CAR-T治療を開発するAllogene Therapeuticsの分析

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今回もバイオテックスタートアップに注目して見てみます。Allogene TherapeuticsはCAR-T治療という最近注目されているがん治療を開発している会社です。

Allogene Therapeuticsの概要

Allogene Therapeuticsは2017年に設立され、2018年10月11日にNASDAQにIPOしました(Ticker: ALLO)。設立からIPOまでわずか1年というスピードです。2018年11月6日現在で株価は28.35、時価総額は$3.343Bです。Allogene TherapeuticsはCAR-T治療という細胞治療を開発して、難治性/再発性の血液腫瘍(急性骨髄性白血病、前駆B細胞急性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫)や、腎細胞癌、一部の肺がん(小細胞肺癌)の治療を目指しています。16種類ものCAR-T治療の事業ポートフォリオが有るようです。

IPOにスピード感があったのは、すでにCAR-T治療はFDAに認可された実績があること。共同創業者であるDr Arie BelldegrunとDr. David ChangはCAR-T治療の著名な開発者である、ということでしょうか。

Dr Arie Belldegrunはいくつものスタートアップを立ち上げて成功させてきています。特にKite Pharmaは2009年に立ち上げたスタートアップで世界で初めてFDAに認可された悪性リンパ腫に対するCAR-T治療を開発して、ギリアド・サイエンシズに$11.9Bで獲得されました。本人は泌尿器科が専門のようです。Dr. David ChangはBelldegrunとともにいくつかのスタートアップを経験しており、血液腫瘍関連のいくつかの新規薬の開発にも関わっています。

2018年4月に$300Mの投資を受けています。VCや大学、ギリアド・サイエンシズやファイザーなどから出資されているようです。IPOでは$324Mの資金を集めました。

CAR-T治療とは?

CAR-T治療を略さないで書くとChimeric Antigen Receptor T-cell therapyです。専門的なことは省いて書くと、Tリンパ球という白血球を遺伝子工学を使って遺伝子を改変します。こうして編集されたTリンパ球はがん細胞を認識して破壊するという能力を獲得します。そしてこのTリンパ球(CAR-T)を患者さんの体に移植することでがんを治す、という治療です。

Frontiers in Medicine: A Look at CAR T-Cell Therapy

詳しく知りたい方はNew England Journal of Medicineというトップジャーナルに掲載されたレビューを読んでください。

この治療により、今までどんな治療をしても良くならなかった白血病が80%の確率で寛解にいたったという劇的な治療効果が得られました。ただし、一回の治療に5000万円という超高額なコストがかかり更にその上にその他の医療費がかかるということもあり、最初の認可では極々限られた条件で、しかも子供の白血病のみで承認されています。

このスタートアップが開発しているCAR-T治療と、これまでにFDAから認可をとったCAR-T治療との大きな違いは、リンパ球をどこからとってくるかにあります。これまでのCAR-T治療では患者自身の体からとってきた細胞を遺伝子改変して培養するというプロセスをとっていました。これには時間とお金がかかるという欠点があります。時間がかかると重篤な病態の患者さんが治療前に亡くなってしまうリスクもあります。Allogene therapeuticsでは健康なドナーからとってきた細胞に遺伝子改変や細胞培養を行って、患者さんに投与します。これにより治療が必要な方にすぐ治療を提供できること、一人あたりのコストが減少することなどのメリットが生まれます。

ただ、懸念される問題としては、他人の細胞を体の中に入れることで拒絶反応が起こりやすくなる可能性が有ることや、拒絶反応を抑えるための薬物によってCAR-T自体の治療効率が落ちる可能性が有ることでしょうか。検索してみましたがどのようにこの副反応を防ごうとしているのか分かりませんでした。ただ、学会のポスター発表を見てみた限り、もしかすると予測される副作用はあまり強く出ないのかもしれません。

どんな患者が対象になるのか?

Allogene Therapeuticsの開発している製品は多岐にわたりますが、治験に入っているのはまだUCART19しかありません。これはすでにCAR-T治療で効果がある程度期待ができる急性リンパ性白血病を対象とした試験です。現在は安全性を確かめるPhase 1の最中で、来年Phase 2が開始される予定のようです。

ほかにも7つほどの治験が計画されているようです。急性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病、腎細胞癌、小細胞肺癌を対象にした治験と、体からリンパ球を取り除く治療です。これは自己免疫性疾患と呼ばれる疾患が対象になるかもしれません。

米国では、対象となる血液腫瘍は年間数万人が診断されます。腎細胞癌は年間6-7万人、小細胞肺がんは年間20万人程度が診断されます。血液腫瘍はこれらの治療に頼らずとも一定数は根治するし、多発性骨髄腫はほとんどが高齢者なので治療対象となる方は多くても年間に数千人程度です。腎細胞癌も手術で切除できる人もいるので、この治療が必要になる人は一部です。ただ、小細胞肺癌はほとんどが抗癌剤での治療になり、根治が困難な病気で、しかもかなり数が多いのでここが本丸になるでしょう。ただし、高額な支払いが可能な患者は、、、というと市場の推定は難しいです。最大でも年間に数万人が治療を受けられるかどうか、でしょう。

市場サイズ

推定は難しいですが、おそらく1回の治療あたり数千万円程度はかかると思われます。多くて数万人がこの治療を受ける可能性がありますが、下限の推定はできません。ただ年間に数百人程度は治療する見込みが無ければ申請もしないでしょうから、年間$100M-〜$10B程度の売上が達成できる可能性があります。

競合

CAR-T治療はこの10年の医療界で注目された代表的なイノベーションなためか、現在行われている臨床試験、治験は300程度あります。(clinicaltrials.govというサイトで検索ができます。)事実上これらが大きな競合になると思います。見た感じ、中国企業がとても多いです。中国企業というだけでFDAへの参入障壁となる分Allogeneは有利かもしれません。

また、殆どが患者さん本人から細胞を採取するタイプのもののようなので、根本的に異なる治療と考えても良いかもしれません。

臨床試験の段階、成功の見込み

成功するかどうかは、今後の治験次第です。治験が進んでいるものでもまだPhase1なので、Phase1, Phase2が終わる2-3年後には最初のFDAの承認が取れるかもしれません。

8つの治験全部が行われて、結果が出るのには10年近くかかるかもしれません。治験を行うにも膨大な投資が必要です。

ただ、治験で既存のCAR-T治療と同程度の治療成績が得られるのであれば、ネームバリューも有るAllogeneは承認は早いように思います。

会社の価値を考える

予想の売上高がかなりブレブレなので価値の算出もとてもむずかしいです。ただ、Kite pharmaが$11B-で買収されたことを考えても、現在の時価総額の$3B-は大きく化ける可能性があります。ポートフォリオのうち1つでも認可されたら企業価値としては$数B程度はあるはずです。

注意したいのは、アメリカは医療経済にはかなり厳しい国なので治療対象となる患者が多かったとしてもそもそも金銭的な問題で治療が受けられない人がたくさんいる可能性がある、高齢者に治療を行ったとしても余命の延長が結果として短いのであればコストパフォーマンスが悪くて使われない可能性が高い。といった要因は考慮する必要があります。

また、既存のCAR-T治療も癌細胞が耐性を獲得したり、移植した細胞が消滅したりして治療が永続するものではない可能性があるため、様々な問題が今後生じる可能性があります。

個人的には、Allogene Therapeuticsは市場価値が今後一気に上る可能性を感じるスタートアップです。ただ、治験の結果次第ではメガファーマに買収されると思います。

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