過活動膀胱の革新的治療デバイスを開発するAxonics Modulation Technologies

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本記事では、2018年10月31日にIPOを行ったAxonics Modulation Technologiesの分析を行います。おシモの話なので、苦手な方は飛ばしてください。
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Axonics Modulation Technologies

Axonics Modulation Technologies(NASDAQ: AXNX)(以下AMT)は過活動膀胱に対しての医療デバイスを開発するスタートアップで、2018年10月31日にIPOを行い、約$100M-(約110億円)の資金を調達しました。2018年11月19日現在の時価総額は$400M-(約450億円)です。
 
 

AMTが取り組む過活動膀胱

AMTが取り組む領域は過活動膀胱(Overactive Bladder: OAB)という疾患です。OABは膀胱内に尿が十分に貯まる前に排尿してしまう状態で、症状としては尿失禁、頻尿となります。OAB自体は命に関わるような状態ではありませんが、QoL(生活の質)を障害する代表的な疾患の一つです。
 
排泄は人間の基本的な欲求の一つですが、排泄のコントロールができない状態、つまり、尿意を感じたと思っても自分で排尿のコントロールができずに尿失禁をしてしまう、夜中に尿意で何回も起きる、あるいは夜尿(おもらし)してしまうような状態は、大きな羞恥心や不安、うつ状態、不眠などをもたらします。
 
この状態がコントロールできないとおむつなどの対策が必要になります。また、それ自体を恥じて外出から足が遠のいてしまう方も多く経験しています。
 
【参考】OABについて解説した米国の有名病院Mayo ClinicのWebサイト(https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/overactive-bladder/symptoms-causes/syc-20355715
 

過活動膀胱の原因と治療方法

 
原因としては、膀胱にあると考えられています。通常の膀胱は腎臓で作られた尿を貯め、膀胱の容積が一杯になると脳にシグナルを送り、尿意を感じさせます。そして排尿の際に神経を調節して膀胱を収縮させて排尿をします。
 
しかし、OABの患者の膀胱は尿の蓄積量にかかわらず突然収縮してしまいコントロールできない状態で排尿を促してしまいます。原因は神経疾患、糖尿病、多尿、尿路感染症、膀胱の異常、前立腺疾患、便秘、カフェインやアルコールの過剰摂取、加齢による認知障害、歩行困難(トイレに間に合わない)、残尿、などがあります。ただし、特定の原因についてはわかっていないようです。
 
予防策としては、健康な体重を維持すること、運動、カフェインやアルコールの適切な摂取制限、禁煙、糖尿病などのリスク因子の治療、ケーゲル体操のような運動で骨盤低筋群を鍛えることなどがあります。ケーゲル体操は産後のエクササイズとしてもよくやられているようです。
 
OAB発症してしまった後の治療は、予防策に準じた対策や、尿道カテーテルの使用やスケジュールに沿った排尿、おむつなどの薬を使わない治療がまず選ばれます。ただしこれだけで解決する人は決して多くない印象で、内服薬を使用する方も多いです。神経に作用する薬が中心なので、ドライアイや喉の渇き、便秘などの他の生活上の合併症を発症してしまう人もいます。それで治らない人はボトックスの注射(膀胱の筋肉を弛緩させる薬です、ボツリヌス毒素:海外のみ)をしたり、手術を行います。ただし、手術では膀胱を拡張する代わりに排尿のためにカテーテルを挿入したり、膀胱そのものを取り去ってしまうような治療をしますが根本的な解決策ではありません。
 

新しい治療方法:仙骨神経刺激療法(Sacral Neuromodulation)

 

(Axonics Modulation Technologiesより)


その他に考えられている解決策が、膀胱の神経をコントロールしている仙骨神経への刺激をコントロールするという手法です。手術によりデバイスを体内に埋め込み、仙骨神経刺激をコントロールします。実はこのタイプのデバイスはMedtronicがすでに取り扱っています。MedtronicのWebサイトによると225,000人もの患者がすでにこの治療を受けたようです。ちなみに、仙骨神経刺激により便失禁の解消も図れるようです。治療を受けた方のうち約70%が有効と言われています。
 
