世界で最もクリエイティブな国デンマークに学ぶ 発想力の鍛え方
- 作者: クリスチャン・ステーディル,リーネ・タンゴー,関根光宏,山田美明
- 出版社/メーカー: クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
- 発売日: 2014/11/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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デンマークはクリエイティビティにおいて世界の中でも評価されている国であり、561万人という少ない人口ながら国際的にも高い競争力を誇る。
世界一幸福度が高いことなどでも知られる。経済、福祉などにおける先進国である。(このサイトはわかりやすい http://epmk.net/ranking/)
GDPも右肩上がりに上昇している(世界経済のネタ帳 より:http://ecodb.net/country/DK/imf_gdp.html)
本書はクリエイティビティが高いことで知られるデンマークの人々を中心にインタビュー形式でクリエイティビティの源泉を探る本である。
冒頭より繰り返し強調されることとしてクリエイティビティとは「既存の枠の限界ギリギリのところで考え、活動する能力」ということであった。
第一の柱としての既存の枠限界ギリギリの所、ということについて。既存のものを追求するだけではいけないのである。時間と労力をかけるからにはプロダクトは他の人にとって価値があるものでは無くてはならない。枠の全くの外のものは文化からの文脈がなさすぎて受け入れられない可能性もある、その絶妙なバランスが重要らしい。クリステンセンの書いたイノベーションのジレンマを始めとする一連の書籍においてひときわ印象深い「創造的破壊」にもつながる考えである。既存の価値を塗り替えるようなものが”クリエイション”に求められるのだろう。音質技術だけを追い求めたSONYの開発したSACD(super audio CD)は高い機械が必要な割にその高音質は誰の耳にも聞き分けができないレベルだった。世の中の音楽再生機器はiPodのようなそこそこの音質だけれど「可搬性」という価値が勝ったのだ。
もう一つの柱としては、クリエイティビティとはイデオロギーではなく、あくまでプロダクトに対して評価されるものだということが重要視されている。どんなに立派な題目や習慣がついていたとしても、プロダクトを生み出さなければそれは何の価値にもならない。むしろ第一の柱は第二の柱の後についてくるものでさえありうると思う。
デンマークという舞台で、登場する人々もほとんど知らないような本ではあるが、「クリエイティビティ」というものが「イノベーション」や「リーダーシップ」とも一体のものであるということが実感されたものだ。個人的には少し印象に残ったのが、先日記事をアップした「Originals」という似たようなテーマを扱った書籍にも書いてあった、「素晴らしいものを生み出す人は多作であることが多い」(逆がどうかはわからないものの。)といったことである。本書は「これから始める」人ではなく、「今クリエイティブな活動をしていて、それを高めたい人」に是非おすすめしたい内容だ。以下は読みながらメモしたアブストラクト。ちなみに本書、結構長いのとインタビューだからなのかコアなアイディアに関しては何回も繰り返しでてきて少し冗長な印象はあった。
クリエイティビティ・・・既存の枠の外で物事を考えるのではなく、既存の枠の限界ギリギリのところで考え、活動することに関わる能力。
クリエイティビティは新たな方法で現実を結びつけて組み合わせ、既存のものの限界にまで踏み出した時に生まれる。既存の枠を外れるギリギリのところへ踏み出すことで達成されるのであり、何もないスペースに飛び出すことで達成されるわけではない。
私たちは一般的に自分の能力の限界に到達して初めてまだ試していないことが有ることに気づく。そしてクリエイティブな人は自分が現在持っている能力の限界ギリギリの所で活動する。
クリエイティブとは能力ではなく、行動のことを言う。つまり、クリエイティビティは現実世界において表現されて初めて意味をもつ。行動する勇気は決定的要因である。あえて即興的に行動し、世界の探検に足を踏み出すことでもっとクリエイティブになれる。勇気をもつとは、リスクを追うこと、失敗を恐れないこと、自分の過ちを認めることが必要である。
想像プロセスにおいては、抑制と解放の間に強い相関関係がある。アイディアを多く出せば出すほど有益なものを見つけるチャンスが増える場合もあれば、抑制や障害は既存のものを越えようとする衝動を生む可能性がある。
クリエイティブは既存の枠の限界ギリギリのところで考え行動することであるが、これまでと違うことを行えばクリエイティブになれるわけではなく、他社にとって価値のある者を生み出さなくてはならない。常に頑張ればいいというわけでもなく、日々の仕事の間のわずかの休憩時間も想像プロセスの重要な要素になったりもする。クリエイティビティの基本要素とは「ブレイクスルー、継続的な行動、進んでリスクを負う意志」にある。そして、仕事を愛することが大切だ。充実感を得るために働いている。たいていは分野の大家のもとで経験を積んだ上で、現状を変えたいという欲求が生まれる。クリエイティブな人はエネルギーに満ち溢れ、優れた集中力、認知能力を備える。優れた直感と評価能力、優れた想像力、奇抜なセンス、繊細な感覚を持っている。そして遊びと仕事、外交的と内向的、謙虚と誇り、男女両面、反抗的と従属的、情熱的と客観的といった両面性を備えているのである。
