21世紀の歴史(ジャック・アタリ)

 

21世紀の歴史――未来の人類から見た世界

21世紀の歴史――未来の人類から見た世界

 

 

筆者は2060年ごろに超民主主義が勝利すると信じている。この超民主主義こそが、人類が組織する最高の形式であり、21世紀の歴史の原動力となる最後の表現である。つまり、それは自由である。

 
超民主主義とは、一国による世界の支配に終止符が打たれ、自由・責任・尊厳・超越・他者への尊敬などに関しては開かれる新たな境地のこと。
 
筆者のジャック・アタリは若干37歳でフランスの元大統領フランソワ・ミッテランの補佐官を勤め、初代の欧州銀行の総裁にもなった人物。人類最高の英知を持つといった評判も多く聞かれる人物。未来予測のような書籍を多く書いているが、筆者のこれまでの人類の歴史や現代社会に対する深い洞察から導かれる内容となっている。
 
 
・飽くなき富を求める資本主義
 
本書は人類の進化から、古代中世近代と歴史を振り返る形から始まる。人類は農耕を始めて、ノマドと定住民の戦いから分化が発達した。そのうち帝国が次々にあらわれては消えた。その中で民主主義や市場が生まれた。西洋では物質的な充実を求めることこそが神に近づくことだという考えが浸透した。これはアジアの代表的な思想である仏教儒教的に通ずる欲望からの自由とは全く異なる。民主主義時代の世界の中心都市は(アテネ→ローマ→)ブルージュヴェネツィアアントワープジェノヴァアムステルダム→ロンドン→ボストン→ニューヨーク→ロサンゼルスと西へと移っている。世界の中心となるためには交易の要であることや金融・保険が発達することが重要で、市場はそれらにより拡大し、個人の富を増やしていく。中心都市は中心都市の移り変わりはそれぞれの都市の衰退と新たな都市の勃興が起こることではあるが、覇権の移り変わりというのは大体は巨大勢力がライバルと戦っている時に得る第三者の漁夫の利のようだ。戦争の勝者とは戦わない国あるいは自国の領土で戦わなかった国だ。
 
中心都市は産業や人材の中心地となる。外国人エリートの受け入れなどは非常に大事であるというが、現在のアメリカが各国から優秀な留学生を受け入れて彼らが活躍しているという事実からも納得ができる。こうしたエリートにより革新的な発明が行われ発達していくのだろう。逆に教育水準が相対的に低下している日本には危機感を抱かずにはいられない。
 

venice

現在のベネチア(Flickrより)

・預言書としての本書の凄さ
本書は2006年に本国では出版されている。つまり、リーマンショックの前の世界からの考察だ。それなのに2017年現在までで話題になった世の中の出来事、社会問題を的確に捉えているのがすごい。リーマンショックが起こる前からアメリカの不動産バブルの危うさを指摘しているし、債務超過体質、イスラムとの戦争による多大な負担、スコットランド問題、LGBTの運動、中国の民主化革命運動、アメリカのナショナリズムなど、かなり具体的に社会問題を捉えている。さすがとしか言いようがない。ただ、BRICsや韓国、新興国に関してはやや過大評価をしていたような印象もある。中国の体制は2023年ごろまでに崩壊しそうとはあるが、習近平率いる共産党の牙城はなかなか崩れそうにない。もちろん、香港の雨傘革命のように、中国でも民主化運動が近年は活発化している。5年後の事は正直わからないかもしれない。
 
・超民主主義、超帝国、超紛争・・・
技術の発展は人々の生活をこれからも劇的にかえていくだろう。人々の移動は進んでいき、クリエイティブな人間が勢力を持っていく。本書はそこからアメリカのナショナリズムの台頭に続く中心都心の移動。民主主義なき帝国の台頭。それに続く様々な勢力との超紛争、そこから残る超民主主義、といったように21世紀を予想する。トランプが政権をとったアメリカのナショナリズムまでは予想の範疇だったようだ。その後のことは分からない。2017年現在はカリフォルニアに本拠をおくIT企業はかつてないほど反映しており、世の中に与える影響は国家規模ともいえる。現在の枠組みがもっと長く続いて世の中をポジティブに変えていくのか、ナショナリズムが様々な国家に広がり、そこから紛争が起こっていくのか、私には分からないがジャック・アタリのような賢明な人々が見ている世界はもっとはっきりしているのかもしれない。
 
2006年に出版された本書はジャック・アタリのその時点での集大成のような位置づけであったらしい。しかし、本書を読んで感銘をうけたのでもっと新しい本にも手を出してみたいとも思った。地政学の本は生もののようで、やはり旬なうちに読むのが良いかもしれない。
 

 ・こちらは2017年に出たジャック・アタリが予測する2030年の世界

drkernel.hatenablog.com

 

・ 地政学を勉強する上で歴史的な背景を知ることもすごくためになる。

drkernel.hatenablog.com

 

 

drkernel.hatenablog.com

 

コメント