イノベーションのDNA

Book
 
「イノベーションのジレンマ」に始まり破壊的イノベーションの理論で有名なクリステンセン教授の著作。先日も最新の著作である「ジョブ理論」を本ブログでご紹介した。ものすごくクリステンセン教授のアイディアに共感しているわけでもないが、どうも研究の世界でも、私と関わるビジネス系の人も最近は皆事あるごとにイノベーションというワードを呟くのが現代である。イノベーションといえばクリステンセン、のような図式でクリステンセン教授の著作は一種の共通言語のようになっている気がしなくもない。
 

本書が書かれた頃

 
本書、「イノベーションのDNA」は2009年に原著が出版され、その年のマッキンゼー賞を取っている。邦訳が発表されたのは2012年だ。本書はイノベーター、あるいはイノベーティブな企業で活躍する人に注目して、その共通点を探る。そしてイノベーターがもつべき能力を提案する。
 
本書が書かれた時はSteve Jobsがまだ存命で世にスマートフォンが出回り始めた頃だった。本書中でもSteve Jobsが時折取り上げられているが、本書が書かれた時代はITによるイノベーションが本格的に世の中を変えていた頃だったのが思い出される。
 
Steve JobsはAPPLE IIに始まり、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)、見栄えの良いフォントを始めとするデザイン志向、iPod、iTunes、iPhoneといった数々のイノベーションをうみだした。邦訳が発売されるまでにJobsは病に倒れ亡くなってしまい、残念ながらJobsが直接生み出したイノベーションにこれからであえる可能性は限りなく少ない。
 
Tim Cook時代のAppleは経営状況は素晴らしいのだが、どうしてもJobs以降に本当に素晴らしいと思えるイノベーションを生み出しているとは思えなくて、ユーザーとしては少し残念だ。(とはいえAppleの製品がないと私の生活はもう成り立たない。この文章自体も出先でiPadで書いている。)
 
だいぶ脱線して回顧してしまった、本書が教えてくれるイノベーターのDNAとは何なのかを見ていこう。
 

イノベーターの共通点

 
クリステンセン教授の著作なので本書も前提としてはイノベーション = 破壊的イノベーションというようなイメージで書いているのだろう。既存のものやサービスに完全に取って代わって新しい革新的なニーズをみたすものやサービスがイノベーション、という前提となっている。
 
Appleが”Think Different”というキャッチフレーズを掲げたように、満足していない現状を変えるために、今までの当たり前を当たり前と考えない姿勢がイノベーターには求められる。そして新たな発想で問題を解決する新しい手段を生み出す。
 
現状に満足しなかった場合イノベーターはその現場を直そうとする。一方で普通の人は何も考えずに現状を受け入れる。
現場打破するためにはとにかく自分がやろうと思ったことをやる。
 
イノベーターが共通して卓越している能力は発見力である。本書では重要な5つの発見力として以下が紹介される。
 
  1. 関連づける力
  2. 質問力
  3. 観察力
  4. ネットワーク力
  5. 実験力
 

関連づける力

自分と他の人のアイディアを結びつけること、ひとつの知識分野以外にもさまざまな分野にわたる幅広い知識を持つことで知識を結びつけること、時には全く関連のないものを結びつけること。こうした事から新たな発想を得やすくなる。
 
逆にいえば、一人で考えない、一つのことだけを深掘りして満足しない、相性が悪そうなものでも考える前から棄却しない、という事は心がけたい。
 

質問力

有効な質問とは、現状をあきらかにし、現状への共感的理解をもたらす質問
 
本書でいう質問は自問も含まれる。トヨタで有名な「5回のなぜ」のようなものだ。質問を繰り返すことで5W1Hに広げていき、顧客の求めるものを考え、解決策を考える。
 
「売り上げが悪い」から「セールだ!!」というような短絡的な解決策を繰り返すような事はこれと正反対の態度だろう。売り上げが悪ければ、なぜ売り上げが悪いのか?なぜその原因が起きたのか?と質問を繰り返すことで問題の本質に迫ることが大事で、それによって破壊的な解決策にたどり着くかもしれない。
 
すこし話は変わるが、講演会や学会に行った時、私は質問に答えることよりも質問することの方が実は緊張する。良い質問は、明らかでないことを明らかにしてさらに理解を深めることができる。答える方は準備しておけば良いが、短い時間で本質的なことを突く質問は難しい。トヨタ式の「なぜ?」という質問は結構使い勝手が良いかもしれない。
 
まあ、twitterなどのSNSで例えれば、真面目にリプライしたのにみんなからクソリプと言われて傷つく、という程度のことなのだが、、、。twitter上で「なんで?」を繰り返してたらきっとブロックの嵐だろうからtwitterではやらないが。
 

観察力

 
観察力から顧客が求めるものを見つけた例が本書でもいくつか紹介されている。
 
インドのタタモーターズでは安い自動車を売るだけでなくその場で車を持って帰るために必要なローンや車の教習を一括で提供することでインドでシェアを伸ばした。会計ソフトや子供用の歯ブラシでも現状の製品に対して顧客が抱えるニーズを解決することからイノベーティブな製品を作り出した。
 
理論だけで深掘っていっても解決策にたどり着けるとは限らない。百聞は一見にしかずで、現場で起こっていることをよく観察することで本当のニーズを把握し、解決策にたどり着くことがある。
 

ネットワーク力

 
ネットワーキングからアイディアが生まれることがある。自分とバックグラウンドが異なる人と交流すると新しいアイディアや考え方が得られるかもしれない。また、他の人と共同で開発を進めていくと他の人の指紋がついてより良いものへと変わる可能性を秘めている。
 
 

実験力

 
新しい経験に挑む、ものを分解する、試作品や実証実験を通してアイデアを試す、という試行を通じて新しい洞察を得ることができる。
 
実験力については最近の本だと「リーンスタートアップ」が有名だが、最低限の機能を持つプロトタイプを通じて改善点を得ながら開発を続ける手法や、開発が行き詰まった時に必要なピボットを成功させるためには数々の失敗などから知見を得ることも重要だろう。
 

現代のイノベーティブな企業

 
上のような気質や能力はイノベーターが秀でているべきものであるが、イノベーティブな人が集まる場所にいることもとても重要なことのようだ。
 
今のイノベーティブな企業というとGAFAに代表される企業だろうか。今はテクノロジー全盛で、ITによって顧客の新たなニーズを掘り起こして新たなビジネスで成功した企業が数多い。世の中の情報に瞬時にアクセスできるようにしたGoogle、インターネットでなんでも手に入る生活をもたらしたAmazon、ネットを通じて人とのつながることを日常にしたFacebook、それらの基盤になるハードウェアを提供するApple。本書出版時点でも卓越した企業だったが、この10年で世界のトップ企業となった。
 
本書では当時の企業の時価総額ランキングと、イノベーティブな企業ランキングが紹介されているが、たしかにイノベーティブな企業の多くが10年経っても成功を収めている。
 
10年前と比べても今はさらにAIやARなどのテクノロジーが注目されている。利用する側、開発する側、あるいは企業に投資をする者にとってもビジネスやサービスの質を量る上で、イノベーションの概念に精通することは必須と言えるだろう。

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