クリエイティブな仕事に伴う強力なエネルギーや情熱は心から夢中になれることをすることで生まれる。1998年にハーバードレビューにアマビールが投稿した記事ではクリエイティビティは知識、クリエイティブに考える能力、動機が最適な形で相互作用を起こす時に生まれるとされる。
建築家で、ニューヨークでBIGという会社を立ち上げたビャルケによれば、想像プロセスに欠かせない要素とは、まず活力や欲求、意欲的に取り組む勇気、鍵となる価値基準を探す既知のプロセスを利用する能力、物事を新たな形で組み合わせることが重要である。そして他の人の助けは必須である。
クリエイティブな人は既存のものからヒントやアイディアを手に入れる。そしてその価値を増大する。他の人達とは違った角度から考え、行動する。既存のものを新しい形に変身させる。
AQUAのソレンによれば、クリエイティビティには退屈から抜け出す衝動が大事である。そして、価値のある者を生み出すためには努力することが必要である。この世に全く新しいものを生み出した人は存在しない。
ブレイクスルーを得るクリエイティブなテクニックとはなんだろうか?それは仕事にのめり込みすぎず、休止や中断をつくる決まり事やライフスタイルを持つことだろう。これによりクリエイティビティは指摘される。薬物がこうしたクリエイティビティを刺激するかと言うのには賛否両論がある。ただ、クリエイティブな人には反社会性が高い人が多い。頭は良いが、まともとは思えない壮大な考えを持っている人が多い。自然科学の分野では奇抜な人格は淘汰されるためあまり残らない。
クリエイティブな企業文化とは、クリエイティビティの重要性の認識、新たなチャンスを掴み、想像力を発揮すること、新たなアイディアを実現可能な範囲にする。複雑な問題を分析する、明確なビジョンを持った戦略に落とし込む、役に立つアイデア、独創的なアイデア、プロセス中の障害を取り除くこと、個人の能力の違いを理解すること、新たなアイデアや批判を安心して表明できるような居心地のいいクリエイティブな環境にある。そして、新たな課題を設定する勇気や今持っている価値への誇りを持っている必要がある。
クリエイティブな作業空間も作業には大事であり、想像プロセスを促し、鋭い感受性を磨くことで、見聞きしたことを記憶に刻みつける能力を高めることができる。
本書で繰り返し主張されていることは既存の枠の限界ギリギリのところにクリエイティビティはあるということである。まだ存在しないシナリオに動機づけを加え、創造プロセスを促進する。しかし文脈やプロセス、アイデアが伴う必要があり、非現実的であったり、絵空事のようなシナリオでは行けない。たとえば、従来の犯罪ドラマや刑事ドラマの中でも既存のコンセプトの背後に隠された一連のストーリーがスパイスを効かせたりする。既存の枠のぎりぎりの所を見つけるためには市場にいる他の関係者の観察や周囲に漂う新しいトレンド、傾向をかぎとるのが大事で、すでに利用できるものの組み合わせや古い知識と専門知識とを見直すことで得ることができたりもする。
クリエイティビティには勿論情熱、想像力、欲望も必要である。自分の人生を左右するほど興味を惹かれるものに没頭するか、なければ探し続けるのである。
ラカンが提唱した3つの段階として、象徴界(記号・数・秩序・法などの人間が人間らしく生きるための規範や理想)、創造界(自己が分裂することで現れる、象徴会と言語を通じて見つけるもの)、現実界(ほかのすべてのものを起源とするもの)があるが、すべての要素がアイディアのひらめきから実現のプロセスのためにチームには必要である。
アナ・ヘアバトはこの3つの段階を認識→知識→機知というように提唱した。
リーダーと部下は相互の影響しあうような関係になるべきである。活躍をするためにはPeople, Process, Product, Pressureという4つのPが必要。リーダーは部下に対してフレームワークを設定しなくてはならない。
アイディアを爆発させるためには、思考と制約、自由と制限が必要である。多作であることは重要で、失敗してもより多くのアイディアを生むことが素晴らしいものを作り出すことにつながる。
クリエイティビティとは違う考え方や革新的な考え方、適切な考え方を含む。フラットな組織、打ち解けた雰囲気、従業員との距離が近く機能するといったことがそれを促進する。そして多様性を確保することも重要である。集中はかならずしもクリエイティビティとは繋がらず、ADHDはクリエイティビティを刺激するかもしれない。
学校教育の中でもクリエイティビティは注目され始めている。これまでの教育体制を第1世代、これからの教育を第2世代とした時、教育はクリエイティビティを伸ばすものであるべきだ。クリエイティビティは教育で伸ばすことができるものなのである。
私達がすむ不安定な世界では考えるだけではいけない。私たちは自分たちが求める世界の変化の一部とならなくてはならない。そしてクリエイティビティは実現することであり、エネルギーや原動力、情熱がそれを促進する。しかし、既存のものに対する謙虚さも持ち合わせていることが望ましい。
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