ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代(アダム・グラント)

 

ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代 (単行本)

ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代 (単行本)

 

 

新規事業で業績を上げるためには他の人と違ったオリジナリティが必要になる。一般的には成功する人々は特別であると考える人が多いが、必ずしもそうとは限らない、というのが本書のメッセージの中で一番印象的だった。うまくリスクオフをしながら目標に向かって着実に向かっていくということが大事。副題にある通り、誰もが「人と違うこと」ができる時代にける成功の分析。リスクをどのようにマネージメントするのか、アイディアを行動に起こしていくこと、プレゼンテーション、行動を起こす時期、人間関係といった企業のことから、兄弟におけるアイデンティティの差、組織論といった広い範囲に渡り研究が紹介されている。特に個人の話は前半。後半になるに連れて話は他の人も巻き込んだスケールの話になる。起業したいけれどしていない、という人が世の中圧倒的に多いので、多くの人は前半の話の方が気になるのではなかろうか。成功した起業家はみんなSteve Jobs氏のような奇抜で飛び抜けた人ではない、ということを確認させてくれて背中を押してくれるような気分にしてくれる。
 
ワービーパーカー(Warby Parker)というメガネブランドは大学生4人が立ち上げたオンラインメガネブランドである。この会社はメガネをオンラインで低コストで提供しており、近年勢いがある。この立役者たちも全員全力で事業に全生活を捧げた天才的カリスマだったかというと実はそうではない。彼らの起業の初期は学業・就活との両立の道だった。リスクをとり全てを投げ打つことが起業において唯一の道ではない。むしろ本業を続けた人のほうが失敗のリスクは低くなる。成功者、つまり業績を達成する人に共通するのはオリジナリティ(originality)であり、みずからのビジョンを率先して実現させていく人が持つ特性だ。これらの人は既存のものを疑い、より良い選択肢を探す。イノベーションのジレンマで知られるクリステンセンも唱える通り、イノベーションとは古いやり方を撤廃する新しい仕組み(創造的破壊)によってもたらされるものだ。リスクの話は成功と直接的に結びついているわけではない。ただ、リスクオフはむしろ重要なことである。ある分野で危険な行動を取ろうとするなら別の分野では慎重に行動することで全体のリスクのレベルを弱める事ができる。そのため、安心感が生まれ、発揮すべきところでオリジナリティを発揮する自由が生まれる。成功者はリスクを取り除くことにも成功するものである。
 
アイディアはなんでも行動に移せば良いというものではない。自分のアイディアは過大評価しがちであり、他人の評価も重視する必要がある。少ないアイディアを大事に温めるよりはアイディアの数は多ければ多いほどよい。そうであることが良いアイディアを生むことにつながる。大量生産こそが質を高めるためのもっとも確実な道である。(商品の企画などでブレインストーミングが重要視されるのもこのためだ。)評価者は自分以外にも専門家や同じ分野の仲間、パフォーマーなどから広く意見を集めたほうが良い。そして海外での生活などで様々な視点を持っていると良い。専門家は経験が豊富である一方、新しい分野には弱いのが欠点である。
 
コミュニケーションの仕方も人への印象付けがとても変わってくる。あるベンチャーは重要なプレゼンの際にあえて自分の弱点をさらけ出すことで相手の軽快を和らぎ、知的な印象を演出し、信頼性を増すことでよりポジティブな面に注目を得ることができた。プレゼンの際には繰り返しが効果的である。
 
現状に不満をもったときに人々が取る態度は4つある。組織の利益を重視するか、現状をかえるかという面から2×2に分けると、発言する、粘る、離脱する、無視するといった4つにわけられる。行動をするかどうかの時期も人によっては有用で、実行を先延ばしにすることは問題解決に秀でたクリエイティブな人にとっては有益である。アイディアを実現するにあたって先発が常に有利というわけでもなく、じつは先発のプレイヤーの方が失敗率が高くなる。先行者は時代を先取りすぎていることが多く、それが効果的に働くのは特許技術が重要なときやネットワーク効果があるようなときだ。
 
オリジナリティの発揮の仕方も人により異なる。若い時にイノベーションを起こす人は天才物理学者達がそうであるように概念的イノベーションを起こすことがおおい。一方、粘り強く努力する人はこつこつと実績を重ねることで実験的イノベーションを起こす。生涯という長いスパンで見たときには実験的なイノベーションのほうが長続きする。
 
プロジェクトをだれとやるのか?仲間づくりにはゴルディロックスの理論というのがある。ほどほどの適度な状態、という意味である。オリジナルな人は得てして熱すぎる。周囲と上手くやるためにはソフトなメッセージが必要。フロイトによれば、非常に似通っている2者があつまると、僅かな違いが違和感や敵意を生み出す原因となる。類似しているだけでは最後には敵意を産んでしまう。協力は性格の類似でなく、手段の共通が重要なのだ。外部に受け入れられるためにはオリジナルな人は節度ある過激派にならなくてはならない。人間関係については、友である敵であるフレネミーに最も注意をはらうべき。
 
兄弟間での性格の違いは昔からよく研究されているところである。一般に後生まれの子はリスク傾向があり、現状打破をねらう人格になりやすい。自分が生まれたときにすでに兄弟が生まれていたことにより、現状を変える傾向が生まれたり、自分の立場から自分の振る舞いを考えたりするようになる。創造性の高い子供は自分の価値観に従うようになる。これは成長する中でルールにしたがう自己判断を行うことや、道徳的規範を身に着けていくことで形成されていく。
 
組織として、問題解決や賢い判断をするためには独自のアイディアや相反する視点をもつ人が必要である。組織の中の反対派の意見こそ大事にしなくてはならない。組織は専門型・スター型・献身型などにわけられる。同じ情熱や目標に支えられた献身型の組織は強い一体感を産み・団結力を高めるため初期には良いが、伸び悩むことになる。
 
オリジナルな人は決して強くない。感情や自己不信に悩むこともある。こうしたときに不安を感じながらも起こりうる悪い自体を予測しておくことがモチベーションや成果につながる。ネガティブな感情でブレーキをかけることもポジティブな感情で興奮とともに進めていくことも必要で、使い分けがいるのである。

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