マンデルブロが警鐘を鳴らす市場の大変動

Finance

株式市場の暴落は珍しいことではない

以前、株式市場に見られる美しい対称性として、株式インデックスのランダムウォークについて取り上げたことがあります。株式市場はとても効率的に変動しますが、その毎日の変動は良く分散されたきれいに対象な形を示しました。

株式市場に見られる美しい対称性
前回記事にした「美しい対称性」で何かいい例ないかな、と思い現実世界にみる株式市場の対称性(=ランダムウォーク)を可視化してみました。 日々の株価の変動率 当たり前の事だと思いますが、1つ10ドルで100個買ったものが1つ20ドルになった...

当時行った分析では、“外れ値を除けば”、株式市場はほぼ正規分布に従った日次変動を示す、でした。実際には正規分布よりはやや平均値に偏っています。そしてなにより、外れ値を含めて考慮すると、外れ値を示す確率は正規分布よりもだいぶ多い、という特徴があります。

 

運用に際して外れ値の存在はとても大事だと思います。1日に20%も暴落するようなブラックマンデーや、毎日5-10%もの変動を示したリーマン・ショック後の市場などは正規分布の常識では数百年や数万年に1回しか起こりえない事象なのですが、実際には市場は大きな変動を示すことはそこまで珍しいことではありません

 

大手銀行が株式暴落の確率の大きさを過小に見積もることで大きな損害を出して破綻したこともあったといいます。これは個人投資家とて例外ではありません。

 

こうした日々の市場変動に関するリスクの見積もりについて、最近読んだファイナンス理論全史で注目すべき内容を目にしました。。

ランダムウォークに見られる極端な歩み

正規分布は、ガウス分布と呼ばれ、統計の世界では非常に有名な分布です。これは統計の世界で最も有名な定理である中心極限定理と密接に関係している分布です。中心極限定理は、「独立な同一の分布に従う確率変数の算術平均(確率変数の合計を変数の数で割ったもの)の分布は、もとの確率変数に標準偏差が存在するならば、もとの分布の形状に関係なく、変数の数が多数になったとき、正規分布に収束する」(Wiki)という定理ですが、自然界にも正規分布はしばしば見られます。

 

正規分布を表す数式は難しいので割愛しますが、ブラックマンデーのような大暴落は正規分布の理論からは6×(10の97乗)年に1度しか起こらない非常に珍しい事象となります。しかし、実際にはブラックマンデーまでとは行かないものの同じくらい起こるはずのない暴落暴騰を市場は繰り返します。

 

このような「ありえない」事が繰り返される株式市場について、そもそも前提がおかしいという指摘をした研究者がブノア・マンデルブロでした。マンデルブロはある条件下では株式市場の変動は正規分布には必ずしも従わず、さらに広い概念の安定分布の分布をとることを指摘しています。

 

マンデルブロが主張した分布で最も注意すべき性質はこうです:

「異常な事態が起きる確率が平均化から遠ざかってもなかなか下がらない」

現代では市場変動は正規分布ではなくべき分布に従うとされます。べき分布の特徴が上に述べたようなもので、この分布はファットテールを持ちます。ファットテールを持つというのは、すなわち、正規分布よりも裾野がひろい分布を取るということで、現実の問題に置き換えれば、暴騰や暴落が起こる確率がそれほど低くない、ということになります。

 

実際の株式市場変動

実際に1950年からS&P500の市場変動を追いかけて、日々の値動きを見てそのパーセンタイル値を求めると以下のようになります。

パーセンタイル 変動(%)
0.01%
-8.96
0.10%
-5.64
1%
-2.56
10%
-0.983
50%
0.0471
90%
1.02
99%
2.54
99.90%
4.88
99.99%
9.56

 

0.01パーセンタイルは1万日に1回の頻度で起こる暴落、
0.1パーセンタイルは千日に1回の頻度で起こる暴落、
1パーセンタイルは百日に1回の頻度で起こる暴落、
99パーセンタイルは百日に1回の頻度で起こる暴騰
99.9パーセンタイルは千日に1回の頻度で起こる暴騰
99.99パーセンタイルは1万日に1回の頻度で起こる暴騰

を意味します。実際に、外れ値をとる期待値は市場変動が正規分布に従って起きるのに比べればだいぶ大きいものです。

 

複利の効用と落とし穴

先日NISAでのシミュレーションをするときについでに作成してみたのですが、市場の変動が正規分布ではなくマンデルブロの分布に従うとして、毎年のリターンが得られる確率に幅をもたせて解析すると、年数を経るに連れて成績の差がでやすくなります。大金持ちになる人もいれば、一文無しになる人も出るかもしれない。

赤色で尖った分布が初年度のリターンです、これは実際の株式のリターンに似せて(期待リターン6%、標準偏差 10%)作ってあります。期待リターンがプラスなのでオレンジ、グリーン、ブルーと徐々に年月を経るに従ってグラフの裾野が広がっています。気をつけなければ行けないのは10年後には期待リターンとして元手が1.8倍になることが期待できますが、元本を失う確率もそれなりにあるということです。

 

シーゲルのように、長期に株式を運用すると期待リターンに近づいていくという主張もありますが、短期の運用ではこのようなかなり幅をもったリターンを期待しておいたほうが無難と思います。

 

備えあれば憂い無し?

暴騰でも紹介したとおり、暴落への備えが少ないとき、大手の金融機関でも一気に破綻に追い込まれる事があります。個人投資家では極端なレバレッジを掛けた投資をすることは少ないでしょうから、一夜で破産という憂き目に合う可能性は少ないとは思います。

 

ただ、大ダメージを負ってからの再起はかなり大変だと思います。自分のリスク許容度とよく相談した上で、リスクヘッジをするに越したことは無いありません。

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