高金利時にレバレッジファンドが受ける影響を考察する(後編)

Finance
前回の記事では、昔から設定されているレバレッジファンドのリターンを見てみました。高金利の時にレバレッジファンドは金利分の支払いにより、理想的な動きよりもだいぶ大きく下方に乖離することがわかりました。
 
 
今回はレバレッジファンドが実際に年ごとにどの程度下方に乖離したのかをFF金利の推移と共に見ていきます。最後に、S&P500のリターンと比べてレバレッジファンドの成績がどうだったのかを見てみます。
 
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年ごとのレバレッジファンドの下方乖離

毎日少しずつ下方に乖離した分をすべて掛け算して、その下方乖離が年間にどの程度の影響を与えているのかを検討してみます。式で言えば以下の計算をしていますが、近似式なので正確な%が出せるわけではありません。
 
 
乖離幅(%/日) = レバレッジファンドの日次変動(%/日) ー SPYの日次変動(%/日) × レバレッジ
 
 
1年あたりの乖離(%/年) = Π((100 + 乖離幅(%/日))/100)
 
 
例えば、1日に0.02%ずつ乖離すると年間の累積では4%くらい下に乖離するかなぁ、という雰囲気です。あくまで雰囲気です。
 
 
以下の表では年初のFF金利、その年のSPYのリターンと、RYNVX(1.5倍), ULPIX(2倍), RYTNX(2倍), RYTTX(2倍), SPXL(3倍)がどの程度乖離したかをまとめています。レバレッジ倍率が大きければ乖離幅が大きくなるのは当然なのでカッコの中には仮に2倍レバレッジだったらどの程度の乖離なのかの参考値を示してあります。全部配当調整込みリターンです。
 
 
 
期間
FF
rate
SPY
return
RYNVX
(150%)
ULPIX
(200%)
RYTNX
(200%)
RYTTX
(200%)
SPXL
(300%)
1994年
3.00
0.4%
-5.08%(-10.16)
 
 
 
 
1995年
5.50
38.0%
-7.14%(-14.28)
 
 
 
 
1996年
5.50
22.5%
-5.65%(-11.3)
 
 
 
 
1997年
5.25
33.5%
-6.74%(-13.48)
 
 
 
 
1998年
5.50
28.7%
-7.99%(-15.98)
-9.2%
 
 
 
1999年
4.75
20.4%
-5.19%(-10.38)
-6.14%
 
 
 
2000年
5.50
-9.7%
-5.76%(-11.52)
-9.97%
 
 
 
2001年
6.50
-11.8%
-4.93%(-9.86)
-10.4%
-9.5%
 
 
2002年
1.75
-21.6%
-4.33%(-8.66)
-10.6%
-9.53%
 
 
2003年
1.25
28.2%
-2.04%(-4.08)
-2.81%
-3.89%
 
 
2004年
1.00
10.7%
-0.491%(-0.982)
-3.18%
-3.02%
 
 
2005年
2.25
4.8%
-2.17%(-4.34)
-5.55%
-5.07%
-6.03%
 
2006年
4.25
15.8%
-3.66%(-7.32)
-6.94%
-6.91%
-6.94%
 
2007年
5.25
5.1%
-4.74%(-9.48)
-6.63%
-6.46%
-6.42%
 
2008年
4.25
-36.8%
-4.03%(-8.06)
-4.56%
-7.02%
-7.07%
 
2009年
0-0.25
26.4%
-1.37%(-2.74)
-3.51%
-1.72%
-1.7%
-6.25%(-3.125)
2010年
0-0.25
15.0%
-0.919%(-1.838)
-3.52%
-3.23%
-3.08%
0.844%(0.422)
2011年
0-0.25
1.9%
-1.22%(-2.44)
-2.64%
-2.43%
-2.43%
1.12%(0.56)
2012年
0-0.25
16.0%
-1.07%(-2.14)
-3.24%
-5.84%
-5.78%
-4.79%(-2.395)
2013年
0-0.25
32.3%
-1.58%(-3.16)
-2.69%
+1.1%
1.16%
-3.04%(-1.52)
2014年
0-0.25
13.5%
-1.24%(-2.48)
-2.18%
-1.9%
-1.9%
-2.21%(-1.105)
2015年
0-0.25
1.2%
-1.3%(-2.6)
-2.17%
-2.07%
-2.06%
-2.23%(-1.115)
2016年
0.25-0.50
12.0%
-2.1%(-4.2)
-2.53%
-2.86%
-2.85%
-2.68%(-1.34)
2017年
0.50-0.75
21.7%
-2.15%(-4.3)
-3.19%
-3.07%
-3.06%
-3.92%(-1.96)
2018年
1.25-1.50
7.3%
-1.58%(-3.16)
-5.88%
-2.22%
-2.22%
-3.76%(-1.88)
金利が4%以上の時期に赤色マーカー、金利が2%以下の時期に青色マーカーでマーキングしています。
 
