シャルリとは誰か?人種差別と没落する西欧(Emmanuel Todd)

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切り裂かれつつある国民

フランスのメディア、シャルリエブドが雑誌上に掲載した、ムハンマドの風刺画への反発から、同社がイスラム原理主義のテロリストに襲撃される事件が起こったのが2015年ごろの事だった。

あの頃は、中東ではイスラム国が台頭し始め、きな臭さを増し、難民の問題が持ち上がり始め、ヨーロッパの各国でポピュリズム政党が勢いを増していった。トランプ元大統領が選挙戦に勝利したのは2016年終わりのことだった。

襲撃事件を受けた後、フランス各地でデモに非常に多くの国民が参加した事が報道された。自由や平等をヨーロッパの中でも重視していると言われるフランスだが、一枚岩ではないし、近年状況も変わってきている。都市部と地方では学歴に差が大きくなってきており、選挙や宗教に対する考え方も異なっていることがデータから示唆されている。また、現代のフランスではイスラム教は人口の何%かを占めるまでに増えた存在である。一方、キリスト教の国であるはずのフランス国内の多くの国民はもはや無宗教に変わりつつある。国内では無意識な差別意識やイスラムへの恐怖からこうしたデモが巻き起こり、こうしたデモへ参加する人々の思想をネオ共和主義と呼ぶ。

本書では以上のようなことがテロの後にデータを元に考察されている。

実際、本書が書かれた後もこうした学歴差や右派・左派の対立は徐々に溝を深めていっているように思われる。米国の大統領選挙では共和党政権が民主党に敗北を喫した際にも、その対立は鮮明だった。フランスでは、2017年に極左政党やら極右政党やらが候補を擁立し選挙戦が注目されたがどちらにも属さないマクロン大統領が誕生した。しかし、次はどうなるかは分からない。本書から数年経過した中でも本書のテーマは近年一貫して重要であり、今後世界の流動性が再び増えてきたときに問題がどのように噴出するだろうか。同じ頃、Ian Bremmer氏の「対立の世紀」なども似たような分断がテーマになっていたが、状況は一向に変わらず、むしろ悪化してさえいるようにも思われる。特に、Brexit、コロナの流行で揺れる現代のヨーロッパで今後行われる政権交代にはぜひ注目したい。

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