データサイエンティストが創る未来 これからの医療・農業・産業・経営・マーケティング(スティーブ・ロー)

 

データサイエンティストが創る未来 これからの医療・農業・産業・経営・マーケティング

データサイエンティストが創る未来 これからの医療・農業・産業・経営・マーケティング

 

 

第1章 ビッグデータ時代「大きさ」よりも重要なこと

第2章 やればできる子

第3章 社運をかけて

第4章 観察と洞察

第5章 データサイエンティストの誕生

第6章 データは語るー相関と文脈

第7章 物理学世界に進出するデータ

第8章 行動とデータの陰と陽

第9章 先の長いゲーム

第10章 ビッグデータとプライバシー

第11章 未来ーデータ資本主義

 

本書はビッグデータの時代を作るデータサイエンティスト達と共に彼等の仕事を紹介する。IBMを始めとした企業とその取組みの紹介から、医療、農業、心理学などの分野でデータサイエンスがどのように社会に入り込もうとしているかが取り上げられている。データサイエンス、ビッグデータなどのキーワードに興味があれば最近の事情が見えてきて面白いかもしれない。また、筆者はNew York Timesの記者であり、人物から仕事の記述が読みやすい。

 

本書の中ではDaniel KahnemanThinking Fast & Slowが度々取り上げられる。人間の直感を表す「ファスト思考」と、考えを重ねて結論を出す「スロー思考」をKahnemanは提唱する。その前者こそが人間の頭脳の素晴らしい特徴であり、本書ではコンピュータが目指すものがまさに前者であるという。Daniel Kahnemanは、ファスト思考は些細な問題や日常の問題など、人間は直感的に正しい解答を導くことができるものの勘違いをしやすい欠点があるために、考えて結論に至るスロー思考も大切にすべき、といった論調で述べていたかと思う。現代のコンピュータでは環境の中にあふれるノイズの中で必要な状況を取捨選択するのが困難なために、人間が意識することなく行えている簡単な判断ができないという状況が想定される。そういった垣根を超えることが一つの目標になるという。

 

Facebookの元幹部のジェフ・ハマーバッカーは本書で大きく取り上げられる存在である。優秀なコンピュータサイエンティストであり、Facebook黎明期に様々なシステムを開発した。その後数社を渡り歩き、本書の中ではNew Yorkにあるマウント・サイナイ病院で、医療データの活用のために仕事をしている事が紹介されている。医療データのようなノイズに溢れた世界ではそこから重要な情報を抜き出すことは難しい。しかし現代は優秀なコンピュータサイエンティストがどんどんと医療業界へ入り込み日々研究に明け暮れている。医療データの問題も数年のうちに克服されて、医療にコンピューターベースのDecision Makingが入り込んでくる未来が本書からは伺える。

 

アメリカの有名大学、特にスタンフォード大学などではコンピュータサイエンスへの注目度はひときわ高い。これから先も優秀な人材がこの分野にどんどんと流入していくにつれ、コンピュータサイエンスはどんどん発展していくだろう。そして生活に入り込み、人間の能力にどんどんと取って代わっていくのだろう。ただし、本書の締めくくりは「人工知能専門家と会話する中で繰り返し思い知らされたのは、人間の脳と、人間の一般的知能と呼ばれるものが、いかに素晴らしいかということだ。」とある通り、まだまだコンピュータは人間には及ばない。私達がこれからしていくべきなのは人間の能力でこそ出来ることを考え、実行していくことなのだろう。

 

 

 

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