先日の記事でもとりあげたが、Bridgewater associatesの創始者、レイ・ダリオの著作のPRINCIPLEである。
本書は人生と仕事についてメインに書かれたもので、投資についてはあまり詳しくは書かれていない。投資についての本も執筆中で数年以内にはレイ・ダリオの投資についての考え方が読めるかもしれないのが楽しみである。
本書は大きくは2つのパートで構成されている。前半部はレイ・ダリオの人生そのものの回顧録。後半は人生の原則と仕事の原則と銘打たれた、レイ・ダリオが大切にしてきた習慣について書かれる。
前半部:レイ・ダリオの半生
半生、といいつつもうすぐ引退するようなのでこれがレイ・ダリオが歩んだ人生の主要なパートと言っても差し支えないだろう。
彼はアメリカ、ニューヨークに生まれた。ジャズミュージシャンの父親を持ち、幼少期より投資を嗜んでいた。大学を経て、ハーバードのMBAを出ている。ドナルド・トランプのようなボンボンに生まれたわけではないけれど、普通にアメリカの学歴エリート、といった感じである。
そこからファイナンスの仕事をしながらBridgewater associatesを設立し、独立を機にBridgewaterをメインに仕事をとってくる。
家族についても少しだけ記載が割かれているが、家族の病気とその克服など、本書の趣旨に関係することに言及があるのみで、どうもあまり書きたくないらしい。アメリカ人というと、自分の半生を振り返るときに結構家族のことについても書くイメージだが、レイ・ダリオはその点で少し違う。特に後半の人生の原則においても家族の話は出てこない。
読んだのが和訳本だからニュアンスの違いはあるものの、終始一貫として失敗も成功も冷静な口調で語るような、非常に冷静な人物像であるような印象をうけた。
失敗から学べ!
半生の振り返りの中でいくつかの失敗事例をとりあげている。そこに共通して伺えることは、不確実性に対してリスクを取りすぎたことにより、大きな痛手を負ってしまったというエピソードである。
なので、そこから学んだこととして、繰り返しリスクに対するマネジメントの重要性が語られる。
“他の人が他の時代に経験したことを理解しておかなくちゃダメだ。さもなければ、そういうことが自分の身に起こる可能性があることがわからない。そして、起こったときには、どう対処すれば良いか分からない。”“許容範囲を超える金額をしなうような1つのかけ、いや複数の賭けでも、してはいけないということを学んだ。”“繰り返し頭に刻み込まれた辛い教訓は何も確かな事はないと言うことだった。”
壊滅的なダメージを経験することは自身の投資スタイルにも強く影響したようだ。確かに、著名な投資家が共通して言うこととして、「とにかく市場で生き残ること」「低いリスクで大きなリターンを得られる行動を取る」などはとても印象深い。
長年に渡りパフォーマンスを上げるということは、長年に渡って負けない、ということの裏返しなのかもしれない。
マシーンが大好き?
レイ・ダリオはマシンという単語を連発する。これも特徴的だな、と思ったのだが、おそらくシステマティックに物事をすすめていく仕組みを作るのが非常にうまいのだろう。
仕事においても、「マシン」を設計してそれらを基に売買の参考にしているようだ。マシンとうまく付き合うことが非常に投資においても役立ったらしい。
また、いち早くコンピュータを導入して、様々な指標を分析したり機械学習したりするのに使っていたようだ。
“時間を超え、どこにでも通用する原則を開発し、テストし、システム化する。”
ただ、マシンに従っているだけではなく、Bridgewaterでは意思決定者による主観的な意見も重要であるし、機械的な分析を2方向から検討(投資のための独自の指標とテクニカルトレンドのフィルターを合わせている)して、マシンの大きな間違いを防いでいるようだ。
昨今のAIブームでは、AIに人間の仕事が奪われる、といったことが様々なメディアで語られているがレイ・ダリオの視点から語られる重要なことは、マシンは設計してやらなければ適切に動かないことや、人間がマシンを活用してやることで飛躍的に処理能力を高めることができる、ということだろう。
マシンに乗っ取られるのではなくて、マシンを利用して可能性を広げられるような、そんな仕事のスタイルを考えていく必要があるのかもしれない。
レイ・ダリオのリーダー像
