ライフネット生命の出口さんが書かれた本。この本一冊に理論的なことがだいぶ詰まっており、非常に参考になる良書。以下、自分の解釈を含めたサマリです。生命保険商品を買う方はどうぞ参考にしてください。
保険商品は金融資産の中でも、予測不可能な損害を被るリスクに備えるための商品の一つである。リスクへの備えとしては、資産を持つこと、保険を契約すること、ヘッジ契約を行うこと、免責契約を行うこと、などの備え方がある。そういった手法の一つである。
保険を考える前にまず、日本が用意してくれているセーフティネットについて考えたい。日本が提供している年金や社会保険、介護保険などは人生で想定外の事態が起こり損害を被りうる状況になった時に力を発揮する。働かなくなった老後の資産、病気になった時の療養費の補助、動けなくなったり介護が必要になった時の費用の補填、万が一死亡してしまった時の遺族に対する補償などがセーフティネットとして存在している。日本は税金などの負担は少ない方ではあるが、そうしたセーフティネットからの給付は中程度にある。そのギャップを埋めているのが国債の存在であり、国家が維持される限り債務を負いつつ負担の代わりをすることができる。セーフティネットとしては、遺族基礎年金、障害年金、傷病手当金、労働保険、生活保護など。また、医療保険、介護保険なども医療費の負担として毎月の給料から天引きされている。ちなみにであるが、著者の意見として、そういった医療・介護のお世話にならないためにも働き続けることは大事であり、定年退職に対して反対の意見がある。定年退職に関しては別に悪くはないと思うが、私も労働(身体や知能を使うもの)を続けることは非常に大事であると思う。
生命保険は社会が提供してくれる補償、つまり、社会保険、公的扶助、社会福祉、公衆衛生などのセーフティネットに対する+αの補完として用いられるものである。本書は生命保険の解説書であるがために、傷害保険(車や火災保険など)に関してはノータッチ。生命保険が役に立つ場面としては、不幸にも早逝してしまうような場合や逆に長生きしすぎた時の生活の資金にする場合である。つまり、自分の生活のため、そして家族が安定して暮らすことができるためのものである。特に掛け捨ての生命保険ではいざというときにレバレッジ(投資した資金に対して何倍もの補償が受けられる)の効果を発揮する。
生命保険、特に死亡保険に関しては3タイプある。定期死亡保険のような一定額を収めるタイプの掛け捨てのものや、養老保険のように、保障期間内には保険金が下りる一方で満期になったら貯蓄された保険金を受け取ることができるもの、また、終身死亡保険のようにレバレッジが低いものの死亡した時にかならず保険金を受け取ることができるものなどがある。1980, 90年代の頃は保険商品の年率も5%以上のものがザラであり、金融資産として投資の対象として活躍をしていたが、現代の日本(本書が書かれたのは2014〜5年ごろの金利0〜0.5%くらい?を元にしている)では保険商品の金利は1%程度であり、養老保険や終身死亡保険のような貯蓄型の保険商品では元本に対してほんの僅かの利益を上乗せした分しか受け取ることができない。このために、現代の金利では生命保険を貯蓄の手段として利用することは勧められない。なので、(生命保険会社を経営する人間である)筆者が勧めるのはライフプランに応じて掛け捨て型の保険をライフステージに応じて検討することである。
生命保険と言っても、どのようなときに保険金を受け取ることができるかは商品によって異なる。死亡保険はわかりやすく、死亡した時に受け取る保険。就業不能保険は仕事ができなくなってしまった時に受け取ることができる保険であり、医療が進歩した現代では長期間補償を受けられることが重要になる。また、医療保険のように入院・手術・放射線治療などが必要になった時に医療費の補填に使えることができるもの(国が用意しているセーフティネットでも特定疾病に対する補償や、高額医療費制度、保険料の7割負担などがあるので、それにさらにプラスアルファしたり、癌のような病気の時に効果を発揮するもの)。こども保険のように子供の教育・生活資金の補助に用いるもの(これに関しては利回りの低さと元本割れリスクが指摘されておりあまり勧められていない。)、個人年金保険のように遺族までも年金を受け取れるものや、介護保険のように今後ニーズが拡大することが予想される者などが紹介されている。
