デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療を目指すSolid Biosciences社の分析

Medical
今回は医療系スタートアップを分析してみたいと思います。
今回取り上げるSolid Biosciences(Ticker: SLDB)は2013年に設立され、アメリカのマサチューセッツ州に本部をおくバイオテックのスタートアップです。2018年にNASDAQに上場しました。
 
Solid Biosciences
 
Research & Development
https://www.solidbio.com/research-and-development
Solid Biosciences is singularly focused on solving Duchenne muscular dystrophy and meeting the diverse needs of patients, from attacking the underlying cause of the disease to assisting the management of symptoms.
marketrealist.com
Market Realist
https://marketrealist.com/2018/09/solid-biosciences-and-its-focus-on-duchenne-muscular-dystrophy/?source=nasdaq
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デュシェンヌ型筋ジストロフィー

Solid BiosciencesはDuchenne muscular dystrophy(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)を治療するプロダクトを作っています。デュシェンヌ型筋ジストロフィーは遺伝性の筋ジストロフィーというタイプの病気です。筋ジストロフィーを発症すると徐々に筋力が衰えていき徐々に歩けなくなります。進行するとものを持ったり、食事を摂ることも困難になり、最終的には呼吸が停止してしまいます。通常は10歳ごろに歩けなくなり、20歳ごろに呼吸ができなくなります。原因は、筋肉を構成するタンパク質であるジストロフィンに関わる遺伝子の異常です。生まれてきた赤ちゃん3300人に1人が発症して、人口10万人に3-5人の割合で患者がいます。遺伝の仕方は少し特殊で、性別を決めるX染色体で遺伝する伴性遺伝(X連鎖劣勢遺伝)の形をとるため、男性にしか通常は発症しません。(参考:日本筋ジストフィー協会
 
発症率については論文ベースで6000人に1人とも報告されており、有病率は各国の医療事情で寿命が異なるため、10万人あたりの人数でフランスで10.9人、アメリカで1.9人、イギリスで2.2人、カナダで6.1人と報告がありました。
 
 
このような疾患は発症した後に筋肉を再生することは今の技術では困難で、治療をするとしたら遺伝子の異常から治療してあげることが有効と考えられています。しかし、現在でも明確に有効とされる治療方法はなく、ステロイドをはじめ薬を投与してみたり、呼吸のリハビリを行いながら病気の進行を遅らせる程度のことしかできません。医療技術が進歩した現代では呼吸ができなくなっても人工呼吸器をつけることにで長期に生命を維持することはできるようになりましたが失われた筋力は戻りません。
 

Solid Biosciences社のプロダクトについて

 
Solid BiosciencesのSGT-001はdystrophin(ジストロフィン)タンパクの正常な機能を取り戻させます。マイクロジストロフィンという合成したジストロフィンをアデノウイルスを通じて体に導入します。同社はほかにも、筋肉が衰える原因を仲介する物質をブロックするタイプの薬剤(anti-LTBP4)や、スーツタイプのウェアラブルデバイス(Solid Suit)も開発しているようです。
 
SGT-001は現薬物の安全性や有効性を確かめるPhase 1/2のIGNITE DMDという臨床試験を2017年より開始しました。2017年11月、2018年3月に臨床試験がFDAから停止されていますが、現在は再開しており、2019年ごろの初回報告が待たれています。
 
いわゆる希少疾患ではありますが、希少疾患の治療効果を劇的に向上させるオーファンドラッグとしてアメリカやEUから支援を受けておりとても期待されています。
 
競合としてはやはり根本治療を図る他の治療でしょう。日本でもアデノウイルスを使った遺伝子治療を使って異常なジストロフィン遺伝子を修復する方法や、iPS細胞を使った筋ジストロフィーの治療も研究されています。ただ、これらも問題があり、現時点では実用化はされていません。遺伝子導入についてはCRISPER-CAS9などの新しい手法も開発されてきているので有効な手段が生まれればそうした治療を開発するスタートアップも競合になるかも知れません。
 
アメリカの臨床試験のポータルを検索すると、さまざまな薬剤を用いた治験(Tamoxifen、PRO044、Idebenone(Santhera Pharmaceuticals)、P-188 NF(Phrixus Pharmaceuticals, Inc))が出てきます。Sarepta Therapeuticsが去年開始したSRP-5051も遺伝子治療だし、Wave Life Sciencesが今年治験を開始するWVE-210201も遺伝子治療です。競合はいくつかありますが、一番の問題は治験で十分な成果が出るかどうかです。
 

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの市場規模と株価

 
医療コストとしては、病気の重症度が上がるほどコストがあがります。国により医療費は異なりますが、欧米では患者1人あたり2〜5万ドル/年がかかります。かかるコストとしては日本でも大体同じ程度と思われます。
 
上に述べた有病率から、先進国の約10億人のうち3〜5万人が年間にその程度の医療費を消費していることを考えるとデュシェンヌ型筋ジストロフィーのマーケットサイズは年間で、3〜5万(人)×2〜5万ドルで$10-20B程度と思われます。
 
デュシェンヌ型筋ジストロフィーが根治できるのであれば治療により元々かかっていた医療費も減るかも知れません。もし治験が目覚ましい成績をだせば一人あたり数十万ドルかかったとしてもその後の医療費が激減するし、長命を得る期待もあり費用対効果も十分です。そうなるとSLDBの年間売上は$1〜3B程度のケタになる可能性があります。
 
SLDBの現在の株価は$30.53(2018年10月現在)でMarket capは$10.8B-です。理想的に売上があがったとして、PSR 5-7倍程度で考えると現在の株価あたりが適正、ということになります。
、、、となると、SLDBの株価はやや期待されすぎかも知れません。治療が実現すれば素晴らしいことですが、今から株を買っても、新しいプロダクトが無いと大きな利益にはならないかもしれませんね。
 

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