フォン・ノイマンの哲学(高橋昌一郎)

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現代文明の立役者

「最高の頭脳を持った科学者」といった話題で必ずと行っていいほど名前が上がるのが、本書の主人公のジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann, 1903-1957)だろう。ハンガリー出身のユダヤ人系の科学者で、ナチスによる迫害を逃れ、渡米。その後、原子爆弾の開発を始め、米国の研究所、国防に関する要職を勤めている。

原爆だけでなく、フォン・ノイマンの活動は非常に多岐にわたり、わかりやすい分野で言えば、コンピュータの原理や、経済学のゲーム理論、天気予報の原理などもノイマンが発展させたものだそうだ。本書ではノイマンの幼少期から最期までを伝記としてまとめている。

幼少期のノイマンはハンガリーに生まれ、小さい頃から圧倒的な頭脳を発揮したそうだ。類稀な計算能力、一度読んだだけで本を暗唱できるほどの記憶力。数学は特に得意で10代の頃にはすでに大学院レベルの数学がわかったという。大学では化学が専攻だったそうだが同時に数学の大学院にも入りダブルスクールをこなした。

若い頃からその才能を当代きっての数学者ヒルベルトに認められ、様々な業績を出していった。しかし時代は大恐慌を経て第二次世界大戦に向かう時期であり、ドイツはナチスが政権を握り、ユダヤ人への迫害が強まっていった。そんな折、ちょうどアメリカに新設されたプリンストンの高等研究所に招かれてノイマンは渡米する。当時のプリンストン高等研究所にはアインシュタインを始め、世界の名だたる研究者が集められていたが、その中でもノイマンは最年少の終身教授だったという。

そして、第二次世界大戦の間に始まった原爆開発のマンハッタン計画への関与や、晩年はコンピュータの開発にも深く関わった。初めて米国で作られたコンピュータのENIACの計算はノイマンのアイディアで計算速度5000回/秒を達成したようだが、それをみたノイマンは「私の次に計算が早い機械ができた」と言い放ったという。本気で言っていたのかどうかはわからないが、ノイマンのエピソードとして、「専門外の分野の未解決問題を話を聞いただけですぐに解いた」とか、「ロスアラモス研究所の部屋から出て廊下を歩く間に多くの科学者の質問を解決していった」というような人間離れした問題解決能力が紹介されているので、創造性の無いコンピュータは比べ物にならないくらいノイマンの方が有能だろう。

悪魔の哲学

本書を書いているのは日本人の哲学の教授だからか、原爆の使用に対するノイマンの意見というのは書籍中でも何度も言及されている。ノイマンはマッドサイエンティストとも揶揄されることがあるようだが、それは彼の主義によるものだろう。

”ノイマンの思想の根底にあるのは、科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきだという「科学優先主義」、目的のためならどんな非人道的兵器でも許されるという「非人道主義」、そして、この世界には普遍的な責任や道徳など存在しないという一種の「虚無主義」である。”

本書にはこのようにノイマンの思想についてまとめられているが、ノイマンは原爆を積極的に使用してさっさと太平洋戦争を終わらせようとしたし、冷戦の時代においても米国が軍事力でソ連を上回っている早い段階で核兵器を使用してソ連を壊滅させるべきだといった主張をしたという。天才の考えの妥当性は凡人にはわかるべくもないが、現代の国連安保理でそんな発言をしようものなら猛反発を受けるだろう。

「人間のフリをした悪魔」「最恐の頭脳」など、ノイマンの人道性に対しては批判的な言葉を本書は多用しており、それがサブテーマにもなっている。ちなみに、科学的な点を除いては、ノイマンは社交的で明るい性格だったそうだ。

しかし、この時代は伝記になるエピソードが豊富な科学者が多い。本ブログでもアルバート・アインシュタインリチャード・ファインマンなどの本を以前に取り上げていた。ちなみにどちらもユダヤ系である。先日書評を書いた「交雑する人類」によると、ユダヤ系の人たちは、平均に比べて0.8標準偏差ほど頭がいいそうだ。ネットサーフィンして見ていたらノイマンのIQは190と推定されており、+6標準偏差ほどになる。日本人にわかりやすいように偏差値に換算すると110ほどになりそうだが、全く想像がつかない世界が見えそうだ。

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