レバレッジ毎の最適なポートフォリオ比率を検討する

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レバレッジをかけると最適なポートフォリオ比率は変わるのか?

 
レバレッジETFの分析でもそうでしたが、レバレッジをかけるとその分だけ金利がかかります。金利の支払いをすれば当然リターンが押し下げられます。リスクはレバレッジに比例して上がりますが、リターンは素直には上がりません。
 
金利が3%かかるような時、
レバレッジなしでリターン5%、リスク(標準偏差)10%だった場合、
レバレッジ2倍だとリターン5×2 – 3×(2-1) = 7%、リスク 10×2 = 20%、
レバレッジ3倍だとリターン5×3 – 3×(3-1) = 9%、リスク 10×3 = 30%
と、期待リターンの上昇比べてリスクの上昇の方が大きくなります。
この現象からは、レバレッジをかけるとポートフォリオの効率性(= リターン/リスク)は落ちてしまうと予想されます。
 
トービンの分離定理では、効率的なポートフォリオの構成を見つけたら、そこに無リスク資産を加える事でリスクを調整したポートフォリオが作成できて、それがベストなポートフォリオであると言われます。(トービンの分離定理はROKOHOUSEさんで詳しくまとめられていましたのでこちらを読んでください。)
 
 
ただ、トービンの分離定理では金利がかからない範囲(レバレッジ0〜1倍)ではシャープレシオが変化しないことから正しいといえますが、レバレッジをかけた場合は金利負担によるシャープレシオの低下があるためにポートフォリオの比率を変化させる必要があります。
 
シャープレシオに影響する要素は期待リターン、リスクフリーレート(あるいは2つまとめて超過リターン)、標準偏差になります。本記事での検討では米国株、米国債を検討していますが、JPMAMのデータは日本からみた期待リターンを表にしているため、日本でのリスクフリーレートを0%として計算しています。(日本の国債利回りを参考に。)一方で米国のレバレッジファンドを維持するためにかかる金利は現状で日本よりもコストが高いため、レバレッジに応じてシャープレシオが変化し、最適なポートフォリオがレバレッジに依存して変化する結果になっています。米国視点でドル建てで考えるのであればリスクフリーレートの設定を変更する必要があります(その場合はドル建てでの期待リターン・リスク表を使用する必要があります。)本記事は様々な前提・仮定のもとでシャープレシオを最大化するポートフォリオを探索しています。
 

レバレッジをかけた場合のポートフォリオの効率性を上げるには

 
考え方として、株式(期待リターン 6%、リスク 10%)、債券(期待リターン4%、リスク5%)を考えたときにリターンを上げるには株式が良いですが、債券を混ぜることでリスクを下げることができる、のは感覚的にわかりますよね(共分散とかが関係してきますが、今のところは考えません。)
 
一方で、金利3%で借金をして株式や債券を買った時の期待リターンは、株式(期待リターン3%、リスク10%)、債券(期待リターン1%、リスク5%)になります。これってつまり、債券では借金なしでは効率性が4%/5% = 0.8だったのが借金すると1%/5% = 0.2まで下がり、株式では6%/10% = 0.6だったのが3%/10% = 0.3まで下がったことになります。無借金では魅力的に思えた債券は借金することにより効率の悪い投資に成り下がり、むしろまだ株式の方がマシです。しかしレバレッジを掛けていない状態で購入する資産のほうが魅力的ですよね。もし金利が上がっても期待リターンがかわらないのであればどんどんと効率性は下がり、レバレッジはかけないほうが安心して夜も寝られます。
 
ところで、借金してまでやる投資は効率が悪いよ!というのはいろいろな投資家が警鐘を鳴らすとおり事実だと思います。とりあえずレバレッジをかけて一攫千金を狙うぜ!みたいなのは基本的にはやめた方が良いです。無借金で1000万円拠出できる人に勝つために借金して1000万円を運用したところであまり勝ち目はありません。レバレッジをかけることが合理的になりうるのはよっぽどリスク許容度が高いか、分散投資によって同じリターンをより効率的に得られる時だけだと思います。ヘッジファンドが高レバレッジを掛けられるのは高度な理論と情報を駆使してリスクを落としながら市場からリターンを得ようとしているからで、一般の人がレバレッジを何倍もかけるとちょっとした事で破産します。
 

実際の予測データから考えてみる

実証検討していきましょう。とはいえ、金利によって株式や債券の期待リターンは変わるし、過去データを使うと金利の変動も織り込まなくてはいけない解析になるので訳がわからなくなります。なので、今回はJPモルガン・アセット・マネジメントが公表している今後の長期的な市場予測のデータを元に、適当な金利を想定して、レバレッジを掛けた時にポートフォリオにどのような影響が出るのか、また、その最適な配分を考えていきます。
 
 
このデータだと検討する資産クラスが60個もあって前回の15億回のシミュレーションどころか15京回くらいシミュレーションが必要になりシミュレーションがでたころには私達はとっくにリタイアしているかもしれないので問題を簡単にします。検討対象は米国株式と米国総合債券(為替ヘッジなし、あり)のみとします。
 
