超一流になるのは才能か努力か?

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才能が大事か、努力が大事か?

世の中には、なにをやるにもすぐに上達する人や幼くして驚異的な技術をもつ音楽家やスポーツ選手がいる。一方でスポーツや趣味を始めてもなかなか上手くならずに障壁を感じている人もいるだろう。本書では技術を向上するための「限界的練習」を紹介する。実際、技術というものは漫然と続けるだけでは向上しない。老練のドクターは実は卒業数年の医師よりもパフォーマンスが劣っていることが多いという。絶えず自身の能力を伸ばすような意識的な努力をしない限り能力は伸びない。また、チェスの上手いプレイヤーは必ずしもIQが高いわけではない事など、超一流が必ずしも才能から生まれるわけではなく、明確に異なるのはそこに達するまでに必要だった努力や練習時間だったということも紹介している。(チェスの才能=IQは自明ではないので、個人的には向き不向きを必ずしも否定するわけではないと思うが。)

限界的練習

能力を伸ばす限界的練習とは、一つには目的のある練習である、ということがある。どのようなものかというと、

1.目的のある練習には、はっきりと定義された具体的目標がある
2.目的のある練習は集中して行う
3.目的のある練習にはフィードバックが不可欠
4.目的のある練習には、居心地の良い領域から飛び出すことが必要

つまり、練習を行うときには具体的な目標を立てて小さなステップを積み重ねていくことが大事で、全神経を集中することでやっと進歩できる。また、自分の未熟な点の正確な特定ができるフィードバックが大事。その練習の過程では自らをコンフォートゾーンの外へ追い立てる必要がある。なんとなくやるだけではパフォーマンスを最大限に引き出すことはできないし、成長のためには適切なフィードバックをしてくれる良いコーチをつける必要がある。また、傑出したパフォーマンスのためにはこのような練習を長期間・長時間に渡って続ける必要がある。ドイツの音楽大学に入学したバイオリニストを調査したところ、練習時間と技術には相関があることがわかった。

第一に 、傑出したバイオリニストになるには数千時間の練習が必要であるということ 。近道をした者 、比較的わずかな練習でエキスパ ートレベルに達した 「天才 」は一人もいなかった 。そして第二に 、才能ある音楽家の間でさえも (調査対象は全員 、ドイツ最高の音楽大学に合格している ) 、平均してみると練習時間が多い者のほうが少ない者より大きな成功を収めていたことだ 。

能力を伸ばすために意識する事

高齢で空手を始めて黒帯を目指す人や、30歳からゴルフを始めて全米ツアーを目指すような人が具体的に本書では紹介されている。もちろん世界の本当のトップに立つためにはかなり幼い時期から努力しなくてはいけない分野は多いだろうが、中年くらいの年齢から始めても、伸ばすことで役に立てられる能力はいくらでもあるはずだ。歳をとってるからIT技術はできない、楽器なんて上手くならない、新しい事なんて勉強できない、と後ろ向きになる必要はない。むしろ現代では4,50歳なんて人生半分しか生きていない。残りの長い人生で起こる変化に対応するためにも新しいことを始めるのに遅すぎるということはない。ただし、新しいことを始めるなら限界的練習を意識して効率良く上達するための練習方法を考えなくてはならない。

・優れた教師を見つけ、その指導を受ける
・とにかく集中する
・毎回明確な目標を設定して練習時間を短くする
・三つのF(focus(集中)、feedback(フィードバック)、fix(問題を直す))

教師をつけることは重要だし、自分のレベルに合い能力を伸ばせる教師を選ぶ必要がある。そしてレッスンだけでなく、プライベートレッスンでも限界的練習を意識して行う必要がある。せっかく一大決心をして挑戦をするのなら、その時間を無駄にしないためにも効果的な練習を行うように心がけたい。

大人でも技術を身につけることは出来るはず

本書では、一流の技術に必須なのは才能ではなく努力だという立場を取る。大学の物理学、楽器演奏、チェスなど、本書で取り上げられた「技能」は必ずしも才能に依存している訳ではなく、効果的な努力によりパフォーマンスがあがることが紹介される。大人の習い事が上手くいかない多くの理由が時間がないことを理由にちゃんと技術を磨く時間が取れなかったり、漫然と練習してしまうことにあるのではないだろうか。いろんなことに興味はあるけれどなかなか上達しない、という方は本書を一度手にとってどのように計画したら技術を向上させられるか、ゆっくりと考えてみると良い。

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