますが、このシミュレーションの結果は、以下の記事の値を使用しています。シミュレーション結果は必ずしも精確とは限らず、SPXLやTMFのリターンでは年率で2%程度の誤差が出る可能性があります。また、コモディティは実際にはGSGなどを使うと思いますが、シミュレーションではコモディティインデックスを使用しています。GSGでは先物のコストによるリターンの低下があるのでご注意ください。
使用しているRのパッケージのバージョンで対数グラフが描けず、ややグラフが見にくくなっていますが、ご了承ください。
また、本記事ではモメンタム戦略の際に頻繁に売買を繰り返しますが、売買コストや発生する税金は考慮しておりません。
あくまでシミュレーションなので特定の投資方法を勧めるものではありません。
モメンタム戦略を試す
得たデータを使って幾つかの戦略を立ててシミュレートしてみます。
戦略1 : モメンタム原理主義戦略
・年始に1回ポートフォリオの見直しを行います。
・過去12ヶ月の成績が良かったアセットクラスに100%の資産を投入します。
・投資先のアセットクラスはS&P500, 長期債、総合債券、金、コモディティ、短期債です。
・検証した期間は88年12月〜2019年7月。
単純な戦略ですが、レバレッジ無しで試した中では最高のリターンで、SP500とほぼ同じリターンを出しています。ドローダウンもSP500よりは小さいですが、最大で30%程度の下落を経験しました。いきなり長期債100%のポートフォリオになったりするので、実際にやるには勇気が必要な戦略です。
戦略2: ウェザーリポート戦略(WR戦略)
今回検証したかったものです。オールウェザーポートフォリオをベースにします。
オールウェザーポートフォリオに似せたポートフォリオで、米国株30%、米国長期債(VBLTX) 40%、米国総合債券 15%(VBMFX)、金 7.5%、コモディティ 7.5%のウェイトのポートフォリオを前提とします。
・年始に1回リバランス
・直近12ヶ月の成績が短期債(VSGBX)より良ければその割合でホールド、悪ければ全て短期債に移す
・次のリバランスの際に、直近12ヶ月の成績が短期債より良い資産はオールウェザーポートフォリオのウェイトで買い戻す
かなり地味な結果がでました。リターンはオールウェザーポートフォリオとほぼ同じ。実際にはコストや税金の発生分でリターンは押し下げられるはずです。元々リスクが少ないポートフォリオではリスクを抑える効果はそこまで出ないのでリターンもそこまで増えないようです。株式を買う時期が来たとしても高々30%ですからね。ただ、ドローダウンが全然無くほぼ右肩上がりなのはとても安全です。相場の嵐が来る前に外出を控えるこの戦略を「ウェザーリポート戦略(WR戦略)」と名付けます(なんじゃそりゃ笑)。
戦略3: レバレッジドウェザーリポート戦略(LWR戦略)
リターンが悪いけれどリスクが低いのであればレバレッジをかけることでリターンを増やすことが出来るかもしれません。オールウェザーポートフォリオにレバレッジをかけた戦略はROKOHOUSEさんで以前紹介されていました。
http://www.rokohouse.net/archives/2482
このポートフォリオ(SPXL 20%, TMF 25%, IEF 25%, GLD 15%, GSG 15%)を元にします。SPXL, TMFは計算で架空のリターンを計算しています。
・年1回年初にリバランス
・リバランスでは直近12ヶ月のリターンが短期債よりも良いクラス(SPXLのリターンではなくS&P500のリターンをみています)はホールド、短期債よりも悪ければ短期債に切り替える
レバレッジをかけた戦略では予想通りリターンは年率11.4%とかなり良くなりました。一方でドローダウンは最大で14%程度と驚異的な安定感を見せています。しかし、レバレッジオールウェザーの方が全体的にリターンは良いですね。
感想・制約
今回の調査の制約として幾つか気になる点があります。
