メタ思考とは、一つ上の視点から客観的に見る思考のことである。メタ(meta)という言葉自体が抽象的な概念や高次的な概念を表すのに使われる言葉であり、metaphorとかmetaphysicalとか抽象的な言葉の接頭辞として用いられることもある。メタ思考の対極にあるのが「見たものをそのまま信じる」という姿勢だと思う。わけも分からず、言われるがままに人の言うことを聞くのが当然になっている人は案外多いのではないだろうか。特に相手への強力な忠誠心がある場合や、常識的だと感じているようなことに対しては理性的な思考は弱まる。メタ思考はこうした陥りやすい罠を避けるための一つの方法である。本書ではメタ思考のメリットはこう述べられる。
私たちが成長するための気づき を得られる
思い込みや思考の癖から脱する
気づきや発想の広がりを基にした創造的な発想ができる
情報を与えられるとwhat(何を)、who(誰が/に)、where(どこで)、when(いつ)、how(どのようにして)のような直接的な関係性に注目したくなる。しかし与えられた情報を一旦俯瞰して、why?(なぜ?)に注目するwhy型思考がこの情報の構造を冷静に読み解くのに役に立つ。また、類推、つまりアナロジーを使った抽象化によりメタのレベルに上がり新しい発想を生み出す思考が紹介される。
常にメタ思考が必要ということはないが、玉石混交の情報が入り乱れる現代、人の意見を鵜呑みにする前に自身で解釈することは身を護ることにもなる。フォロワーが多いインフルエンサーの発言、みんなが「いいね」をつける記事などは影響力も大きくつい信じたくなるが、後から間違いだったりとんでもないことだとわかることもある。「こうすれば儲かるよ」のようなブログ記事も多いが、ある条件下(when, who, where, how)での限られた事例に過ぎないのが普通だ。その背景にある原理を理解して、外的妥当性を検討する、または妥当でないならば反証、代案を考えることはサイエンス的思考にも通ずるところがある。
Why型思考
本書に掲載された図がわかりやすい。一旦Whyという根本に立ち返ることで問題の異なる側面が見える、異なる解決法に行き当たるかもしれない。
稚拙な例だが、「最近疫病が流行り始めたから沢山医療資源を用意しなくては」という課題にwhyを繰り返していくと疫病が何を原因として流行り始めたのか、という視点にとって根本の対策をたてられるかもしれない。今では常識だと感じるようなことでも、昔それが明らかになる前はわからなかったことも多くある。例えば、コレラの感染源の知識がなかった19世紀に、状況証拠から水源の対策が重要だということが判明して対策を取って流行を防ぐことができたという事例がある。これはロンドンでの公衆衛生上の有名な事例だが、これもある意味物事を俯瞰することから生まれた成果と言える。
ロジカル・シンキングの本でもwhyを繰り返すこと、so what?を問いかけることは良く勧められることなので物事の本質の迫るのに非常に役に立つ手法なのだろう。ビジネスの場面では、目的化した手段からフォーカスを目的に戻すこと、競合を分析する際に根本的なレイヤーに立ち戻って広い視野での分析が可能になるといった効果が期待される。
アナロジー思考
アナロジーは、本書の中ではこのように説明される
アナロジーとは「パターン認識」の能力とも言えます。パターン認識というのは、複数の個別事象に共通点を見出すこと(抽象化)と、その共通点から、過去の経験や知識とを結びつけて新しい分野における知見を得る(具体化)ことを意味します。
ロジックは思考に連続性をもたらすものだとすれば、アナロジーは少し飛躍して大胆な仮説を立てるのに役立ってくれる。アナロジーの基本は関係性の類似から抽象化することだ。実は世の中にはアナロジーにより生み出されたものがたくさんある。有名な例は、生物が備える特性を人工物に活かしたようなものだろう。鳥の嘴を参考にした新幹線の車両の形など、このような例はバイオミメティクスなどと呼ばれる。アナロジーによる発想は大雑把だという短所はあるが、ロジックからはたどり着かない真のゴールにたどり着く可能性を与えるという長所もある。
アナロジーを使うことにより、自分のビジネスだけでなく、顧客特性やバリューチェーン特性、商品・サービス特性、財務特性、エコシステムのような視点を他者と比較することも可能になる。
メタ思考を身につけるために
本書ではメタ思考を身につけるコツは、以下のように述べられている。
1. 自分にツッコミを入れる
2. 性格悪くなる(疑ってかかる)
3. 共通点を探す
本書には思考トレーニングの例題が34題紹介されているが、これが応用できる場面は一日の中で何回もあると思う。つい考えるのがめんどくさくなっているときこそメタ的な立場に立って自分の思考を組み立てて見るのも良いのではないだろうか。思わぬところにチャンスや落とし穴があることに気づくのではないだろうか。本書で用意されたフレームワークはWhy型思考とアナロジー思考のたった2つだが、これらが自然にできるようになるまでには意識的に練習を積む必要があるだろう。他の著作で「具体と抽象」というタイトルの本も出版されているようだが、ブログなどを見て見る限り、こちらよりももう少し総論的なことが書いてあるようで、そちらも評価が高い。本書は新書ということもあってすんなりよめる反面やや内容が薄いような印象もあるのでさらに深く「抽象」について学びたい人はそちらも読んでみると良いと思う。
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