グリーンブラッドの魔法の公式の魔力は失われてしまった?

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バリュー投資家は、市場で割安な株を見つけて投資してより高いリターンを得ようとします。証券分析で有名なベンジャミン・グレアムは割安な株を見つけて高いリターンを得ることで成功しました。著名な投資家ウォーレン・バフェットも当初はグレアムの手法そのままに割安な株だけを買っていたようですが、現在のバークシャー・ハサウェイでの相棒であるチャーリー・マンガーに影響され、現在では将来性のある素晴らしい企業をそこそこの値段で買うことが多いようです。同様のコンセプトとして、ジョエル・グリーンブラッドの「魔法の公式」という企業の収益性と割安性に注目した投資方法があります。この本が出版されて10年以上が立ちますが、そのような企業の株式が今も高いリターンを出しているのかどうかを調べてみました。

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私の投資の方針

私の普段の投資の方針としては、株式以外のアセット(債券、コモディティ(あるいはコモディティ関連の株)など)を組み合わせてリスクヘッジをしつつ、株式のリターンをとっていくというような投資の方針です。

ただ、レイ・ダリオが推奨するオールシーズンズ戦略ほどまでは株式割合は減らしていません。それはあくまで期待リターンとしては株式が大きいだろう、というような前提の元で投資をしているからです。

なので1/3程をいわゆる安全資産に移して(今は金鉱株も持っているので同様の効果を期待した資産としてはもう少し多いことにはなりますが。)、残りは積み立ててるインデックスと、その他株式インデックス・個別株で持つようにしています。

できればオプションやCFDで軽くレバレッジをかけたいとも考えているのでなるべく全体のリスク(ドローダウンのリスク)は減らすため、インデックスのセクターとしてはHealthcareやConsumer Staplesが好きだし、個別株もなるべく下落耐性のありそうなバリュー株を選ぶ方針です。

 

そこで個別株のスクリーニングをする際に参考にしているのが、以下の点です。

  • 数年間程度の財務キャッシュフローが安定して高収益
  • 利益に対する株価が割安
  • 売上高やEPSが成長していること

この点については、バフェットが選ぶ企業の特徴:「過去10年安定して成長しており、その間の利益2倍程度になっている」「ROE15%以上」「売上高営業利益率10%以上」「有利子負債は5年分の純利益で返済できる」https://diamond.jp/articles/-/68508)などの条件を参考にしています。

前述したグリーンブラッドの公式は「高資本収益率(EBIT/(賞味運転資本額+純固定資産学))×高利回り(EBIT / EV)の銘柄に投資するとリターンが向上する」)というシンプルかつ強力なものでした。

昨年のStarbucks(SBUX)などはまさに条件を備えた企業のように考えていて、実際に大きく値上がりしていました。(ちなみに私は値上がりする前に売ってしまって後悔してます。)

銘柄スクリーニングをする際に割と本で読んだ情報を鵜呑みにしてスクリーニングをしているので、実際に株式リターン向上につながるのかどうかを検討してみました。

尚、以下は自身の投資の参考にするための分析であり、正確性に責任を持たないと共に投資アドバイスを目的としたものではありません。
データはMacrotrends(https://www.macrotrends.net/)およびYahoo Finance(https://finance.yahoo.com)より取得しています。

魔法の公式は消えてしまった?

S&P500の2019年6月15日時点の株式について、過去15年分の財務諸表(2005年〜2019年)を取得して、各種指標について株価と財務諸表(4連続した四半期の集計などで直近12ヶ月のrevenueなどは計算)を使って算出しています。

決算報告の翌日に株式を購入した場合の1年後のリターンをアウトカムとして、収益性と割安性が一定の基準を満たす企業のリターンを見てみました。比較対象としては収益性と割安性でスクリーニングを行わなかった場合としています。解析はPythonで行いました。

15年分×4の約60回分の決算報告が各企業について手に入ったので、それを使いました。

年次が異なるとPERの判断基準が曖昧になるので、集計は同じ四半期ごとに、PERが高い企業から低い企業を並べて、それを0〜100のスコア付けをするようにしています。他の指標も同様に並び替えを行い、スコアが高いものが優秀(収益率が高い、割安性に優れる、リターンが優れる)であるようにしました。

収益力の指標として、Gross Margin, Operating Margin, EBIT, ROE, ROA, EBIT/EVを採用しています。
割安性の指標としてはPER, PSR, PBR, EBIT/CAPを使用しました。(PEG ratioも使いたかったのですが予測成長率に基づくものなので今回は採用見送り。また、グリーンブラッドの指標をそのまま採用したつもりですが、BSなどからの企業価値、正味運転資本額+純固定資産額の計算があっているか自身がありません。)

以下の箱ひげ図では収益力トップ20%かつ割安性トップ20%で選択した企業のリターンを示しています。

横軸はリターンの相対値を示しており、数値が高い方が高リターンです。異なる期間を集計しているのでリターンの絶対値は示していません。2つの箱ひげ図は全体と、スクリーニングをした株式をそれぞれ示していて、箱ひげ図のboxは第1四分位点から第3四分位点、髭は±1.5 * IQRを示します。緑の三角が平均値(mean)、赤の線が中央値(median)を示します。

高い利回り、高い収益率だからといってリターンは必ずしも増加していません。一番右下のグラフがグリーンブラッドの指標になりますが、魔法の公式はもう魔力を失ってしまったのかもしれません。

一応全体を見渡してみると、PSR低めの企業はわずかに1年後のリターンが良いような傾向があるようにも思えますが、全体を通してスクリーニングとリターンに一貫した結果は見られていません。しかもリスクについても低いとは言えない結果です。

スクリーニングをした企業の中でリターンが良かった企業とそうでなかった企業の指標に差が出ていないかも検討してみたのですが、そちらについても一貫した結果はみられませんでした。

リミテーションがいくつもあるものの、スクリーニング自体を過度に信頼するのは現在の投資環境では危険なのかもしれません。

個人投資家には選択肢がある

もちろん上の2つの指標だけを頼りに投資先を決めるわけではないので今回の結果にあまり悲観的になる必要はないと思います。ただ、より企業を深く見ないと行けないのだと思います。

そもそも、上場企業が公開しているデータはすべからく株価を決定する情報として取り込まれるべきで、明らかな指標でスクリーニングしても同様な結果がでるということはそれだけ米国株の市場は効率的である、という事を示しているようにも思います。

それなら、リターンの向上につながるのは投資した後に予想を超える収益性の向上を企業が達成した時、つまり決算のサプライズをより多く起こせるような企業なのでは、と思います。バフェットがよく言うような、企業を成長させ続ける素晴らしい経営陣とか、ビジネスの内容などがとても重要なのだと思います。

もし個別株を投資する上でそこまで見る気が起きないようであれば、仕事も頑張らなくてはいけない個別投資家にとってはインデックスを選択する方が時間の節約になり平均的なリターンが得られます。自分もそこまで時間があるわけではないですが、ビジネスや会計の勉強にもなるのでほそぼそと個別株の投資は続けていきたいとは思います。

解析は別記事でもう少し細かくまとめようと思います。

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