高血圧治療の基準が代わるかも

アメリカの高血圧ガイドライン

先日アメリカ心臓協会(American Heart Association)が高血圧の新しいガイドラインを出しました。 

2017 Hypertension Clinical Practice Guidelines | Hypertension

こちらのページからフリーアクセスで見れます(英語)

要点としては、以前よりも高血圧と診断する基準を厳しくしますよということと、治療の目標も厳しくなりました。SPRINT試験という有名な高血圧の試験が行われて血圧をしっかりコントロールすることの重要性が最近分かってきたからでしょうか。新しい血圧の基準はこんな感じです。(訳簡易版byカーネル)

  1. 診断:
    a.血圧のカテゴリは以下に分類:
正常(normal): 
< 120/80 mmHg
上昇(elevated): 
120-129/ <80 mmHg
ステージ1高血圧(stage I hypertension)
130-139/80-89 mmHg
ステージ2高血圧(stage II hypertension) 
≥140/90 mmHg
 
         b. 血圧の診断または、降圧薬の調整には家庭での血圧測定が推奨される。
  1. 治療開始
    a. 降圧効果のある非薬物治療は、血圧上昇あるいは高血圧がある患者で推奨

    b. 降圧薬は臨床的な心血管疾患(CVD)がある患者か、10年間での動脈硬化性の心血管疾患(ASCVD)のリスクが10%以上ある患者(ハイリスク)で血圧が130/80 mmHg以上ある場合に推奨。

    c. CVD既往が無く、ASCVDリスクが10%未満の患者では、降圧薬は血圧が140/90 mmHg以上で推奨。

  2. マネージメント
    a. CVD有病者またはASCVDハイリスクの患者では降圧目標は130/80mmHg未満が推奨。降圧目標を130/80mmHgにすることは高リスク以外の患者でも理にかなった目標。

    b. 薬物治療が必要な患者では、サイアザイド、カルシウムチャネルブロッカー(CCB)、ACE、ARBを第一選択薬として推奨。

    c. ステージ2の高血圧の患者で血圧が降圧目標よりも20/10 mmHgよりも高いならば2在併用治療が推奨。

専門用語はあまり理解しなくてもいいですが、健康診断を受けたことがある方々は、日本での基準よりもだいぶ厳しいと感じるのではないでしょうか?

血圧が高い人たちは減塩やカリウム補充、減量、節酒、運動などが推奨されますが、それでも良くならなければ薬での治療が始まります。血圧は薬を飲んだら完全に治るというものではないので一度薬を飲み始めたら基本的には一生飲みます。私が最初によく使う薬だと1錠30円くらい(後発薬は15円くらい)なのですが、毎日飲み続けると1ヶ月で1000円、1年で10000円くらいの薬代と、診察代が一生かかります。それよりはファストフードとかを控えたほうが良いと考える人も多いのではないでしょうか。

Fast Food

日本では?

日本では、ガイドラインは2014年に改定されていて、病気がない人の血圧の基準値は140/90mmHgになっています。健康診断でもこれを超えたり130/80以上の血圧の人たちに指導が入るようになっています。ただ、ここらへんの値はいずれ世界基準に合わせて引き下げられていくと思います。すると、血圧が変わったわけでもないのにある時を坂井に高血圧だと言われる人たちが出てくるはずです。

もちろんそれ自体は医学的には悪いことではなくて、将来起こりうる心臓の病気や脳梗塞のリスクを下げてくれます。ただ、通院や薬物治療をずっとやるのは結構大変。

 

高血圧の治療はどうかわる?

アメリカなんかではだいぶ医療に対する考え方が日本とは違うようです。医療費が高騰していて保険に加入するのも高額なアメリカでは、できるかぎり医療のお世話にはなりたくない人が多いです。日本人はすぐに病院かからなきゃーって言う人が多いのとは違うようです。アメリカではこういった事情からそもそも病気になりたくない、といって予防医療の方向に向かって健康食品とか運動とかが流行っているようです。だから最近はコーラのような清涼飲料水の消費は減る方向に向かい、タバコの消費量も落ち込んでいるわけですね。

ただ、治療の裾野が公式に広がるということは製薬会社にとっては朗報かもしれません。もともとアメリカ人の1/3にいると言われる高血圧の人口は今回の改定でさらに広がる可能性があります。アメリカ人の血圧の分布を見てみると、今回の改訂で高血圧に新たに加わる人を合わせると人口の半分くらいは高血圧になってしまいます。アメリカでは当然健康ムーブメントは続くでしょうし、世界もそれに習って同じムーブメントが続くはずです。

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The Blood Pressure
A tremendous amount of scientific evidence regarding the physiology and physiopathology of high blood pressure combined with a sophisticated therapeutic arsenal...

 

自信の心臓病や脳血管疾患のリスクが知りたい方はこちらをどうぞ。

循環器疾患リスクチェック|国立がん研究センター

 

[1] Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults. JAMA 2017; 318: 2132-2134
[2] A novel risk score to predict cardiovascular disease risk in national populations (Globorisk): a pooled analysis of prospective cohorts and health examination surveys. Lancet Diabetes Endocrinol. 2015; 3: 339-55.

 

 ・血圧関連で、腸内細菌も注目されています。

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・最近流行りのグルテンフリーが必ずしも健康に良いというわけではない話。

 

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 ・医療にまつわるお金の話といえば保険はかかせません。

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