レイ・ダリオは個人として非常に著名な投資家ではあるが、あくまでBridgewater associatesという企業のトップという立場であり、ヘッジファンドが突出した業績を上げていた。ここは、バークシャー・ハサウェイという名前ではあるものの実質的に非常に少人数で、あるいはほぼ個人の意思決定により最強の投資家として君臨したWarren Buffettと違うところだろう。
Bridgewater associatesでは業務を遂行するための、意思決定のシステムがあり、仕事を円滑に回すための構造がある。
この集団のリーダーに立つ人間として、「シェーパー」という言葉が使われる。
”シェーパーはビジョナリー、実践的思考者、固い決意を持つ人。ビジョンを描きそれを実行する人。人を把握する人。”
これがレイ・ダリオが描くリーダー像なのだろう。進むべき方向を指し示して必ずそこに向かうことができる人間だ。
本書で語られる中で一番の失敗は、Bridgewater associatesの後継者問題だろうか。CEOにふさわしい人材を育てることは非常に難しかったようだ。投資においても、会社の代表としてもトップに立てる人材というのは稀有なものらしい。この業務が彼に残された最後の仕事のようだ。
後半部:人生と仕事の原則
後半部分は前半で語られた人生の中でレイ・ダリオが学んでいった原則の解説で構成される。
本書中に見出しが載っているのでそこでざっと眺められるし、より深くレイ・ダリオの世界に浸りたい人はPrinciples appをゲットすると良いだろう。(ちなみに私はインストールしてない。)
人生の原則は、行動規範とも取れるだろう。非常にレイ・ダリオの性格が反映されているような印象の原則が並ぶ。客観的になること、公明正大であること、というのが根幹にあるようで、目標達成のためのまるで教科書になりそうな内容だ。
仕事の原則は、組織 = カルチャー + 人 = マシン、という考えに基づいた、組織の中のカルチャーの作り方と、人材についての考え方が述べられている。ある程度大きい組織のトップになるようなら、これくらい芯のある考えを持って組織構築をしてほしいな、と思うようなことばかりだ。
こちらでも、冷静なマネージャー的な性格が特に目につく。「熱意が人を引っ張っていく」とか、「思いを口にしたら現実になる」みたいな熱血みたいな要素がほとんどないのが、とてもレイ・ダリオらしい気がした。
項目があまりにも多いので、一つ一つはここでは紹介しきれない。興味がある方はぜひ本書を手にとって読んでいただきたい。
個人的には、後半はあくまで他人の考えであるのでそこまで強い興味がわかずに「ふーん」、とざっと読んでしまったが、共感する部分も多かった。特に、自分が分析的に、客観的に仕事を勧めるのが好きだからなのかもしれない。ただ、あまりにも冷静過ぎて、それについていく人も選ぶだろうな、という気がしなくもない。レイ・ダリオのようなカリスマだからそこで働きたい、という人もいれば、あんな血も涙もなさそうな人間は嫌だ、という人もいるだろうな。という気もする。
レイ・ダリオの性格分析
本書で何回も取り上げられるMBTIという性格診断テストがある。
4つのカテゴリで2つの内どちらかに属するかで2の4乗、つまり16通りに性格を分類するものである。ちなみに、twitterを覗くと、レイ・ダリオはENTPである、ということを本人が述べている。
twitterで普通にリプライとかするんだ。。。と、自分にリプライが来たら嬉しいだろうな、なんて羨ましくも思ったりもするが、とりあえずはそのENTPについて。目標に向かってひたすら前進する、議論好き、などという記述が目立ち、まさしく本書を書いた人物像である。パーソナリティタイプが合致していればまさに目標とするような人物になるようにもかもしれない。
ただ、私自身はINTJ(https://www.16personalities.com/ja/intj型の性格)という結構珍しいタイプだ。ENTJに比べると多分、創造性や不確実性を好むタイプで、自分もそう思う。そして、もしレイ・ダリオの部下だったら、極めて論理的でぶれない様を見て、不機嫌なときにはきっと心の中でこう揶揄するに違いない。「あの、サイ○パス野郎!!!」
投資で成功する人や企業のトップにはそういうタイプが多いと聞くが、彼もまさにその一人なのかもしれない。そして、そういう初志貫徹するその性格こそが成功のカギなのかもしれない。
レイ・ダリオほどドライになりきる必要もないのでは、と本書を読むにつけても思うあたり、真似ごとだけでは自分の原則は形作れないのだろうと思う。
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