スタンフォード大学 マインドフルネス教室

 

スタンフォード大学 マインドフルネス教室

スタンフォード大学 マインドフルネス教室

 

 

筆者は日本に生まれ、アメリカで育ち、大学卒業後、日米の大学で働いたキャリアをもっている。本書ではマインドフルネスについて、大事な点を7点に分けて説明している。筆者のバックグラウンドが内容には色濃く反映されている。日本で暮らした体験、また、母親の日本的な精神はアメリカ的な文化で育った人には馴染みが無い一方で学ぶことも多いのだろう。

 

マインドフルな知能は1. Vulnerability, 2. Authencity, 3. 絆・つながり, 4. 聴く力, 5. 受容, 6. 感謝, 7. 責任によって身につく。

 

マインドフルネスが世の中に大きく広まったのはTIMEが表紙で大きく取り上げた号(Feb 3, 2014)による影響が特に大きい。

 

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Mindfulnessは「ストレスで疲れ切ったマルチタスキング文化に心の集中を見出すサイエンス」として紹介されている。私も当初マインドフルネスってなんだ?禅や瞑想の事を指すのか?と思っていた。定義は明確に本書に述べられているわけではないが、「”マインドフル”な心の状態やあり方を保った生き方」といったように理解しておけば良いだろうか。

 

第1章 念(Mindfulness)

第2章 初診(Beginner’s Mind)

第3章 本当の自分(Authenticity)

第4章 絆(Connectedness)

第5章 聴く力(The Heart of Listening)

第6章 受容(Acceptance)

第7章 感謝(Gratitude)

第8章 義理、人情、責任(Responsibility)

 

筆者がマインドフルネスをスタンフォードの学生に教えるクラスでは、まず着物姿で登場して、日本語で話しかけるという。普段では遭遇しないその状況に対して学生たちの集中は研ぎ澄まされる。コスプレをした教師がわけの分からない言葉をしゃべりだしたらアメリカだけでなく日本でも変人扱いされるだろう。それが妙な説得力だけで人々を変えることができたらそれは宗教である。しかし、筆者は自分の気づきの中、また、様々な偉人の発言を引用し、分析をする。それはSocial Scienceであり、学問として成熟を目指す姿勢を感じる。マインドフルネスの行き着く先は、注意力の向上、衝動性の低下、感情の抑制といった麺であったり、共感・思いやり・親切心を向上させ、繋がりを築くことにも貢献する。ヘルスケアやビジネス、教育の場面で効果が期待できるという。

 

ロジカルな世界に生きるアメリカのエリートは恐らく、日本人が思っているよりも遥かにストレスフルな競争にさらされており、自己主張ができなければレースに負ける。ハードであり、心の余裕を無くしていくのだろう。スタンフォード大学はデザインを取り入れたり、マインドフルネスの講座をもったりと、トップ大学の中でもとりわけ先進的な印象が強い。東洋的な考え方、筆者の場合は日本のバックグラウンドからくる日本的な考え方は奥ゆかしさ、内省(もっと深い意味では「禅」)を用いて精神性を高めていくことに貢献するのだろう。非常に面白い本だと思った。心の持ち方や態度をかえていくだけで自分や他者をより良い方に変えていく可能性に期待できると感じた。

 

以下、それぞれの重要な点について。

 

Beginner’s Mind・・・確信は、弱さ受け入れること。自分のVulnerabilityを受け入れる事で、自分が築いた世界観から他の者へ意識を向けることができる。結果として多様性を身につけられる。そして、弱さを受け入れる勇気、繋がりを身につけられる。Volatility, Uncertanity, Complexity, Ambiguityに溢れた「VUCAワールド」に対応し、リードしていくためには、Vulnerability, Understanding, Connectedness, Adaptabilityが必要だ。そして、相手を受け入れ・理解をし、変化をもたらす。

 

Authenticityとは、自分の統合を目指すもの。ジオテックドームを考案したバックミンスター・フラーや、「葉隠」では自分が一度心だと思って過ごすことがかえって生に繋がったといったエピソードが紹介される。本当の自分を受け入れることで満足感が増す

 

Connectedness。他者との繋がりを感じること、共感を感じて過ごすことはHealthLeadershipを育てることに重要である。

 

The heart of listening。とかく、エリートは自己主張をする能力を重視して伸ばしがちである。しかし、人の話を黙って聞くことから得られることは大きい。また、言外のコミュニケーションは日本人に特有のものであるが、アメリカの論理的、言葉を重視するコミュニケーションと違ったあり方でもある。アクティブリスニングを行うことを重視すると良い。

 

Acceptance。様々な出来事を受容する心を持つことが大事である。望まない結果を得たときにそれを変えようとして頑張るという方法もあるが、仕方がないといった感情で受け入れ、肯定的に捉えることも良い。受け入れることは適応に繋がる。医療の世界でも、森田療法という、自分を受け入れる心理療法は実際に使われている。Alcoholic Annonymousというアルコール依存症の自助団体が提唱する十二のステップも、まず自分を受け入れることから始まる。アクションを生むためにはまず受け入れから始まる。

 

Gratitude。感謝の気持ちを持つことは幸福感、満足度をもたらす。心を静め、心を開き、行動にうつしていく。病気や老いなど、全てを感謝する事は難しいかもしれないが、恐怖を受け入れ、感謝の気持ちを持つことで、恐怖から解放される。

 

Responsibility。特権や資格、地位を持つことと責任を持つことのバランスを取る。日本は義理や人情を重視しがちである。これらは決して無駄なことではなく、広く責任を果たすことにもつながっている。責任を果たすことで自分を変えることができる。

 

本書でもマインドフルネスあふれた人生を送ることを「旅」と表現している。レールの上を走るわけでなく、不安定な世界を受け入れ、先が見えなくても力強くすすんでいくために、マインドフルネスは役立っていくことだろう。

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