ただし、Medtronic社の製品の寿命は5年程度で、バッテリーの交換のために手術が必要になってしまうのが大きな欠点です。手術には大きなコストがかかるため、医療費負担は大きくなります。
 
 
さて、実はAMTが開発するデバイスも同様の処置に用いられるものです。上記のMedtronicのデバイスと比べた強みは長持ちすることです。ワイアレス充電の機能を備え、体外から充電をして使用することで15年以上使用することが可能です。
 

過活動膀胱の市場規模と売上予測

 
AMTのWebサイトでは、欧米で1億人がOABに苦しんでおり、4000万人が便失禁に苦しんでいるようです。2000万人はどちらの症状でも苦しんでいます。[1-3]Medtronicのデバイスを使用しているのはそのうちのたった22万人です。AMTのWebサイトでは需要は300万人に及ぶと言われますが、これはOABの中でも2-3%の重傷者のみが治療の対象となることになります。
 
どれくらい市場が取れるでしょうか?まず、OABは50代以降では5%以上が発症しており、60代以降では中程度、重症の症状の方も増えてきます。現状で対象となっているのが1-2%程度であることからもこの最重症の方がメインのターゲットになるはずです。70代頃から増えてきますが、その程度の年齢の方だと平均余命は5-15年くらいの国が多いと思われ、Medtronicのデバイスは1回替えるか替えないかという微妙な年齢です。一方でAMTのデバイスであれば1回埋め込めば終生使用できる方が多いと考えられます。効果が同じ程度であったとしても、法外に高くなければ使用する十分なインセンティブにはなります。
 
過活動性膀胱はアメリカで2020年に年間$82.6B-の支出(約9500億円)が見込まれています。一人あたりのコストは$1925-です。ただ、今回はデバイスを基準に考える必要があります。実は仙骨神経刺激のデバイス治療には$22,970-(約250万円)がかかります[5]。デバイス自体の価格は日本語の文献を見てみたら「100万円以上」との記載がありました[6]。これが22.5万人なので、Medtronicはすでにこのデバイスで2250億円程度は売り上げていることになります。2013年ごろから報告が増えていますから、年商約300-500億円くらいでしょうか。
 
さて、市場環境を見ると、AMTはMedtronicとの戦いを制しないといけないわけです。AMTの現在の時価総額は$400M-(450億円程度)です。Medtronicが同じ商品で年間に売り上げている額と同程度の時価総額しかないということは、相当期待されていません。医療機器界の巨人には勝てない、ということでしょうか?ただし、実際に潜在的な市場を掘り起こすことができれば300万人に治療が適応となり、平均有病年数10年として1年あたり30万人ずつ治療するとすると、世界中では最大で2000億円の市場です。
 
AMTのデバイスはすでにヨーロッパ、カナダ、オーストラリアでは承認されていますが、本丸の米国と、イギリスでは2019年をみこんでいます。このまま行けば承認はおそらくされるだろうと思います。
 
Medtronicとの競合であることを考えて、シェアが取れるかが微妙ですが、承認された上でM&Aされるとしたときの評価額はまず間違いなく現在の時価総額以上にはなるはずです。2000億の売上はあくまで希望的観測としても、現在のMedtronicの製品と同程度に売れるとしたら年商400億円で時価総額は2000億〜3000億程度の評価は欲しいです。テンバガーとは行かないでしょうが、コケなければ数倍程度までは時価総額が上がる期待が持てそうです。記事を書いた現時点ではほとんど売上がありませんが、今後製品が市場に出てきた時の出足が気になりますね。
 
医療機器の会社は比較的、機構や効果がわかりやすいものではあり、IPOではなく、M&Aでexitする会社も多いです。それでもMedtronicなどの巨大企業が買収していない、ということにも注意が必要です。専門家がみて買わない銘柄はそこまで収益率が期待できない可能性もあります。逆に、米国での承認を待ってM&Aで合併されるかもしれません。
 
 
【参考】
[1] American Urology Association (AUA) Guidelines, 2013
[2] Milsom, 2000; Stewart, 2003
[3]Whitehead, 2009; Nelson, 2004; NICE

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