「ウェザーリポート戦略」と銘打ってオールウェザーポートフォリオというリスクを押さえたポートフォリオにモメンタム戦略を組み合わせた手法を先日の記事で紹介しました。
幾つかの戦略を紹介してみて、オールウェザーポートフォリオにモメンタム戦略を組み合わせることでリスクがさらに低下することが分かりました。そこで出てきた課題ですが、
などがあったのでこれらをクリアできるようにもう少し細かく解析をしました。税金については計算はしていません。手法については記事を分けてソースを公開します。使用したETFはSP500指数、VUSTX(長期債)、VBMFX(中期債)、金指数、コモディティ指数、VSGBX(短期債)です。これらを使うと1987年12月最終日からのデータで検証ができました。
※2019/8/10 バグを調整して再度解析した結果にアップデートしました。
※RやRstudioのバージョンによっては結果が一致しないことがあります。
レバレッジなしの戦略
レバレッジありなしの比較はみにくいので、レバレッジなしの戦略の比較をまずしてみます。
・リターンを見直して投資先を切り替えるのは3ヶ月に1回とする。
・リバランスも3ヶ月に1回同時に行う
・モメンタムに基づく売買にかかるコストが計算できるようにする
という条件にしました。売買にかかるコストは今回は考慮していません。
モメンタムを利用した戦略
1-1. Momentum fundamentalism
モメンタム原理主義と名付けた戦略ですが、前回取り上げたものです。
株、長期債、中期債、短期債、金、コモディティの中で直近12ヶ月のリターンが良いものに対して投資をします。
前回は1年に1回でしたが、今回は3ヶ月に1回見直しをおこないました。リターンはそこそこ良いですが、そこまでドローダウンが下がるわけではなく下がるときは下がるし、リスクに比べたリターンが大きいとは言えません。
1-2. Weather Report
ウェザーリポート戦略です。オールウェザー戦略の上に、組み入れたアセットが不調のときには撤退しておけばさらに損失を下げることが出来るんじゃないか、と考えて作った戦略です。前回のタイトルにもなったものですね。
リターンをチェックする時に、短期債よりも弱い商品は一時的に短期債にして持っておき、短期債よりも強くなったらロングする、という戦略です。リターンはおとりますが、ドローダウンがオールウェザー戦略よりも下がったため、シャープレシオとしては今回比較した中で最大となっています。可能性としては3ヶ月の先物を利用してレバレッジを掛けることでリスクを抑えながらリターンをあげられる可能性があります。先物怖いので自分じゃやりませんが。
1-3. Weather Report ver 2
ウェザーリポート戦略バージョン2です。前回は公開しませんでしたが、ウェザー・リポートの戦略の変法です。
リターンをチェックする際に、短期債よりも強い商品はホールド、弱い商品は売りますが、短期債ではなく、ホールドする商品で持ちます。強い商品が株式、金であった場合は、オールウェザーポートフォリオの割合(株式30%:金7.5%)に準じて株式:金=4:1 (80%:20%)になるように調整します。成績はいまいちでした。
1-4. @hiroakit_normal
ROKOHOUSE( http://www.rokohouse.net)の@hiroakit_roko さんに提案頂いた戦略です。
3種類のポートフォリオをモメンタムで回していく戦略です。レバレッジ無しでやりました。強気相場では株式6+債券4、弱気相場(入り口)では株式3+債券3+金2+コモディティ2、弱気相場(途中~出口)では株式3+債券7になると想定して、3つのポートフォリオの内過去12ヶ月で最も強いものを採用してホールドする戦略です。レバレッジかけないとそこまで成績は上がりませんでしたが、リスクはきちんと抑えられていました。また、ドローダウンをうまく回避できており、S&P500を上回る成績でした。
Name | CAGR | maxDrawdown | SharpeRatio |
All Weather | 7.4 | 12.7 | 1.23 |
S&P500 | 8.21 | 52.6 | 0.582 |
Momentum fundamentalism | 8.11 | 28.1 | 0.603 |
Weather Report | 7.31 | 7.17 | 1.38 |
Weather Report 2 | 8.01 | 14.7 | 0.991 |
@hiroakit_normal | 8.96 | 15.8 | 1.17 |
レバレッジ無しの戦略としては、ウェザー・リポート戦略がわかりやすく、かつリスクを抑えるには良い手法だということが分かりました。ただし、全体として下落相場に元々強いせいか最終的なリターンの伸びはあまり認められませんでした。
そこで、悪魔の囁き。
リスクが少ないならレバレッジをきかせたらどうか?