 
前回の記事の印象と似ているのは、リーマン後の乖離幅はやはり少なめだということでしょうか。乖離していると言っても数%程度です。一方で、リーマン前は平気で近年の4-5倍程度の乖離を叩き出してきます。感覚的には、金利が4-5%のときは口座を維持するだけで毎年6%くらいは手数料がかかるということですね。比較的金利が低かった2003-4年の頃は今とそこまで変わらない乖離幅なため、やはりリターンは金利に大きく影響されそうです。
 
 
とはいえ、2002年にはすでに金利は低かったのに乖離が大きいのはなぜでしょうか。まさにリセッションの時期であり、相場が荒れていたためでしょうか。本来大して乖離するはずでもないのに、狙ったリターンが得られなかったらショックです。
 
 
各ファンド毎に少しずつ差はありますが、ファンドごとの差はあまり大きくなさそうです。
 

年率のリターンを見てみる

ただ、気づくと思いますが、金利が高い初期は好景気です。S&P500は基本的に右肩上がりのインデックスで、1993年から今年までで2000-2年、2008年のたった4年間しかありません。それ以外の年はプラスになっていることが多く、しかも金利分よりも大きく上がることが多いことがわかります。
 
 
利率が下がり始めるのはリセッションが始まったから、という見方もできます。金利が高い時に大きく株式が値下がりするので2000-1年や2008年はレバレッジETFを持っていたら清算されるレベルの話になりそうです。逆に金利が下がるようなときには下がり切る前にさっさと売り払ったほうが良いかもしれません。
 
 
実際のSPYとULPIXの配当込みリターン(arithmetic)は以下のようになりました。
 
 
 
SPY(%)
ULPIX(%)
1998
28.7
44
1999
20.4
32.2
2000
-9.7
-26.5
2001
-11.8
-32.1
2002
-21.6
-46.5
2003
28.2
55.1
2004
10.7
17.8
2005
4.8
2.8
2006
15.8
23.8
2007
5.1
0.8
2008
-36.8
-67.3
2009
26.4
43.1
2010
15.1
23.5
2011
1.9
-4.4
2012
16
28.3
2013
32.3
68.2
2014
13.5
24.2
2015
1.2
-2.1
2016
12
20.3
2017
21.7
42.8
2018
7.3
10.9
 
 
リセッションのときに持っていると大きなダメージを受けますが、他の時期はリターン自体は高いんですよね。
 
 
ただ、金利が高い2005-2007年のあたりなんかはレバレッジかけてるのにリターンはSPYよりもむしろ低いです。
 
 
2000-2002年の損失は2倍よりも更に拡大しています。
 
 
程度の差はあれど、やはり、レバレッジファンドはリスクは高いもののリターンも高い、ということがわかります。

感想

高金利のときはやはりレバレッジETFはかなりコストが掛かります。景気が良い時で株価が上がり調子なら、コストをふっとばすくらいのリターンが得られますが、中途半端なリターンではむしろレバレッジかけてるほうがリターンが低くなることもあります。低金利でのレバレッジファンドでの運用のイメージで高金利下で運用をすると思ったよりもリターンは良くないかもしれません。目先の大きいリターンに目をくらませて足元の崖から落ちないように気をつけましょう。
 
 
債券のほうは該当するファンドが無いので検討できていないのですが、前回までのシミュレーションと全く違う感想を持ちました。利率が高いと債券をポートフォリオに加えるとシャープレシオ的には不利だったのですが、結局怖いのは株式の暴落によるダメージで、それに備えるという意味では高利率のときに債券を持っておくのは戦略としてはありな気がします。レバレッジかけないもので間に合うならそれでも良いですが、いざ不況になった瞬間はレバレッジを掛けた債券ファンドは劇的な上昇を見せるかもしれません。利上げの最中に持つとどんどんと値下がりしてポートフォリオの足を引っ張りそうですが、いざ金利が5-6%とかまで上がったら債券にも手をだしてみても良いかもしれませんね。
 
 
債券のインデックス自体は債券利率の変動からある程度計算できるので、最近、レバレッジ債券ファンドの値動きを求めて見たりもしました。今後は、債券の値動きの法則、理論上の債券インデックスファンドの価格、かなり時間をさかのぼったレバレッジファンドの値動きシミュレーションなどを経て、最終的には超長期のレバレッジPFのリスク・リターンの考察を予定しています。

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