素数に憑かれた人たち リーマン予想への挑戦(John-Derbyshire)

Book

数学には未解決の問題がいくつも存在する。中でも有名なのはクレイ数学研究所が1つにつき100万ドルの懸賞金をかけたミレニアム懸賞問題だろう。本書がとりあげるのは、その中の一つ、リーマン予想だ。実はリーマン予想はその1世紀前ですら数学者が注目する未解決問題だった。1900年に行われた数学者会議で当時最も活躍していた数学者であるヒルベルトが取り上げた問題としても知られていた。しかし、20世紀の100年をもってしてもリーマン予想は証明されずに今日に至る。

映画「ビューティフル・マインド」で主人公として取り上げられたジョン・ナッシュも生涯をリーマン予想に捧げた数学者として知られる。当ブログの読者はファイナンスに強い方も多いので、ジョン・ナッシュといえば、ゲーム理論の発展に貢献して、「ナッシュ均衡」というワードを思い浮かべる方もいるだろう。そういえば、リーマン予想に関係する有名な数学者といえばアラン・チューリングもそうだ。アラン・チューリングといえば映画「イミテーションゲーム」の中で、第二次世界大戦中のドイツの暗号の解読に大きく貢献した事実が知られており、人工知能とも関係が強いチューリングテストでも知られるが、チューリングもリーマン予想の世界にも関わっている。話がだいぶ脱線するのでここまでにしておこう。私はどちらの映画も楽しく見たし、ゲーム理論とそれに関係が深い行動経済学も興味深いテーマだと思う。

リーマン予想

それでは、それほどまでに長い間数学者たちを虜にしている(苦しめている?)リーマン予想とは何であるかをみてみよう。

リーマン予想とは以下の命題を指す。

「ゼータ関数の自明でない零点の実数部は、すべて1/2である。」

これを聞いただけで意味がわかる人は本書を読む必要はないだろう。正直、ちんぷんかんぷんである。ゼータ関数、というと遠い昔大学の教養でそんなこともやったなぁ、、、というような印象しかない。ゼータ関数は分数の和(無限級数)を示しているのだが、このゼータ関数に関わるリーマン予想は「素数」というよく知られた数の一群と関係がある。

 

素数定理

リーマン予想と密接に関係するのは素数定理である。素数定理とは、ある数Nまでに存在する素数の数が、単純な式(N / logN)に近似するという内容だ。そして、リーマン予想が正しいとしたら、素数が自然数の中にどのように分布しているのかについての重要な考察が得られるという。

これは私たちが普段コンピュータを使う中で使われている暗号(RSA暗号)とも密接に関わる問題でもある。私たちの通信の秘密を守るセキュリティとリーマン予想は隣り合わせにある。また現代の数学理論の中にはリーマン予想を前提として成り立つものも少なくないようだ。リーマン予想が正しいか、正しくないかは数学界に大きなインパクトを与えることになる。

たった一つの問題にかけた数学者たちの人生

本書は1冊を使ってリーマン予想にまつわる様々な数学の話題と、リーマン予想を解こうと努力してきた数学者たちの生涯が語られる。素数、級数、ゼータ関数、複素数、行列などなど、関わる数学は本書を進めるにつれて世界は広がって行く。わかりやすく解説してくれてはいるものの数学の世界が広がるにつれて難解な内容も増えてくる。ただ、難しさを抜きにして数学者たちがたどっていった足跡をみていくと、リーマン予想の核心どんどんと近づいていける気がしてくる。ゼータ関数自体はただの数列の和でしかないのだが、それが形を変えて色々な世界に現れて来るのは面白い。

ただ、さんざん頭を使って本書を読み終えても、もやもやは消えない。本書の核心であるリーマン予想はそもそもまだ証明されていないからだ。リーマン予想を理解するための数学もなんとなく把握して、リーマン予想がどこまで明らかにされているか、その周辺で何が起こっているかもわかったような気になった。でも、証明されていない以上、いつかリーマン予想は正しくないという結論に達するかもしれない。そう思うと本書は分かったような気にさせられるのに何も語っていないような虚無感も湧いてくる。

数学の未解決問題とはそういうものなのだろう。ヴェールを剥がし続けていってもまだ正体を見せてくれないし、頑張ってきたのにたった一つの間違いで努力が水の泡、というようなしんどい研究生活を多くの数学者は送っているのかもしれない。本書は数学科の大学生向けに書いた、と著者が本文中に書いているが、こうした難しい数学の一分野をそこそこの教養ある人に知ってもらうという意味では面白い本だと思う。Kindle版の注意点としては、ページが画像で記録されているので小さい白黒のKindleではほぼ読めないことに注意して購入いただきたい。

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