やり抜く力 GRIT(グリット)(アンジェラ・ダックワース)

 

やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

 

 

このところ注目されているgrit <困難に立ち向かう根性、気概>についての解説書。筆者はプリンストン大学の教授でこの分野の第一人者。アメリカでマッカーサー賞という栄誉ある賞を受賞したことでも注目されたらしい。
 
アメリカ軍の士官学校での入隊直後に行われる合宿は非常に厳しく、高いハードルを超えて入学した精鋭の若者ですらも大勢が脱落してしまうようなハードなメニューを連日こなす必要がある。成績だけみても申し分ないのに、どこにその違いが生まれるのか、というところから、やり抜く力への重要性への認識が高まった。何かを成し遂げる力や一流になるためには「才能」が非常に重要だと思われているが、実はそれにもまして「やり抜く力」は才能を活かす役割と、あらゆる分野で役に立つ力である。
 
「才能」という概念は現実にあるものであるが、過大に評価されがちである。才能ばかりを評価されてしまうと努力しなくなってしまうかもしれない。また、周りからすればその人の努力よりも才能を認めることで自分が楽になるという思いから才能を評価してしまう。しかし実際には一流の人は本当は努力をしている。努力はスキルを伸ばすこと、また、スキルを利用して更に目標を達成する二段階に重要であるという意味で、才能よりも遥かに重要である。一つの目標に向かって努力することが大事なのである。
 
有名な大富豪であるウォーレン・バフェットはかつて、やりたいことのうち、本当に追い求めるべきことはわずかで、25個やりたいことがあった場合5個だけを追って、他の重要度の低いものは諦める、ということを行った。諦めることも大事である。
 
やり抜く力に重要な要素は興味、練習、目的、希望である。やり抜く力自体は生得的に定まるものではなく、鍛えることが可能なものである。横断的に年齢ごとにやり抜く力をグリットスコアで評価したときに、高齢者のほうがグリットスコアが高い傾向があった。年月を減るに連れて人は誠実さや自信、思いやりが向上する。やり抜く力も年齢とともに強くなるものである。
 
仕事において素晴らしい成果を達成するためにもやり抜く力は重要で、特に仕事自体を天職と思えることは満足度の向上にもつながる。ただし、なんでもいいというわけではなく、興味にあっているかどうかは大事。見極めるためにはやらないとわからないし、子供には簡単にはわからない。そして始めたら掘り下げていく。ビギナーとベテランではそもそも見える世界が変わってくるのだ。
 
スポーツの分野などでも漫然と練習するだけでは能力は向上しない。能力の向上のためには現状の自分を伸ばしたストレッチ目標の設定と、そのクリアの絶え間ない繰り返しが必要になる。そのプロセスは楽しいものではなく、一歩一歩すすんで自己を向上させていく。そうしたことができて初めて無意識にできるようになる、フロー体験が生まれる。良い練習とは、明確に定義されたストレッチ目標、完全な集中と努力、すみやかで有益なフィードバック、たゆまぬ反省と改良が合わさったものである。
 
こうしたやり抜く力は、目的が伴うことでも強まる。目的があることで行動へ結びつけることがでる。結果が出なければ無気力にさいなまれることはあるが、結果が出ることで困難に立ち向かう力が身につく。できなかったときにポジティブであることも諦めないことにつながる。
 
子育てでもグリットの考え方は有用に使えると思われる。子供を支援して、また、子供に要求をする親は子供の手助けができるかもしれない。子供がやり抜く力を身につけるために親のあり方は影響する。自ら手本になってあげることや、課外活動を続けさせることはやり抜く力を備えた子供の成長の助けになるだろう。十代の娘二人をもつ母親としての経験も本書では触れられており、必ずしもすべてのことに夢中になるわけではない娘達にやり抜く力をつけさせ、努力を習慣にさせるためにどのように苦労しているかもうかがい知ることができる。

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