一つ目は、リターンについて。あまり本質的ではありませんが、バックテストでSPYなどのETFを運用したほうがS&P500指数自体のリターンよりだいぶ良いです。配当のせい?なのかは分かりませんが、リターンの値については今回の結果はそこまで正確ではありません。同様に、長期債のリターンの源泉は金利だと思うのですが、実際の運用ではTMFはそこまでの金利は得られず、リターンが押し下げられる可能性があります。
制約はありますが、モメンタム戦略はただでさえリスクが低いオールウェザーポートフォリオのリスクを下げることが出来る可能性が示唆されました。これくらい安定しているとレバレッジをかけつつ、撤退する時期を見て撤退するタイミングを計れるよい戦略である可能性があります。
今後の課題としては、モメンタム戦略で売買・リバランスをする間隔を狭める工夫をしたい、ということと、本質的にリターンを産まない資産である金やコモディティの役割が必要なのかの検討、REITや新興国株など他のアセットクラスへの拡張。アセットクラス内での金融商品を競わせつつ組み入れるETFの種類を増やすことでしょうか。今回検討した戦略を全部まとめたチャートを最後に御覧ください。どんな戦略をとるかはあなた次第です。今回の記事が参考になれば幸いです。
コメント
こんばんは
色々ポートフォリオを検討している中で、貴サイトを拝見させていただいています。
現在、可変レバレッジドポートフォリオにモメンタム投資の考え方を織り込めないか検討しています。
1.SPXLとTMFを50:50で保有
2.毎月リバランスを実施、その際に前月のリターンがSPXLは-18%、TMFは-7%を下回った際は全てのポジションをBNDに切り替える(ポジション切替ラインの設定)
3.翌月リバランス時にポジション切替ラインを超過している際は、元のポジションに戻す(下落の兆候時のみBNDを持つ考え方)
上記ルールで2005年以降データでバックテストを実施した所、中々優秀な結果になりました。
しかしながらフルレバレッジでの投資であり、実際に当該ルールで運用するには躊躇している所です。落とし穴がないかも懸念していますので、もし当手法についてご意見ありましたら幸いです。
コメントありがとうございます。
可変レバレッジドポートフォリオのようにシャープレシオを高めてレバレッジを限界まで高めたポートフォリオに対して、モメンタムの要素を各アセットに対して取り入れてより下落リスクを減らそうというお考えでしょうか。
少し理解が追いつかなかったところがあるのですが、3.については、ポジション切り替えラインの超過の判断の基準になるのは、a.直近の累積ドローダウン、かb.月次のリターン、なのかどちらでしょうか?自分が以前バックテストした際にSPXLがリーマン・ショック後(あるいはITバブル後)のドローダウンから回復するのには相当の時間を要しているようなので、b.を前提として考えてみます。
前述したように、私の理解では、A.株式と債券を組み合わせたPFがそこそこの安定をもちリターンを生むこと。B.レバレッジをかけるコストがAのリターンよりも少ないこと。C.各アセットにレバレッジをかけたものが月次の絶対モメンタムを利用した回避方法で大きなロスを避けられること。を前提として組まれたPFのように思います。バックテストで良い成績を収めたのであれば期待を持ちたいですよね。
ただ、反例は様々に考えることができるように思います。たとえば、FRBが金利を最低ラインまで引き下げた現状で米国長期債に投資する価値がそもそもあるのか?が挙げられます。私自身、今のマクロの経済状況を見ながら長期債からは完全に資金を引き上げてしまった状況です。
また、前月という短い期間のルックバックを用いたモメンタムが各アセットに共通して通用するのか?などが疑問です。モメンタムの研究をファイナンスの論文で見ていると、投資判断の1月前はリバーサル期間としてモメンタムのルックバックから省いているようなこともあり、直近1ヶ月でのモメンタムについてはあまりエビデンスが無いように思います。
いざ投資をする、となると自分で考えた投資方法は見落としが気になりますよね。例えば、バックテスト期間を長くしてみるか、モンテカルロシミュレーションで試してみてはいかがでしょうか?自分だったら、そこまでやって自信がついたらリスク許容度範囲内で試してみると思います。