かつてビッグプレイヤーが享受した権力は現代では以前ほどの力を行使しなくなった。民衆の豊かさが向上したこと、移動が容易になったこと、教育水準や意識が変革したことは変化を及ぼす原動力になっており、技術が発展したことで新興のスモールプレイヤーが影響力を広げることが以前よりも急速になった。変わりゆく世界の中で我々自身も意識を変えなくてはならない。
Mark Zuckerbergのブッククラブのリストにも入るベストセラーになった本。文章のストラクチャーはいずれも様々な場面においてビッグプレイヤーがスモールプレイヤーによりその影響力を弱められている例が強調される。確かに、ここ十数年間はテクノロジーの進歩によりロングテールに活躍の場が与えられるようになったことは特筆すべきである。中には当初の期待を裏切って従来の支配的な立場のものをひっくり返すこともある。例示される事はいずれも事実である。ただ、マイノリティがマジョリティを倒そうと反乱を起こすような例は歴史上いくつもあったし、それによりマジョリティの牙城が揺らぐ、といったことは今に始まった事ではない。明治維新のように。アフリカの革命のようにそれらが旧来の体制を全て覆すことにつながる分子になるとまでは思わない。多くのマイノリティはマジョリティの対比として存在することで価値と評価を享受していると思えるものが多い。マイノリティの台頭のパターンやその意義は千差万別であるがゆえに画一的な結論を本書に持ってくるのは難しかったのかもしれないが、結語の段落はメッセージ性が弱く、「我々は変わらなくてはならない」という曖昧な主張に終わっている印象が強い。本書で有益なのは現状を描写した中盤までの内容だろう。そこからどうすべきかといった内容についてはさらに読書を重ね、読者が考え行動していかなくてはならないのだろう。
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筆者のモイセスナイムは中米ベネズエラの政治家として自身も権力を手にした人物の一人である。少なくとも外から見れば。
しかし現代の多くの権力者は以前の世界での権力者と比較すると非常に弱い権力しか持たない。権力の劣化は世界を変えている。現代の戦争においては大規模な軍隊が必ずしも勝利を収める世界ではなくなった。限られたものにしか与えられていなかった力がグローバル化した現代では無数の民衆が得られるようになってきてもいる。
権力は、物理的な力、規範を定める力、情報を伝える(広告)力、報酬を与える力、などにより伝えられる。
過去の世界では権力は巨大な存在に宿るものであった。専門化された職種により構成された信頼おける組織である官僚機構は権力を効果的に行使する存在であった。経済の発展とともにその中のビッグプレイヤーである企業は存在感を増し、その中核は一般の民衆とは大きな格差を作るようになった。Apple黎明期の象徴的な広告ージョージオーウェルの1984年に模したディストピアの支配者に見立てたIBMを小さな個人の力が破壊する、といった表現にも似た変化は現代にもおよんでいる。社会のマイナープレイヤーはビッグプレイヤーの権力とを脅かす存在になりつつある。
現代の人々が享受した3つの革命、すなわち、豊かさ革命、移動革命、意識革命は大きな権力を振りかざすプレイヤーがかつてと同様に権力を行使するためのコストを上げている。人口は増加し、人々はより豊かになり、教育水準が上がったことで統制が困難になった。人々が移動しやすくなったことで属する権力区分を選べるようになった。既存の新聞やテレビなどのメディアなどへの信頼も以前ほど高くはなくなった。
20世紀の後半はかつて権力を振るった帝国が次々に崩壊した。小さな規模の民主国家が次々と独立を果たした。また、国の中でも大政党が政治を支配する構図は見られなくなっており、少数の団体が権力の一部を手に入れ、巨大な権力を阻害する要因になっている。また、政治に介入するものとして、司法の力が及ぶ地域もあれば、個人の革命家が世の中を動かすこともある。
ビジネスの世界も変化を遂げている。かつてのビジネスは巨人が牛耳っていた。しかしビジネスの巨人はかつて程の支配力を弱めており、新興企業の成長が著しい。また、巨大企業を保護する制度が取り払われ、新興企業に望ましい環境が整備される土壌もある。製薬業界でも、創薬のプロセスは研究室レベルの小さな企業が担う事が多くなった。ヘッジファンドは以前と比較しても金融の中で大きな存在になっている。
宗教にしても、新興宗派はメディアや移動の力を通じて新しく信者を獲得している。フィランソロピーでも、新しい財団が各々の考え方に応じて新たな投資を行うようになった。メディアの力を担う団体も変革が起きている。
我々が認識しなくてはならないのは、権力構造が変化していることであり、それらに対する自分たちのあり方を変えなくてはならない。従来のあり方では変わりゆく世界の構造に追従できない。
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