テンプルトン卿の流儀(Lauren Templeton)

Book

テンプルトン財団の創始者であるジョン・テンプルトン卿がその生涯で貫いた主だった投資を甥であるローレン・C・テンプルトン氏が記した本。

バーゲンハンターの買い方

「強気相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち、楽観とともに成熟し、陶酔の中で消えていく。悲観の極みは最高の買い時であり、楽観の極みは最高の売り時である。」

本書に引用されるジョン・テンプルトン卿の有名な格言だ。1939年の、大恐慌の痛みが残る中、これからアメリカが戦争に突入していくという状況で株式市場が12ヶ月で49%も下がるほど冷えこんだ中、テンプルトン卿がとった行動は大方の投資家とは真逆だった。証券取引所の一ドル以下の全銘柄104銘柄をすべて買ったのだ。この投資は功を奏して数年のうちに数倍のリターンを得た。ここで、テンプルトン卿は戦争の中米国の企業の業績は回復するという見通しのもとに、銘柄を分散してリスクを分散して挑んだのである。

 

市場が総悲観になっているときは企業価値にずれが生まれる。テンプルトンはそこに注目していた。

グローバル投資

今でこそ他国の株式市場への投資はごく当たり前であるが、昔は今と比べれば情報も得にくかったし、他国の市場には非効率性も多かったらしい。テンプルトン卿は1960年代の日本に注目した。日本の潜在的な成長と、その時点での評価価値に大きな乖離を見つけたので日本企業への投資を行った。今のように便利なETFがあるわけではないので、日本に投資すると言っても、日本企業の中でも投資適格で成長性が高い企業を良く見分けていたようだ。その後も韓国や中国の成長をよく見極めて大きなリターンを得ている。

 

テンプルトン卿というと、前者のエピソードが良く語られているため、極端なバーゲンセールに手を出して儲けた投資家という印象があるが、本書で語られるテンプルトン卿の投資行動はファンダメンタルズを重視する投資家が見習うべきことは多い。

 

企業の潜在的な成長後の価値を見分けること。
将来の価値と現在の価値の乖離に注目すること。
投資をした際の損失を限定的にするリスク回避。

 

本書でも、具体的に参考にすべき指標として、債務自己資本比率、 純債務自己資本比率EBITDAカバレッジレシオ総債務十二ヶ月EBITDA移動平均比率などが紹介される。また、PERPBRPEGレシオなども価値の判断にはよく用いていたようだ。

 

本書の終盤では債券投資についても少し触れられている。株式市場バブルの崩壊が進んでいくに連れて長期金利の下落による債券価格の上昇が起こりやすいということだ。そして、債券の金利はほぼ確実なリターンを見込める。2000年のITバブル崩壊の時も割高すぎる株式に比べて債券は上昇余地が大きく、金利の変動により長期債は大きなリターンをもたらした。

 

現状の長期金利は大して高くないので長期債の上昇余地はまだまだ小さいだろう。オーバーウェイトするにはもう少し待っても良いと思っている。また、本書の中でテンプルトン卿がとった投資戦略はいつの時代でもかならず勝てるような普遍的なものではないだろう。結局、成功したのはテンプルトン卿がとったバリュー戦略を判断した根拠である将来の見立てが正しかったに過ぎない。それでも、弱気相場や過小評価された市場に大して私達がどのような望むべき姿勢についての教訓が得られる。

 

歴史は繰り返す?

本書で一番印象に残ったセリフはテンプルトン卿のものではなく、作家のマーク・トウェインの以下の引用だ。

 

歴史は繰り返すのではなく、韻を踏む

 

成功した投資家はどうも長生きが多い。テンプルトン卿も95歳まで生きていたし、ウォーレン・バフェットやジョージ・ソロスもかなりの高齢であるが現役の投資家である。むしろ、高齢になるまで市場にとどまり続けることが成功する必要条件なのかもしれないが、、、

 

彼らはその長い投資生活の中でこのマーク・トウェインの言葉通りの現象を見てきたことだろう。加熱しすぎたバブルはいつか弾けるし、どんなに冷えた不況も過ぎ去れば経済活動は戻ってくる(一部の衰退国では当てはまらないことも出てくると思うが。)。大勢の投資家が考えていることはまさに市場の動きと一致していることであり、根拠のない強気や弱気に傾きやすいのが人間の常だと思う。毎回「今回は特別だ」という思いをいだきやすいが、多分毎回皆がそんなことを考えている。自分の能力を生かして常に冷静に環境にとどまることが大事なのだろう。

 

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