(各アセットクラスの期待リターンとボラティリティ(リスク))
アセットクラス 期待リターン(幾何) ボラティリティ
米国大型株式
ヘッジなし
4.0%
18,75%
米国総合債券
為替ヘッジなし
1.75%
9.5%
米国総合債券 為替ヘッジあり
1.5%
3.5%
そもそも期待リターンが低いので金利をかけるメリットも少ないように思いますが、、、とりあえずこれは2018年時点での今後の長期リターン予測なのでこの前提に従いましょう。万一暴落があったりするとその後の期待リターンは上がるかもしれません。為替ヘッジすることでかなり債券のボラティリティが下がることも注目ですね。
 
ポートフォリオを考えるときには各アセットクラスの共分散が関係するため、それも見てみます。為替ヘッジをした債券は株式と負の相関を示すようです。負の相関を示すということは、株式のリターンが高いほどヘッジあり債券のリターンは低いですが、株式のリターンが低いときにヘッジあり債券のリターンが高くなり、リスクを緩衝してくれるということですね。為替ヘッジしないと債券と株式の相関は0.67なので結構高いです。株式が落ちるときについでにヘッジなし債券の価格も下がってしまいそうな数値です。こういった意味では米国株に組み合わせるアセットクラスとしては為替ヘッジをしたものの方が最適なような気もします。一応(株式-ヘッジなし債券)、(株式-ヘッジあり債券)の2パターンで見ていきましょう。
 
(各アセットクラス同士の共分散)
 
株式 ヘッジなし債券 ヘッジ有り債券
株式
1.0
0.67
-0.25
ヘッジなし債券
0.67
1.0
-0.17
ヘッジ有り債券
-0.25
-0.17
1.0
 

株式とヘッジなし債券の組み合わせ

ここからのシミュレーションでは金利2%でシミュレーションしていきます。(多分金利はもっと上がるけど、現時点でのシミュレーションなので。)
レバレッジを1.0倍(無借金)から3.0倍(200%分は借り入れている)まで上げていったときに効率フロンティアがどのように変化するかを示してみました。(クリックするとインタラクティブチャートのサイトに移動します。)
ここで、レバレッジが2倍で、株式:債券を50%:50%で持つ、とは、VOO 25%, SPXL 25%, TLT 25%, TMF 25%で持つイメージです。
 
leveraged simulation
 
緑が1.0倍、黄色が2.0倍、オレンジが3.0倍です。レバレッジを増やすとリターンが上がりますが(点が上の方に行く)、リスクが増えている(点が右の方に行く)ことがわかります。各プロットの上にマウスカーソルを乗せるとその時のリターン、リスク、シャープレシオと株:債券の比重がわかるようになっていますが、債券100%のときは金利負けしてレバレッジかけるとリターンが下がっていっています。レバレッジを1.0から3.0倍まで増やしていったときのそれぞれの最も効率的なポートフォリオ割合(シャープレシオ=リターン/リスク比が高いところ)を比較したのが下の表です。レバレッジを掛けるほど債券は足かせになってしまうのでまだリターンを増やすためにレバレッジを掛けた株式を増やしたほうがマシということになります。分散によるリスク低減効果が効かないため、シャープレシオはどんどんとさがり、非効率的なポートフォリオになっていきます。
 
(各レバレッジで最もシャープレシオが高くなるポートフォリオ)※plot_weightが株:債券の比率を示します
 
 
 

株式とヘッジあり債券の組み合わせ

株式と為替ヘッジした債券を組み合わせた場合はどうでしょうか。
 
leveraged simulation with currency hedged
 
ヘッジした債券は期待リターンが下がるのでさらにレバレッジによりリターンは目減りしていきます。それでも、負の相関があるため、分散によるリスク低減効果はある、といったところでしょうか。各レバレッジに対しての最適なポートフォリオでは、債券は株式と組み合わせることでシャープレシオを高めてくれるため、一貫して債券をオーバーウェイトした方がシャープレシオが上がりますが、リターンが上がらないため、実際には株式の割合を高くする必要があるでしょう。こちらでもレバレッジが高くなると債券の低い期待リターンが重しになり、シャープレシオが下がるという現象がおきます。
 
(各レバレッジで最もシャープレシオが高くなるポートフォリオ)※plot_weightが株:債券の比率を示します

最後に

レバレッジをかけたときの金利負担を考えると、レバレッジをかければかけるほどポートフォリオはリスクが上がりますが、リターンの上昇はマイルドにしか上がりません。もっともこれはあくまで予測値であって、過去10年くらいの金利が低い時期を見ているとレバレッジと効率的なポートフォリオの組み合わせは高いシャープレシオを実現しました。ただ、過去のデータや予測を頼りにすべてを決めるのは危険です。急いでリターンを得たいあまりに過度なレバレッジを掛けると思わぬ打撃を食らうかもしれません。自分の頭で考えて、周りの状況にあった行動をとることはいつの時点でも大切だということでしょう。

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