モメンタムで個別株投資を行うとどうなる?

Finance

2018年は値動きが激しい株式相場が続いています。経済実体は順調ですぐにリセッションが予測されているわけではありませんが、FRBの利上げや米中の貿易摩擦などの影響が世界経済、株式相場に少なからず影響を与え、新興国を中心として資金流出しています。

現在割高と言われるまでに米国株を牽引してきたのはハイテクセクターが新技術を導入して猛烈に成長しているからと言われています。生活必需品を始めとしたディフェンシブ株が売られる中、成長株投資家はまだまだ相場の勢いの恩恵を受けています。

私自身は明確なルールを決めず成長株投資もどきをしたことはありましたが、いちいち相場の変動が気になる上に手がかかるのでやめました。ただ、モメンタムのみを使ったルールを決めた投資法で成長株投資を行っていいリターンが得られないか検証してみました。検証の結果として、上昇トレンドでは高ベータを生かして急激な値上がりが期待できる一方で、下降トレンドではインデックスよりもかなり酷いダメージを食らうというような予想通りの(?)結果が出ました。

後述しますが、今回の結果で成長株投資を否定するわけではありません。値動きの仕方はレバレッジETFにも似ており、ロスカット・ルールやリバランス、債券などの組み合わせによりリスクを抑え高いリターンを得ることができるかもしれません

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シミュレーションのやり方

2018年6月時点でのS&P500採用銘柄のデータを全部取得して、リーマンショック以降で投資した場合のシミュレーションをしてみました。この期間は大きなリセッションはないので成長株にひたすら投資し続けます。投資対象のチョイスは単純で、

1. 毎月S&P500の各銘柄の中で過去12ヶ月のリターンが良かったTOP5(あるいは10, 20)をチョイス。
2. ポートフォリオをそのTOPの銘柄に均等に投資するように入れ替える。

たったこれだけです。市場と共に大暴落はない想定で単純なモデルにしています。

2010年代は成長株投資が花形だった

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チャートは黒がS&P500、赤がTop5銘柄、緑がTop10銘柄、青がTop20銘柄でポートフォリオを組んだときの結果を示しています。上から累積リターン(対数グラフ)、日々のリターン、ドローダウンを示しています。S&Pの年率リターンが12.1%だったのに対して、Top5銘柄は31.6%、Top10銘柄は24.3%、Top20銘柄は20.8%と抜群のリターンです。最終的にTop5銘柄のみに投資し続けていたら元本は8倍になったことになります。

2010年代では、単純な戦略のモメンタム個別株投資(成長株?)はS&P500の指数を上回ることがわかりました。分散投資はインデックスに近づくと言いますが、確かに組み込む銘柄数を増やすほどインデックスに成績が近づいています。5銘柄に集中投資するのが最もリターンがよく、10銘柄、20銘柄に増やすとかえってリターンは減る(インデックスに近づく)現象が見られます。「集中投資の方が儲かる」とは正にこのことでしょう。ただ、リスク(不確実性)は結構高く、ドローダウンもインデックスよりも大きいため、逃げ遅れると危険です。常にドローダウンを観察して、一定水準を超えたらさっさと他の銘柄に入れ替えるほうがベターでしょう。しかも入れ替える銘柄もセクターを変えるなどして組み換え前の銘柄と相関が少ないものにした方が良いでしょう。

この後twitterでもっとさかのぼってシミュレーションをしてくださった方がおり、その結果も見ましたが、リセッションの際にはインデックスを遥かに上回るドローダウンを喰らいます。リセッションのときは株式から逃げて他の国の株式か他のアセットクラス(債券、金など)に逃げたほうが良いと思います。

また、こんなに頻繁に売買を繰り返すと売買コストがそれなりに掛かります。リターンが得られても売買に伴い発生する税金も足かせになります。これはモメンタム投資全般に当てはまることでしょう。

Name CAGR maxDrawdown SharpeRatio
S&P500 12.1 19.4 0.826
Top5銘柄 31.6 31.1 1.150
Top5銘柄 24.3 27.5 1.020
Top5銘柄 20.8 21.5 0.997

ついでに、売買コストを考慮したグラフはこの様になりました。
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売買コストあり(税金考慮していません)

Name CAGR maxDrawdown SharpeRatio
S&P500 12.1 19.4 0.826
Top5銘柄 26.6 33.6 0.971
Top10銘柄 19.8 29.5 0.833
Top20銘柄 16.5 22.2 0.790

ドローダウンにどう対抗するか?

一つは一般的な成長株投資のルールに則る方法です。

成長株投資の王道であるオニールのCAN SLIMの原則は

C = Current earnings
A = Annual earnings
N = New product or service
S = Supply and demand
L = Leader or laggard?
I = Institutional sponsorship
M = Market

すなわち、現在の収益、年間の収益、新商品・サービス、需給関係が良いか?、業界におけるリーダーかどうか?、機関投資家の好み、相場全体の地合いを考慮しろと述べられています。

Market Hack流投資術では以下の10か条が挙げられていました。

・営業キャッシュフローの良い会社を買え
・四半期決算のチェックを怠るな
・業績・株価の動きが荒々しい銘柄と、おとなしい銘柄をうまく使いわけろ
分散投資を心がけろ
・投資スタイルをきちんと使いわけろ
・長期投資と短期投資のルールをまもれ
・マクロ経済を知る
・市場のセンチメントを考慮に入れる
・安全の糊代を持て
・謙虚であれ

このような点に注意するのはやはり必須でしょう。
単純なTOP5のみじゃなくTOP20の中から、高い収益成長が見込める企業を業績、モメンタム、マーケット、バリエーション、EPS成長率、レラティブストレングス、決算などからチョイスする(Market Hack流投資術を参照)ことで少しでも値崩れを防げないか?

怪しい銘柄からはすぐに撤退する

例えば、2018年6月22日時点でNektar Therapeutics(NKTR)は12ヶ月リターンでこそ上位になっていますが、皮膚がんに対する治験で良い結果が出なかったことからボロクソに売られています。損失が拡大する前にもっと前から売るべきでしょう。

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他のアセットクラスに逃げる

他にも、成長株ポートフォリオのリターンあるいはS&P500インデックスそのものが債券や金などの代替アセットよりも振るわなくなればさっさと他のアセットクラスに逃げることでデュアルモメンタムのようなリスクヘッジとリターンが得られるかもしれません。

今回の分析の中ではS&P500の構成銘柄は現時点でのもののみを考慮しています。年間に数十もの銘柄が入れ替わるので、それを踏まえた解析はかなり難しい(すでに合併したりした企業のデータは得にくい)ため、このバックテストは必ずしも正確な数値を教えてはくれません。一応S&P500の入れ替えも考慮してもっと以前からのバックテストもしてみましたが、機会があるときに公開します。

マーケット全体として成長株の展望が見込めそうなときに、ポートフォリオの10-15%くらいならリスクが許容できそうなので成長株投資にもいつかは挑戦してみたいものです。新興企業の分析は面白そうですよね。

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