レバレッジ有りの戦略
レバレッジを掛けることにより変動が大きくなります。下がる時に大きく下がるリスクはありますが、上昇局面では良いリターンが生まれるかもしれません。SPXL(S&P500の3倍)やTMF(長期債の3倍)を再現するために前回の記事のやり方で仮想のSPXLやTMFを作り、シミュレーションを行いました。レバレッジの良いベンチマークが無いのでROKOHOUSEさんのを参考にします。
Leveraged all weather
レバレッジドオールウェザーポートフォリオ。SPXL 20%, TMF 25%, BND 25%, 金15%, コモディティ15%で保有してオールウェザーポートフォリオにレバレッジをかけたような戦略です。ドローダウンをかなり押さえながらもしっかりとリターンを生む期待が持てる戦略です。シャープレシオも検討した中では最大になりました。
2-1. Leveraged weather report
レバレッジドオールウェザーポートフォリオでウェザーリポート戦略を行いました。レバレッジドウェザーリポート戦略です。
リターン評価のポイントで、直近12ヶ月のリターンが短期債より良ければホールド、悪ければ短期債に切り替えます。
レバレッジ戦略の中では最もCAGRが低く12.1程度でしたが、ドローダウンが13.8%とかなり低かったです。レバレッジかけているのに普通に株買うよりも落ちないし、リターンもあるのでSharpeRatioはかなり高くなりました。
2-2. Leveraged PF momentum
そもそもオールウェザーポートフォリオでの金とかコモディティのリターンに疑問があったので、それを外してしまって株と債券だけで組んで、ベンチマークにするのを金にすれば、金より株が強ければ株、弱ければ金、というようになるじゃないか、と思いシミュレーションしようかと思いましたが、それはレバレッジドPFでモメンタム戦略をやるのと変わらないな、ということでこの名前にしました。
基本的にレバレッジPFリスク大のポートフォリオです。
リターンを評価する際に、金よりも強いアセットはホールド、弱いアセットは金に変更する、という戦略です。
CAGRは17.6とかなり良く、ドローダウンも26程度と、レバレッジドPFがリーマンショックでそれなりに大きなダメージを受けたのに比べるとダメージも少ない戦略です。
2-3. @hiroakit_lev_3
こちらも@hiroakit_rokoさんに提案頂いた戦略で、先程の戦略のうち、強気相場ではレバレッジドPFリスク大をもつ戦略です。
3つのポートフォリオの内強いものをホールドします。上の戦略よりはわずかにリターンが良かったです。それぞれのポートフォリオはレバレッジドPFリスク大、オールウェザーPF、株:債券 3:7のポートフォリオです。
2-4. @hiroakit_lev_2
モメンタム戦略でリスクが軽減できるのであれば、期待リターンが高い戦略を採用するのが強い可能性があります。強気相場ではレバレッジドPFのリスク特大(SPXL 45%, TMF 30%, BND 25%)を持ち、弱気相場ではオールウェザーポートフォリオを保有するという戦略です。こちらはCAGRがなんと15だったのに対してドローダウンは24%とリスク・リターン比はかなりよく、シャープレシオは0.958でした。
Name | CAGR | maxDrawdown | SharpeRatio |
Lev All Weather | 11.4 | 23.1 | 0.924 |
Lev PF high risk | 16.1 | 47.2 | 0.825 |
Lev Weather Report | 9.7 | 14.2 | 0.955 |
Leveraged PF momentum | 17.6 | 25.9 | 0.999 |
@hiroakit_roko_3 | 14.2 | 22.6 | 0.949 |
@hiroakit_roko_2 | 15.8 | 23.8 | 0.958 |
色々な戦略を見てきた中で検討したのが、レバレッジをかけたポートフォリオについては、不況の時に一気に減価するのが怖いので、モメンタム指標を観測しつつ、市況が悪いときにはオールウェザーポートフォリオに変更する戦略をとって極端なマイナスを防ぐのはありだなと思いました。売買の回数もそこまで多くないですし。ただし、売買をすることで取引手数料や税金によりリターンが押し下げられるので、やはり売買が少なくリスクが低いポートフォリオは強い面もあるなと思います。モメンタム戦略を適応することでドローダウンが下がるのは全体に見られた傾向でした。ドローダウンが元々少ない、よく分散されたポートフォリオでモメンタム戦略を適応するのであれば、「Momentum fundamentalism」のように極端に保有する資産を変えていくのがリターンを挙げるコツかと思います。そもそも下落相場を回避することができていればモメンタムによる最大のメリットは薄れます。一方で、レバレッジドPFのように上昇相場では非常に調子がいい一方でそれなりにドローダウンも有る戦略の場合、モメンタム戦略と組み合わせることでドローダウンを押さえてポートフォリオが安定しやすくなると感じました。2-4.の戦略に組み合わせる戦略としてはオールウェザーポートフォリオよりももっと株の割合を押さえたものでも良いかもしれません。弱気相場でもちたいポートフォリオは株の割合を下げるというのがモメンタム戦略に合致するからです。
期待リターンが少ない世界では売買に伴うコストは馬鹿になりません。また、売買に伴い税金が発生するのもモメンタム戦略の弱点になると思います。レバレッジは本質的にリスクの絶対量が増える戦略です。景気が良いと強気になり、ついリスクを取ってしまうものですが、自己責任で行える範囲で投資は行ってくださいね。
コメント
いつも大変勉強させていただいております。
新しく金利の影響を織り込んだシミュレーションでこちらの記事もアップデートしていただけないでしょうか。
金利上昇局面でもレバレッジをかけたモメンタム戦略が有効なのか非常に興味があります。お忙しいとは思いますが、お時間あればぜひよろしくお願いします。
ありがとうございます。時間があるときに更新しておこうと思います。
はじめまして。
興味深い記事で勉強になりました。
質問なのですが、
hiroakitさんのアイデアを紹介されていたときの
『強気相場ではレバレッジドPFのリスク特大(SPXL 45%, TMF 30%, BND 25%)を持ち、弱気相場ではオールウェザーポートフォリオを保有するという戦略です。』
ここでいう強気相場や弱気相場はどのように判定するのでしょうか?
確か会話では明確な定義は話していなかったので、プログラムとしては、リスク特大PFとオールウェザーの1年間のリターンを監視して、1年リターンが良いポートフォリオに投資する、というようにしています。
ありがとうございます。
モメンタムウォーカーは既読だったので、モメンタムのあるETFへの切り替えが機能するのは知っていたのですが、債権を含むポートフォリオの切り替えでも有効なのですね。
参考になりました。