人と企業はどこで間違えるのか?成功と失敗の本質を探る『10の物語』(ジョン・ブルックス(著),須川綾子(訳))

 

人と企業はどこで間違えるのか?---成功と失敗の本質を探る「10の物語」

人と企業はどこで間違えるのか?—成功と失敗の本質を探る「10の物語」

 

 

第1章 伝説的な失敗 ─ フォード社エドセルの物語
第2章 公正さの基準 ─ テキサス・ガルフ・サルファー社インサイダー事件
第3章 ゼロックスゼロックスゼロックスゼロックス
第4章 もう一つの大事件 ─ ケネディの死の裏側で
第5章 コミュニケーション不全 ─ GEの哲学者たち
第6章 最後の買い占め ─ メンフィスの英雄、かく戦えり
第7章 二つめの人生 ─ ある理想的なビジネスマンの記録
第8章 道化の効能 ─ いくつかの株主総会にて
第9章 束の間の大暴落 ─ 永遠のホセ・デ・ラ・ヴェガ
第10章 営業秘密の変遷 ─ ダンス、クッキー、宇宙服

ビル・ゲイツが最高のビジネス書と評価した」「ウォーレン・バフェットから受取り、20年に渡って読み返している」というエピソードで有名になったビジネス書。筆者のジョン・ブルックスは1920年生まれであり、本書で取り上げられるエピソードは1960-70年代のものが多い。ビジネスの転換期に起こったエピソードは多くの教訓に満ちあふれている。実際にその頃に活躍していたようなビジネスマンが多くは一線を退いているような前の話ではあるが本書が今に至るまで評価されて新装され翻訳・販売されたのは本書が普遍的なテーマを扱っているからなのだろうか。原版ではエピソードは12に渡っているようだが、アメリカ連邦税法と金本位制については取り扱っていない。欲をいえば、2017年の今、トランプによるアメリカ連邦税法の改革が真っ最中なのと、ビットコインバブルが真っ最中なのでできれば残った2章こそ今読んでみたいと思った。

New colleague

仕事の経験年数が増えるうちに、仕事に取り組む上でコンプライアンスの重視と規範的なありかたを重要視するようになった。つまり、決められたルールは守る必要があるし、他者との競争の中ではルール違反をしてもそれは勝利とは認められない。人を率いるリーダーになる上で倫理的に正しいあり方を目指すことも大事だ。

本書は今流行ってる自己啓発書に比べて実はメッセージはわかりにくい。本書で取り上げられるのは巨額の投資をした一大プロジェクトが大失敗に終わったことや、インサイダー取引、企業談合による価格操作など、当時世間的にもおそらく有名だったエピソードだ。エピソードは記事らしく時系列がわかりやすく示されて誰がいつどのように関わったのかが示される。ただ、事実の記載に凝っているためか、そこから何を伝えたいのかは実はあまり書かれていない。失敗のエピソードを教訓にして学ぶには読者のリテラシーが必要だ。一方で、本書が未だに陳腐にならないのは一時代にしか通用しない一般化でまとめられていないからなのかもしれない。1970年に本書を読むのと2020年に本書を読むのではまた違った教訓が得られるのだろう。

第一章 フォード車がかつてない投資を費やしたエドセルという新車が大失敗に終わったエピソード。エドセルの企画から発売までに時間がかかったうちに市場の好みが変わったりしたことが失敗の原因になった。マーケティングがうまく機能できていなかった。

第二章 テキサス・ガルフ社という会社がカナダで鉱脈を発見した時に会社の人間しかしらない情報を元に株の取引を行ったことで利益を得た人々の話。要するにインサイダー取引が問題となったエピソード。インサイダー取引は法律で禁じられており、会社のオフィシャルなアナウンスが出た後に時間を経てから取引をしなくてはならないし、当事者立ちは軽々しく情報を漏洩してしまえば罪に問われることもある。

第三章 ゼロックスは長い年月をかけてコピー機を売り出し、大発展を遂げた。失敗の話はあまりあるわけではないが、ゼロックスが人間の価値を重視したことで困難な課題を乗り越えたことが紹介されている。起業の理念と難しい目標にもあきらめず立ち向かっていくことの重要性が歌われている。

第四章 証券会社の破綻が起きそうになった時に迅速な対応で銀行から融資を得ることでなんとか救うことができたエピソード。

第五章 GEが関わった、数社が価格談合を行い価格操作していたことの責任を問われた事件。ここでは上司と部下のコミュニケーション不全が認識の互い違いの原因になったことが指摘されている。命令をするときにはウィンクをする、というような独特のコミュニケーションはふとした時に大きな間違いの引き金になりかねない。

第六章 メンフィス出身のピグリーウィグリーストアの創業者が空売りに対応するために自社の株の買い占めを行ったエピソードが紹介されている。買い占めを行ったもののうまく株を処分できず負債を返すことができなかったために創業者のクラレンス・ソーンダーズは大きな失敗をしてしまった。しかし彼はその後も2社も会社を立ち上げ、新しいことに挑戦をしていった。

第七章 パブリックセクターからプライベートセクターに転身したリリエンソール氏のエピソード。お互いのセクターはやはり目的を異にする。会社の使命は株主への利益なのか、人類への利益なのか、パブリックセクターを経験することで民衆への利益を優先する考え方も身につけられるかもしれない。

第八章 株主総会は株主たちの意見を企業に反映させる機会になる。有名なアクティビストたちが各社の株主総会でどのように立ち回っていたかの記録。アクティビスト達の主張は必ずしも企業に取り上げられるとは限らないが、その応対により企業の経営者の本質が見えてくる。

第九章 ニューヨーク証券取引所で起こった大暴落の僅かな数日のエピソード。短期の株式売買に大きな影響を与えるのは心理的要素である。ある日株式が大暴落し、多くの株主が自ら持つ株を投げ打った。株式の取引が多いと当時の処理能力では実際の売買価格とテープで配信される価格に時間差がでてしまっていた。しかし翌日・翌々日にはあるポイントで下値を支える買いがついたことで相場は反転、すぐに暴落の値は元に近づいた。

第十章 転職は個人だけの問題ではない。もともとの雇用主は自社の営業秘密を外に持ち出されるリスクにもさらされる。産業構造が変化していた時代に、同業への転職により裁判を半年もしなくてはならなかったサラリーマンのエピソード。一つだけではないにせよ、軽はずみな発言が訴訟のリスクを高めてしまった。

 

 ・過去を知って未来のことを考える事は大事です。ジャック・アタリ現代社会に深い洞察を与えてくれます。

 

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・こちらもジャック・アタリの本。10年ほど前の本ですが今読むと凄さが分かる。

 

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・ビジネス本としてかなり売れた本。未来の働き方を考えたい人に。

 

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