シミュレーションの力を借りて1960年代からの投資成績を見る

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昔のデータ

Rを使っていろいろなデータを取得していましたが1980年代よりさらに遡るのが難しく手が出せませんでした。本記事では1960年代からのデータを使ってさまざまなアセットクラスのリターンを見てみます。

今の市況と1960年代の状況

米国の経済はリーマンショックの後、絶好調といえないまでも回復傾向で、ここ10年ほど株式市場に大きなダメージを与えるリセッションは訪れていません。ただ、株式価格は割高な水準まで上がり、利率が下がりすぎた債券も割高になった上に景気が続く限りFRBはまだ利上げを計画しています。利率が上がれば債券価格は落ちます。また、債券の利率が上がれば株式の配当利回りを大きく上回り、株式に対してリスクプレミアムを払う価値がなくなり株式は下がるかもしれないし、ずっと停滞するかもしれません。まあ、別にそんなの気にしないでもいいかもしれませんが、この状況が1960-70年代のアメリカと一部にてるな、と感じたので当時の市況を見える化したいなと思っていました。この頃は好況の後で米国株は伸び悩み、債券の利率もどんどんと上がっていました。そしてインフレにも苦しんでいた。また、こんな状況ではオルタナティブへの投資という選択肢が上がります。代表的なコモディティを含んだデータを調べてみました。

ただ、分析にあたっての障害は債券ファンドの価格情報が1980年代ごろまでしか遡れず、分析ができないことでした。
今回はリターンの正確性(precision)は犠牲にして傾向的にあってればOKという方針でシミュレーションのデータを採用しました。
使用したデータはBogleheadsBondFundSimulator:http://www.bogleheads.org/forum/viewtopic.php?f=10&t=179425 です。
こちらのスプレッドシートでは利率の変化から、各債券の価格変化をシミュレートして、ファンドの価格を計算しています。まずこちらの妥当性を見てみることに。

推定価格の妥当性を検討する

シミュレーションでは年単位でのファンドのリターンが表示されます。
20年超の債券ファンドのデータがあったのでそのデータと、TLT(20年超の債券ETF)のリターンを比較することに。
TLTの設定が2002年以降なので2002-2017のデータをRで相関(correlation)を計算してみたところ、相関係数は0.93と強い相関を示し、まずまずです。

Pearson’s product-moment correlation

data: tlt_compare$TLT and tlt_compare$Simulation
t = 9.6584, df = 14, p-value = 1.434e-07
alternative hypothesis: true correlation is not equal to 0
95 percent confidence interval:
0.8121877 0.9767115
sample estimates:
cor
0.9324737

f:id:drkernel:20180604194612p:plain:w200

ただ、全体的にリターンの値自体はぶれており、2002年ではTLT 0.0834 (8.34%)に対してシミュレーションは0.1502(15.02%)、2009年ではTLT -24.68%に対しシミュレーションは -8.75%と全体にシミュレーションの方が良いリターンで算出されています。2003年、2006年、2012年では正負も違います。ただ、あくまで参考値なので目をつぶりましょう。多分ETFじゃなくて自分で債券をホールドしていたらこのようなリターンになるはず。データは1880年くらいからあるのでやろうと思えばかなり前まで遡ることもできるかもしれません。今回レバレッジのシミュレーションをするとさらに誤差が増えそうなのでレバレッジETFのシミュレーションはしません。シミュレーションでは20年超の債券ファンド、2-20年の債券ファンドのデータを採用しました。

年代ごとのリターンを見てみる。

毎回似たようなクラスばかりですが、米国株、金、コモディティのデータをQuandlからダウンロード、シミュレートした債券ファンドのデータを2-20年、20年超として比較をしてみます。金価格データが1960年以降しかダウンロードできなかったので1960年以降のデータです。

まず年代を4つに分けました。
1.1960-1965: 米株が好調だった時代。債券は利上げ傾向。
2.1966-1981: 米株が不況だった時代。債券は利上げ傾向。
3.1982-1999: 米株が再度好調だった時代。債券は利下げ傾向
4.2000-2017: 2000年以降。ITバブル後のショック、リーマンショックが含まれる。債券は利下げ傾向。
こんなイメージです。

1. 1960-1965

f:id:drkernel:20180604194617p:plain
X軸が年代、Y軸が累積リターンです。
1965年までは株式のリターンが一番でした。債券も堅実に伸びていますが、金、コモディティはほぼノーリターンです。
わりと2010年代がこんな感じだったかもしれません。

2. 1966-1981

f:id:drkernel:20180604194620p:plain
しかし、1966年ごろから(特に1970年代)のデータを見てみると状況が変わってきます。株式は振るわなくなり、債券のリターンも大したことがありません。この時代はインフレの影響が大きかったようで、金の価格はどんどんと上がっています。コモディティもそこそこのリターンとなっています。もっとも、株式は配当があるので配当を加味するともう少しリターンは良いはずです。

3. 1982-1999

f:id:drkernel:20180604194623p:plain
1980年代に入ると株は調子を取り戻し、債券も利率の低下とともに債券価格は上昇し、株と債券はどんどん調子をあげました。一方で金やコモディティはほぼ横ばいでほとんどリターンに貢献していません。これらの資産は配当を生み出してくれるわけではないので、特別な旨味はなかったはずです。

4. 2000-2017

f:id:drkernel:20180604194627p:plain
1999年までの株はITバブル分も含んでいたので実は上がりすぎです。2000年を境にしてデータを区切ると実は株は2回の暴落を受けてダメージを追っています。最近でこそ好調ですが、2000年代だけ見ると株は冴えませんでした。債券はここでも好調でした。利率はどんどんと下がり債券価格は上がっていきました。金、コモディティはここ数年は不調ですが、それまでは結構値上がりしています。

これからの方針は?

株価が割高、利上げで債券が期待できない。そんなときでも他の資産に目を向ければ報われるかもしれません。新興国株や不動産、コモディティなどの選択肢を取ることでリターンを補完できるかもしれません。ただ、1970年代が同じような状況だったからと言って安易に飛びつかないほうが良いと思います。アメリカはインフレに苦しんでいるわけではないし、利率も1970年代ほど高くないので思ったとおりオルタナティブがリターンを生むとは限りません。むしろ若くて投資期間が長いなら耐えながら割安なものを選んで積みましていくのも選択肢にはなり得ると思います。コモディティや金はそれ自体の価格変動に投資をするものなので、インフレ対策にはなりえますが時期を見誤らないのは難しい資産だと思います。なかなか昔のデータを見かけなかったので今回のデータも一つ参考にどうぞ。

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