保険商品を買う時の原則として、保険料は手取りの収入の3〜5%以内に抑えることがある。収入・資産は①今日すぐに使うお金は財布の中に、②引き出せばすぐに使えるお金は引き出しやすい形に、③その他の余剰資金は資産として、持つことが考えられる。すぐに必要になるようなお金は通常2-300万円、あるいは年収の半分〜1年分程度である。それが確保されれば、余剰資金は資産として運用することが良いと考えられる(ここまで強くは書かれていないが)。ドルコスト平均法で投資信託をかったり、保険に投資したりなどといった資産運用の方法が考えられる。資産運用をする上での原則として、年利がx%だったときに、元本が2倍になるのに必要な年数がおよそ72/x(年)で計算されるという法則がある。つまり、年利が8%なら9年で2倍、4%なら18年で2倍、20%なら3.5年で2倍になる。上記の保険商品での1%の利率は2倍になるのに72年かかる。(株式の運用利率7-8%、債権の3-5%であればそれぞれ9-10年、15-20年で2倍になる計算)元本を増やす目的で買うべきものではない。そもそも貯蓄性を維持するためには年利として3-4%は確保されるべきであるのに、大きく下回ってしまっている。保険商品はライフステージごとに目的に応じて乗り換えをするべきである。サンクコスト(埋没費用)などの事を考えずに乗り換えるのが正しい利用方法である。乗り換えの際は「ご契約のしおり」などのわかりやすく書かれた解説をしっかり読むことが大事。保険商品はかつては”どれくらいの保険金が下りるといいか”で売られていたが、今は”どれくらい保険にお金を回すことができるか”で選ぶのがベターである。
具体的な運用の方法として、、一人暮らしの場合は死亡保険は特に不要であるが、いざというとき、働けなくなった時の補償が受けられる医療保険や終身保険で貯蓄することが考えられる。ちなみにどちらもレバレッジが低い商品の例ではあるが、いざというときに力を発揮する点で医療保険は貯蓄がない場合に活躍してくれる。
結婚して二人暮らしの場合は、①ダブルインカムであるかどうか、②子供がいるかどうか、によってケースが分かれる。ダブルインカムの既婚者の場合で妻が生活に必要な資金を稼げる場合は一人暮らしの時と基本的な考え方は変える必要が無い。しかし、妻が専業主婦で今後も働かない場合、死亡あるいは労働不能の状態になった時に生活を保証できる商品が必要になり、手厚い死亡保険が必要と思われる。また、子供がいると子供の教育費が必要になり、一人あたりざっくり2000万円程度は必要になってくる。ダブルインカムがあるかどうか、妻の年収によってどの程度の資金が必要になるかを考えて死亡保険金を考える必要がある。どの程度の金額が必要になるかの見積もりも本書には具体的な計算式とともに挙げられている。必要な金額(生活費、教育費など)から保険以外でまかなえる分(政府のセーフティネットの遺族年金や妻の収入)をひいたものが必要になり、5000-1億あると十分なのではないか。筆者は定期死亡保険を利用して必要な保険の金額(生き延びれば生き延びるほど残された人生で必要な金額は減る)を見直していくのが良いのではないか、ということを勧めている。保険金を下げていくことで必要な金額も減っていく。自分のニーズや収入と照らしあわせて選ぶことが必要である。
どの保険商品を買うか、と言うのは実はあまり差はない。それは生命保険は金融庁から厳しく監督されているためで、レバレッジには大して差はない。(最も、保険の一部はセールスの補填に当てられている事を考えると、ネット保険などのほうが有利と思われる。)県民共済などは皆から一律に保険料を徴収するという性格上、若い人間の参入者が多ければ(死亡率が低いために)有利になる。逆に高齢化が進んでいる場合は不安が伴う。保険会社の破綻に関しては多くの金額が保障されることになるが、保障されない部分もある程度出てしまう。それは掛け捨ての保険よりも終身保険(事例では前者が15%程度に対して後者は58%程度)のほうが不利になった例がある。しかし、保険会社の財務はかなり健全であり、金融庁の監督のもと、ソルベンシーマージンを確保する用になっており各社支払いのための余裕を大きく持っているのが現状である。
参考:
(1) 予定利率
(2) 日本人の平均年収の推移:
国税庁HPより作成
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